あなたのおかげ

笑顔の裏で燃える心……。

 お昼過ぎ、赤いホーンラビットとの決着がついたあと、そのままの足で私たちは冒険者ギルドに来た。


 肩には赤いホーンラビットを手と足を結んでいる状態で担いでいる。


 ギルドに入ると、雰囲気がいつもと違うことに気づいた。


 いつもだったら、入った途端に屈強な男たちに睨まれるはずなのに、私たちを睨みもせずに近くにいる人とコソコソ話をしている……


まぁ、原因は完全にホーンラビットだろうけど。


「以来の達成報告に来ました」

 受付のお姉さんに向かって私が言う。


「……ぁ………」

 受け付けのお姉さんは私が担いでいるホーンラビットを見て口を開けたまま固まってしまった……。


「あのー」

 お姉さんの顔を覗き込む。

「………」

 効果はないようだ。

「もしもーし」

 今度は目の前で手を振ってみる。

「………」

 効果はないようだ。


 そこで、ルゥがポンと私の肩を叩いて親指を立ててグーサインする。

まるで「俺に任せろ」とでも言いたげな顔で……。


 すると、ルゥが大きく息を吸い込んで、

「お姉さん!!! 依頼!!! 終わりました!!!」

 街中に聞こえるような爆音を発する。

「ハッ!?」

 これにはさすがにお姉さんも我に帰ったようだ。


普通にうるさい。


 すると、お姉さんが頭を下げて謝ってくる。

「す、すみません! そ、そのホーンラビットが赤かったのでつい……」


前もそうだったが、このお姉さん、実にいい反応をする。


ここでさっきから訊きたかったことを訊いてみる。

「ならちょうどいいです。依頼の報告の前に何か知りませんか? この赤いホーンラビットについて」


「すみません……ここ最近は特に変わった魔物が出たという報告は来ていません。ですが、その赤いホーンラビットは11年前に戦士『ガザニア』さんが討伐したと聞いているので、突然変異種で間違いはないかと思います」


 戦士ガザニア?

聞いたことのない名前ね。

「ルゥ、知ってる?」

「知らなーい」

 まぁ、当たり前か。


 すると、親切にお姉さんが戦士ガザニアについて説明してくれる。

「戦士ガザニアっていうのは、12年前にロウタスで初めて冒険者試験を飛び級で合格して、その後は竜とか、さっき言った突然変異種とかを倒しまくったとんでもない戦士のことです! 現在は引退していますが……」

 戦士ガザニアのことになったら急に目つきが変わったわね……。


「詳しいのね」

「はい! ガザニアさんみたいな人をサポートしたくて受付嬢になりましたから!」

 なるほど。夢を叶えたってわけね……。


そう。『夢』

私にも叶ったはずの夢があったはずなのに……私の人生、どうなっちゃったのかな……。


そう思うと、不思議と怒りが込み上げてくる。


 私の両親を殺したのも、私の夢を壊したことも全部誰かが命令してやったこと。

だとすれば、私がやるべきことはただ一つ。

そんなくだらない命令を出したやつを吊し上げること。

たとえそれが、見知らぬ誰かを巻き込むことになっても……!


「あ、あと依頼の達成報告お願いします」

微笑みながら言う。

「畏まりました」


 笑顔の裏には決して消えることのない熱い炎が灯っていた……。

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