悪夢 ①過去
床一面に広がるおびただしい血の量に息が詰まる。僕の友達だった人は皆、既に原型を留めていない。ぐちゃぐちゃという描写が正しいほどに、身体は無惨にも切り裂かれ、皮膚も何かに侵され毒々しい色をしている。血はとどまることを知らず、床を汚し続ける。ゆか全体が赤く染まり、池のようになっていく。
どれくらいの時間が経っただろうか。驚愕と絶望を織り交ぜて呆然としていると足音が聞こえてきた。咄嗟に物陰に隠れると、大人達が入ってくる。
「いや~楽しかったな~。みんな泣いて縋ってさ~可愛かったね~。」
「絶望した時の顔も良かったよな。後はあのガキだけだろ?」
「ああ。受けてきた依頼は消費してくれるし、アイツらを使えば簡単に働くし、楽な仕事だった。」
「ほんとにね~。でも、僕らの仕事ももう終わりだし、ちゃ~んと消しとかないと~。」
「誰かに話されても困るしな。」
大人達は話しながら僕のいる場所を通り過ぎ、奥の部屋へと入っていった。
大人達の言ってたことが頭の中で繰り返される。最初から生かすつもりなんてなかったんだ。いいように使って、用がなくなったら殺して。結局、助けることなんて出来なかった。約束したのに。絶対救うって言ったのに。馬鹿みたいだ。あの人達が僕らの願いを受け入れてくれる訳なんてないのに、、
物陰から出て建物の外に走る。町外れにある森に入って足を止める。栄養の行き届いてない身体で全力疾走はキツい。息を整えていると、人の気配を感じて振り返る。そこには、さっきの大人達がいた。
「あ~あ、逃げるなんて無理に決まってるでしょ?」
「無駄に体力使ってお前は馬鹿なのか?」
「さっさと殺すぞ。」
逃げなければと思うのに、足が痛くて上手く動けない。お腹に強い衝撃を受け下を向くと、ナイフが刺さっていた。足にもナイフが刺さっていて、その場に倒れる。大人達が近づいてきて僕の身体に向けて武器を構える。
「逃げた罰として、ゆっくり死の恐怖を味あわせてやる。覚悟するといい。」
そう言うと大人達は獰猛に笑い、僕の身体に一斉に剣を突き刺した。
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身体に衝撃を感じて目を覚ます。身体を起こすと、前と同じベッドに寝かされていた。僕は全身が汗だくだった。さっき見た夢を思い出して、息が詰まる。
「ひゅ、っ、、、、」
上手く息を吸えない。呼吸ってどうやってするんだっけ。息苦しくて、視界がぼやける。
「ひゅ、っ、、は、っっ、、、」
「ルクライア様?」
扉の外から知らない声が聞こえる。落ち着かなくて、余計に呼吸が荒くなる。
「ひっ、っ、、っ、っ、、、、、」
「…!失礼します!……ルクライア様?!すぐに皆さんを呼ぶので、少々お待ち下さい。」
程なくして複数の足音が聞こえてくる。意識が朦朧としていて、上手く考えられない。口に何かを当てられ、エド先生に抱えられた。
「私に合わせてゆくっり呼吸して。吸って~はいて~吸って~はいて~、そう、上手だよ。」
暫くそうされていると、次第に呼吸が落ち着いてきた。酸欠で頭がぽやぽやする。
「 」
「「「「「「、!!!」」」」」」
自分がなんて言ったのかよく分からない。ただ、みんなの気配に安心し、酸欠状態なのもあって、僕はゆっくりと意識を手放した。
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