昔話

僕は孤児院に居た子どもたちが殺されて怖くなって逃げ出した。そのおかげで大人達からは散々な暴力を受けて、身体を動かすこともままならなくなり、あとは死を待つだけの状態だった。

ぼーっとしていると、足音が聞こえ、1人の男の人が歩いてきた。その人は僕のことを拾って、育ててくれた。それがノマライト・ヤーグスだった。

孤児院からヤーグス家に引き取られて少しした頃、僕は地下室に連れていかれた。何も分からなかったから抵抗なんて出来なくて、そのまま鎖で部屋の中央にある柱に繋がれた。

食事を与えられずに3日間、僕は放置され続けた。四日目の昼間、あの人は部屋に入ってきて、僕の首筋に注射を打った。


『君には一人目の被検体になってもらうよ。そのためにここまで育てたんだから。』


そう言ったあの人は不敵に笑い僕のお腹を蹴飛ばした。



それから毎日注射を打たれ、魔石に魔力を注がされの繰り返しだった。僕はもう、どうでも良くなっていた。裏切られるのも二回目。流石に慣れた。


そんな生活が始まって二週間くらいたった頃、あの人は自らの思惑を話し始めた。


『君は失敗作みたいだ。どうやら上手く結合しなかったしね。ああ、残念だよ。折角九尾の妖狐を作り出せると思ったのに。まあ、魔力量は多いみたいだからまだマシかな。この魔石はね、貴族達を殺すために使うんだよ。アイツらはこの私の価値を理解出来ていないんだ。………だから分からせてやるんだよ。』


そう言ったあの人の笑顔は酷く歪んでいた。僕にはあの人の言っている意味が分からなかった。それでも、魔力が混ざっている感じはしてたから何をされたのかは何となく理解した。

あの人がいない時に試してみると獣人の姿になる事ができた。でももう、誰も殺したくなかったからあの人には言わなかった。力を悪用されたくなかったから、魔力も細工してから流した。途中で気付かれてお仕置されたけど、言われた通りにはしなかった。

もう誰も、傷付けたくないから。

もう誰も、居なくなって欲しくなかったから。

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