第4話
「あ、そうそう。君の部屋の時計が電池切れてて止まってたよ?」
「ああ、後で代えとかないとな……っておい! 何勝手に俺の部屋に入ってるんだ!!」
「あはは〜」
「『あはは〜』じゃない! 全く……」
廊下を二人で歩き、奥の扉を開ける。その先のリビングに着くと、そこにある卓上に豪勢な昼食が置かれてあった。
「な、なんだこれ……」
「ふっふっふ……なんせこれはボク手作り料理だぜぇ?」
「す、すげぇ……。俺も料理するから分かるが、お前の実力は相当だな……」
「ドヤァァア! 褒め称えよッ!!」
自分で擬音を言い、鼻を鳴らしながら胸を張る伊集院さん。
「そう言われると褒めたくなくなるんだよなぁ」
「なんでだよ! ま、とりあえず冷めないうちに食べよう。話は食べながらって言うことで」
「色々と突っ込みどころがあるが……まぁ、そうする事にするか。折角作ってくれたんだし粗末にするわけにはいかない」
手洗いうがいをした後、俺は椅子に座り、食事を始めた。
伊集院さんが作った昼食はとても美味しく、うまいと思わず呻いてしまった。
「とりあえず、伊集院さんに色々と聞きたいことがある」
昼食をもぐもぐと食べながら、机を隔てて座っている伊集院さんに問い始めようとする。
「ほほう、何が聞きたいんだい? ボクの胸のサイズ?」
「いらん」
「本心は?」
「…………。い、いらん」
「なんてわかりやすい間と動揺だ。ちなみに、こう見えてもボクは着痩せしやすいタイプなのさ。なんと実は! い――」
「バババッ、バカッ!! 本当に言うやつがいるか!?」
「にひひ〜! 本当に零紫くんは面白いなぁ〜」
全く、人のことをからかいやがって……。
マグカップを口につけ、そこに注がれたコーヒを一口飲む。
このコーヒーもかなり美味い。俺の家のものじゃないらしいので、今度どこの豆を使ってるか聞いてみるとしよう。
「ふぅ……。まず聞きたいこと一つ目、どうやって俺の家がわかった」
「はむはむ……。そんなのチョチョイのチョイっと調べれば分かるよ」
飯を口に放り込み、それを飲み込んでから俺の質問に答え始める伊集院さん。
「チョチョイのチョイで住所特定されるとは到底思えないんだが?」
「だから言っただろう? ボクは今、特殊な環境下にいる。だからキミの個人情報も丸裸さ。例えばそうだなぁ……PCのカモフラージュされたフォルダ、まあ……あれだ、男の子だから仕方ないけど、キミはああゆうプレイが――」
「あー! あー!! 何にも聞こえな〜〜い!! 新手のス○ンド使いの仕業だ――ッ!!」
お、オーケー……。とりあえず伊集院さんに俺の情報がダダ漏れしていることはよ〜くわかった。
あと伊集院さんも顔をポッと赤く染めるんじゃない。こっちの方が恥ずかしいんだぞ。
「じゃ、じゃあ次の質問に移ろうか……」
「零紫くん、手が痙攣してコーヒー溢れそうだけど――大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないといえば嘘になるが、大丈夫だ」
「つまり大丈夫じゃないじゃないか」
切り替え大事ってやつだ。
一応中学は運動部に入っていた身だからこういうのは得意……の、つもり。
「はい、二つ目! どうやって俺の家に入った」
「ん」と、たった一文字で返事されたと思うと同時、伊集院さんは何かをポケットから出して机の上に置いた。
それは鍵だった。
「キミの家の鍵さ」
「なんで伊集院さんが持ってんだ……」
「再三言うが、ボクがいる環境下には特殊。もう大体わかるだろう?」
「結論、会ったばかりの時に言ってた〝秘密組織〟が関わってると」
「そゆこと〜」
――正直言えば、八割ほど信じていない。
頑張ればこれくらいはできそうと思えなくもない。
俺のフォルダの件は、PCをハックすればできそうだし、家もまあ頑張れば入れなくもないだろう。
「……零紫くん、それは信じていない顔だねぇ」
「……まあ」
コーヒーを啜り、そう答える。
「ああ、そうかい。だったらいいさ」
「ん? 諦めたのか?」
「ふっ、逆だね。これから零紫くんは信じざるを得なくなるだろう!」
「ふぅ〜ん? へ〜、楽しみだなぁ」
「キミのあのフォルダの全てをインターネット網にばら撒いてやってもいいんだよ?」
「舐めた口聞いて申し訳ございませんでした」
「よろしい」
伊集院さんはニタァと不敵な笑みを浮かべる。俺はそれを見た瞬間ゾッと背筋が言えた感覚がした。
「このバッチを見たまえ」
見せつけてきたのは金色のバッチで、それは魔法陣のような柄だった。
「これを胸ポケっとあたりにつけて……。そして左右をカチッと押す!」
「うおっ!!」
すると突然、伊集院さんが着ている俺のTシャツがシュルシュルと変化していく。
伊集院さんは、貴族が着ている白と青色のゴシックドレスのような服になった。
「い、伊集院さんは早着替えの達人だった……?」
「現実を受け入れるんだ」
あ、ありえるのか……?
あんなに一瞬で着替えが普通できるわけがない。いや、あれは着替えじゃない気がするな。
ってか俺のTシャツ返せよ。お気にのやつだったんだぞ。
あと家の中でブーツを履くんじゃない。ここは日本だ。
「……こんな時にも、刺客かな」
「え? なに??」
俺が混乱中なのに対し、伊集院さんは突然真剣な表情になり、シリアスな雰囲気になる。俺の肌もピリピリとし出す。これは危険だ。
そして、伊集院さんは机の上に置いてあったナイフを片手に取り、いきなり俺の方へ向かって投げつけて来た。
「はっ!? おい何するん――」
ナイフは俺の顔のすぐ真横を通り過ぎて行ったが、そのナイフは壁に刺さることはなかった。
コンッと壁に刺さる音ではなく、肉に、グサッと刺さる音が真横から聞こえてきたのだ。
「ッ……!」
音がした方向を見ると、虚空に色がつき、金髪碧眼で、目つきの鋭い男の姿が現れた。
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