ルーク君 side エイベル

「君はずいぶんと難しい本を読んでいるのだな。」


「エイベルさま。えっと……?」


俺の言葉に目の前に座る少年は首を傾げる。今、自分が読んでいる本がどういう人が読んでいるものなのか、理解していないようだ。

力のある者は救いにもなるが、脅威にもなりえる。俺がこの子を信用しきれないのはその所為だろう。万が一この子が暴走してしまった場合、俺にはこの子を止めきる力ないから。


「その本は、大人の中でも学者たちが読むような本だ。君は、魔法の知識を身につけて何をするつもりなんだ?」


俺の問に少年はキョトンとしながら応える。


「ぼくはただ、じぶんをすくってくれたひとの、やくにたちたいだけです。ぼくはいままで、こうげきけいのまほうばかりつかってきたから。ちゆのまほうのちしきをみにつけて、リーガルトけのみんなになにかあったときに、ちからになりたいんです。なにもできないまま、うしなうのはいや、だから。」


この子は自分の危うさは分かっているのだろう。だから、攻撃ではなく治癒での貢献。感じられるのは、悪意も何も無い、ただ役に立ちたいという強い意志。

この子の過去を知っているからこそ、脅威となることを心配したが、この子はきっと自分の中で区切りをつけているのだろう。トラウマに襲われることはあれど、過去は過去で割り切っている。

リーガルト家もノマライトと同じ貴族。それでも救いたいと言ったこの子は、あんな環境で育っても優しい心を失っていない。もう、疑う必要はないのかもしれない。幼子相手に勘ぐりをするのは、あまり好きではないし。


「そうか。君は、いや、ルーク君はいい子なのだな。今度、ここには無い治癒系の魔法書を持ってこよう。それと、俺のことはベルと呼んでくれ。君とは仲良くしたいからな。」


俺がそう言うと、ルーク君の顔は輝き、周りに花を飛ばす。表情には出にくいが、意外と分かりやすい。本が好きなのだと思う。


「こちらこそ、よろしくおねがいします。ベルさま!あの、いまからいっしょに、ほんをよんでいただけませんか?ベルさまのおはなしもききたいです。」


ルーク君からの可愛らしいお誘いに思わず頬が緩む。


「ああ。では、俺のおすすめの歴史物語を二人で読もうか。」


ルーク君の手を取り、本棚の隙間へと入っていく。この子とする読書はとても楽しそうだと思いながら…。

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