第5話
「ふんっ!」
机の向かい側にいた伊集院さんは、机に片手をついてこちら側にいる男に向かって蹴りを入れる。
そして俺の前に立ち、男を睨み始めた。
「ぐっ……。くそッ、なぜわかった!」
「ボクの眼は特殊でねぇ。あと、普通に眼がいいんだ。だから空間に歪みが見つけられた。あとは……キミがフラグを立ててくれてたからねっ」
「立てた覚えしかないな……」
俺の方へ振り向きながらそう言う伊集院さん。どうやら俺が見た人影は本物だったようだ。
というかちゃんと鍵を閉めたのにまた不法侵入された。ざるすぎやしないか、この家。
「オォッ!!」
男が雄叫びを上げると同時に、車のハイビームぐらいの光が煌めく人差し指をこちらに向ける。
そしてその指から集束した光が放たれた。
その光線は伊集院さんの頰を掠り傷口ができたが、血が吹き出ることはなく、キラキラと淡く輝く粉のようなものがそこから出てきていた。
呆然としているのもつかの間。男がもう一度光線を撃ってくる。
だが、伊集院さんは魔法陣のようなものが浮かび上がる手のひらを男の方へ向け、光線を無効化させた。
「なっ、えっ!? ま、魔法ってやつなのか……!?」
「流石、前世と同じく物分かりがいい。だけど性格に言えば〝魔術〟だよ。魔法陣を組み立てて魔力をそこへ流し込み――と、そんなこと言ってる場合ではないね。ボクから離れるんじゃないよ、零紫くん!」
男は十本の指をこちらに向ける。その指先は先程と同様に光り始めた。
そしてこの部屋中に光線が入り混じり始める。壁に当たると反射する光線と、そのまま突き抜ける光線があった。
「おい! 俺の部屋を穴だらけにするんじゃねぇ!!」
「部屋の心配よりボクを応援して欲しいんだけどなぁ!!」
伊集院さんは両腕を横に広げ、ドーム状の結界のようなものを発動させて光線を防いでいた。
「この攻撃は大したことない。けど……魔術を説いた瞬間蜂の巣だなぁ」
伊集院さんが顔をしかめる。
「よし、零紫くん! そこにあるナイフを投げるんだ!!」
「っ!!」
耳に聞いた途端、脊椎反射で行動していた。
机の上にあるナイフを掴み、結界の中から男に向かってナイフを投げる。
自分でも後でびっくりした。全く躊躇がなかったことに。
「クソッ」
光線の雨は降り止み、ナイフを光線で弾く男。
「ふぅー……。中々に強いねぇ。だけどもう大丈夫だ。実に単純な異能力だねぇ」
「はっ、そうかよ」
待て待て。
今伊集院さん〝異能力〟って言ったのか!?
い、いやいやまさか。多分魔術の派生した先とかが異能力とか呼ばれるんだろう。
うん、きっとそうだ。魔術もあって、さらに異能力まであるなんてあるわけないだろ……!
「喰らえ、
再びあたりは光線が入り混じる。
だが伊集院さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ぼそりとこう呟く。
「――【
すると結界に当たった光線は跳ね返り、元の場所――もとい男の場所へと全ても戻って行く。
男は光線の向きを上に変え、攻撃をかわした。
「チィッ! だから俺なんかを任命すんなって言ったのによォ……。部が悪いぜ……」
「ふふふ、キミはボクには勝てないよ。大人しくお縄についてもらおうかなぁ」
「生憎、俺はプライドは捨ててるんだ」
それを言い残すと、スゥーッと男が透明になる。
そして、タッタッタッと廊下を歩く音だけが聞こえてきた。
「っ! 零紫くん、追うよ!」
「な、なんで俺まで……」
「ここで敵の組織の元へ返したら、 零紫くんも命を狙われるんだ! いいのかい!?」
「脅しかよ! あーわかったよ! その代わりに夕飯も作ってもらうからな!!」
「ふふっ♪ ボクに惚れちゃったのかい?」
「まだ胃袋を掴まれただけだ!」
玄関へ駆け出す伊集院さんの背中を追いかけ始めた。
くそっ。色々と情報量が多すぎて整理しきれてないぞ!
魔法……じゃなくて魔術。そんでもって、あの男は魔法陣とかが見えなかったから本物の異能力なんだろう……。
ほんっと、この昔からの〝巻き込まれ体質〟が嫌になる。危険なことが起こりそうだと肌にピリッと電流みたいなのが走るようになったくらい俺は事件に巻き込まれてきたからな。
(チクショウ、でもこの痛みはなんなんだ……!?)
ズキズキと頭と眼が痛み、目の前がチカチカとする。思わず片手で目を抑える。
――この時、祐紫自身も、美空も気づいていなかった。
彼の両眼が、心臓が鼓動するかのように、紫色に点滅していることに。
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