第3話 花の命

 おはようございます。お目覚めはいかがですか。

 私が朝起きて最初にやることはそうテレビを見ます。先ず加藤浩次さんが司会するあの番組で大体世の中を知ります。あの番組は私の仕事に欠かせない情報源です。


 キャバ嬢にとって必要なのは、お客さんの話に乗っていくことだと思います。

 お客さんがいろいろ話してるのに、反応がないといやですよね。

 これセックスと似てませんか?確かマグロっていうんですよね、無反応のこと。

 知らなくてもうまくやってる子もいるけど、そういう子は天然ってよばれています


 それで今日の話はシンジョーさんです。

 シンジョーさんのあの白い歯が迫ってきたらどうしよう。私、完全に墜ちます。

 シンジョーさんって元、何やってたひと?わかんないけど今は野球選手でしょ。

すごいですよね。タレントから野球選手になるって。ん?これも違うの?

 助けてくださいシンジョーさん。


 私のお客さんに、元高校球児がいます。

 そのお客さんの話しを聞いていたので、野球の世界ってすごいんだなーって思っていました。

 その人は会社に努めているんだけど、社内で野球大会があって元高校球児だから期待されて試合に出ました。高校時代からやっていて慣れた外野の守備につきました。


 フライが自分のところに飛んできたので、グローブをスッと出しました。すると何の拍子か、ボールがグローブの先っぽにあたって落ちてしまいました。

 しまったと思ったけど「こんなこともある」と笑ってごまかしたんだけど次にゴロがきてスッとグローブを出すとまた、なにかの拍子でボールはずーっとうしろのほうまで逃げてしまいました。


 このときには味方のベンチからもヤジが飛んできて、笑ってごまかせなくなり真剣になりました。

 でも運が悪い時には不思議にミスをした人のところにボールがきます。

結局、この回だけで彼は3回のミスをして、4回目にはもう自分のところにはボールが来ないでくれって祈りました。球がおそろしくなってしまったのね。

 彼はその後、経歴に疑惑をもたれて野球を見ることも、聞くこともできなくなってしまいました。


 誰にだって小さなミスはあると思うんだけど、ちょっとしたミスでその後ずーっと、そのミスを引きずって生きていくことになるんでしょ。

 誰だってミスをしたことあると思うんだけど、それを乗り越えてきたんでしょ。

 だからやっぱり野球選手はすごい。プロの選手も、アマチュアの選手も。


 きょうは入店2日目、初めてのお客さんばっかりなのでずーっと緊張してたんだけど、閉店まであと1時間のときに、前の店で指名してくれていたお客さんが、花束とぬいぐるみを持ってきてくれました、そうその高校球児が、あの私に野球の恐ろしさを教えてくれた、あのやっちゃんです。

  

 花束は私とやっちゃんの名前をかいて、店に飾ってもらうことになりました。

 この花が咲いている間、私は店のなかで少し自慢できます。

 この花がいつまでも咲いてることをお祈りしました。


 ぬいぐるみはもちろん、わたしの部屋に今いるけど、やっちゃんは「これ、ゲームでとったので原価安いからあまり気にするな」っていってくれたけど、私このぬいぐるみの値段知ってるんです。

 すごく高いんです。ゲーム機にあるようなもんじゃないってことを。

 うれしくて、うれしくて、きょうは抱いて眠ります。


 ありがとうやっちゃん、ありがとう安原さん。


 それじゃあ、今夜もお休みなさい。








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