国王陛下 ③ノマライト・ヤーグス

移動した先は王族が客人と認めた相手に対して利用する応接室だった。中にはテーブルを囲む形で4人掛けのソファと、1人掛けのソファが2つずつあった。僕とお父様、お母様、ヴィー兄様はソファに座り、向かい側にレイ様とリリー様が座った。アル兄様とマリア姉様、アンジェ姉様は近くに置いてあった椅子を持ってきてソファの後ろに座った。みんなが席に落ち着くと、レイ様が話し出す。


「さて、先ずは何から話すべきか……。君はヤーグス家に居たんだったな?それでいて、ノマライトの悪事の証拠もある、と。君はノマライトのしてきた事について、どこまで把握している?」


レイ様に問われて、少し考える。知っている事を全て話すべきか、隠しながら話すべきか、、、。信じていいのか分からなくてお父様の顔を見る。


「こいつは大丈夫だよ。ノマライトは許されざることを沢山した。正当に裁かれるべきなんだ。その為には、ルークが持っている情報が必要不可欠なんだ。」


お父様にも促されて、僕はノマライト・ヤーグスについて話し始めた。










彼は親のいない子供を対象に、人体実験を行っていた。内容は種族の混合で、妖魔族を生み出すことだった。目的は洸国での立場を高くすること。妖魔族は魔力や身体能力が高く、戦闘が得意だ。彼は僕らを軍事利用する為に育てたのだ。

孤児院での虐殺も仕組まれたことだった。あの日見た大人達は彼の仲間だった。大人達の持ってきた仕事も全て元手は彼。それを知った時にはもう手遅れだった。地下に閉じ込められた後で実験も大分進んでいた。どうすることも出来ないまま時間だけが過ぎて、気づいたら失敗作、出来損ない、と呼ばれるようになっていた。

仕事や魔石に魔力を注ぐことが無くなって2日経った後、僕は奴隷として扱われることになった。失敗作とはいえ、自分達のした事を知ってしまっている僕を解放する気は無かったのだろう。それからは殴られ、蹴られ、気絶し、の日常が始まった。











僕が話終えると、部屋の中はどんよりとした空気が漂っていた。


「そうか。そんな事を思い出させて悪かったな。君の証言があればあいつを裁くことが出来る。協力してくれてありがとう。ところで、君とおなじくノマライトに捕まっていた子はいるのか?」


「ぼくのほかに、ななにんいます。みんなぼくとおなじじっけんされてました。」


僕とは別の所から連れて来られた7人の子供。みんな僕より年上で、色々な事を話して教えてくれた。とってもいい人たち。


「では、その子たちが今何処にいるかは?」


「がくえん」


僕がそう言うと、みんなが驚いたような顔をした。


「学園って、王立学園の事…だよね?この国にはそこしか学園なんてないし……」


ヴィー兄様に問われて頷くと、更に驚いた顔をされる。


「その子たちの名前を教えてもらうことはできるか?」


「ハルト、フユカ、キリク、リョウガ、カイト、ケイタ、ソウタ………です。」


「なるほど。俺の息子に学園に通ってる奴がいるから、そいつにも話を聞いておこう。今日の話はここまでにしようか。本当に助かった。ありがとな。」


レイ様とリリー様に見送られて部屋を出る。終始緊張してたけど、ヴィー兄様が手を握っててくれたおかげで、ちゃんと話すことができた。

お父様たちはまだお仕事があるみたいで、帰りの馬車はヴィー兄様とアル兄様と乗った。身内しかいないことに心が落ち着いたのか僕はいつの間にか眠りについていた。

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