魔王様の憂鬱


 我の名は

 火山の火口から産まれし魔族である。

 我には物心付くまでの記憶があまり無い。それでも何故か産まれた時から頭の中にあった事は、自分の名前が『ガルデア』だと言う事と、火山から産まれたと言う確固たる確信にも似た感情である。

 

 物心が付く頃には、やたらと他の魔族の連中に勝負と称し戦いを挑まれては、それを撃退してきた。

 そんな日々を過ごしていると、いつしか我の事を名前で呼ぶ者はいなくなり、周りから魔王と呼ばれるようになった。

 最初の内は否定していたのだが、あまりにも周りがそう呼ぶので、いつしか否定するのも面倒臭くなりそう言う事にしておいた。

 

 魔王と呼ばれるようになると、我に挑んでくる者も居なくなった。

 そんなこんなで不本意ながな魔王となると、周りの者が勝手に城を築き、何故か領地まで治めるようになってしまった。

 その後は特に、世間のイメージする魔王のような事はせずに、ただ自分の領地で特に大きな問題も起きずに過ごしていたのだ。


 しかし、最近の我には一つ悩みがある。

 その悩みとは、自分の事を勇者だと名乗る人間が何度力の差を見せても城に攻めてくるのだ。

 人類の希望だとか、貴様に命の尊さを教えるだの散々口にして我に戦いを挑んでくる。

 はっきり言って迷惑だ。どうやら奴は我が魔王だという事で人間を殺戮したり侵略行為をしていると思っているらしいが、生まれてこの方そんな事をした覚えは無い。

 なんなら、人間にまともに出会った事すら無い。

 

 しかしいくら否定しても奴は信じようとしない。そして一方的に攻撃してきた挙句、勝手に訳のわからない解釈をして、散々城を荒らして帰っていく。もう本当に止めてほしい。

 倒してしまえばいいのでは? と城の者からは言われているが、そんな事は出来ない。

 だって怪我とかさせたら何かの罪に問われそうだし、万が一にも殺してしまったら我、殺人犯になっちゃうじゃん。嫌だよ犯罪犯すとか。


「はぁー、このマグマ風呂に入ってる時だけは現実を忘れられるはー」


 そんな独り言を言った我は、今現在グツグツと真っ赤に染まるマグマ風呂に浸かっている。

 暫く目を閉じくつろいでいると、突然大きな音が耳に飛び込んできたので目を開けた。


「魔王、今日こそ相手をしてもらうぞ!」


 声のしたほうに視線を向けると、我の悩みの種が剣を携え立っていた。


「ねえ、見てわからない? 我入浴中だよ?」

「知ったことか」

「ふっざっけんなよ! 出てけ!」

「断る。今日は貴様が相手をすると言うまで帰らん」


 うっぜぇぇぇえ! なんなんコイツ? どうすんの我が人間で言うところの女だったら?

 まあ、我性別とか無いけど。いや仮に男だったとしても普通入浴中に戦いとか挑んでくるかね?


「どうした? 早く出て俺と勝負しろ」

「どうした? じゃねえよ! 何さも当然のように風呂場に入ってきてんだよ」

「なんだ、貴様にも羞恥心という物があったのか。滑稽だな、今までの自分の行いには恥じる素振りを見せないくせに、風呂を見られたくらいで恥じらうとは」


 我の心情を代弁するかのようにマグマ風呂の温度はグツグツと沸上がり、思わず魔法を放ち勇者を攻撃しようとしたが、寸前のところで踏みとどまる。

 そして、一度冷静になり出来るだけ落ち着いて勇者に語りかける。


「なあ、勇者とやら聞いてくれ」

「なんだ?」

「何度も言うが我は、魔王と呼ばれてはいるが、お前が思っているように人間を殺戮したり、領土を侵略などの行為はしていない。そういう行為をしている奴らは我の領地の魔族ではない。だからもう我の城にくるのは辞めてくれ」

「ふん、そんなもの信じられるか。そこまで言うなら何もしていない証拠でもあるんだろうな?」

「いや、何もしてないんだから、証拠も何も何もしてないのが証拠なんだが」


 我の回答を聞いた勇者は、ゆっくりと剣に手を伸ばした。


「え、ちょっと何する気?」

「何もしていないのが証拠だと? ふざけるな、では何故お前は魔王と呼ばれている? そんな理由で納得するとでも思ったか」


 確かに勇者がそう言うのも分からなくはないが、我は小声で呟く。


「いや、だって…別に我がなりたくてなった訳じゃないし…」

「言い訳か」

「いや、言い訳とかじゃなくて事実なんだよなぁ」


 剣を抜く勇者。


「もういい御託は結構だ。早く服でも着て戦う準備をしろ。服を着る時間くらいは待ってやろう」

「いや服着させる常識があるなら、なんで風呂場に入ってくるんだよ!」

「知ったことか。俺はこの城の者に『魔王はどこにいる?』と訊いたらここに案内されたから来たまでだ」


 ちょと誰かー、と我は声をあげ城の者を呼んだ。

 すると、一人の悪魔がとぼとぼと入ってきた。


「はい、何でしょう魔王様」

「我の居場所教えた奴知ってる?」

「ああ、それ俺っすね」


 城の者はまったく悪びれた様子も無くそう答えた。


「はい? なんでそんな軽い感じなの? ってか教えんなよ!」

「いやだってー、もし教えなかったらー、勇者に俺ら殺されちゃうかもじゃないですかー?」

「じゃないですかー? じゃねえよ! ってななんで毎回城に入れんだよ!」

「いやだって勇者っすよ? そりゃ魔王城に勇者きたら入れますよね普通?」


 はっ? えっ、待って待って。怖いんだけど。何言ってんのコイツ? え? 我なんか可怪しいこと言ってる?


「えっ? 他の奴らもそんな感じなの?」

「うーん、まあそうっすね」


 あっ、これヤバいは。うん。城の者に教育が必要だ。

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魔王様は常識人。 もみじおろし @ocomeman37

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