決着……。

 突然変異種の赤いホーンラビット。

普通のホーンラビットは雑魚も雑魚だが、突然変異種ともなるとそんなわけはない。


 私たちは、瞬時に別の場所へ移動できるテレポートや、そのとんでもない攻撃力に苦戦を強いられていた。


「てやー!」

 ルゥが頭上からホーンラビット目掛けて刀を振り下ろす。


 すると、ホーンラビットはものすごいスピードでルゥの足の間をくぐり、そのままの勢いで私に飛びかかってくる。


「っ……! 侵蝕する瘴気マイアズム・イロウジョン!」

 とっさに技を出す。


 足元の影から無数の黒い水滴のようなものが飛び出し、ホーンラビットに向かって飛んでいく。


 だが、この攻撃も瞬間移動によって避けられてしまう。


「チッ……」

 瞬間移動した先が分からず、ホーンラビットを見失ってしまう。


 すると、背後でカサカサという音が聞こえた。

その音に気づいて振り向いたのと同時に、ホーンラビットが頭の角で攻撃してくる。


 これはさすがに避けられないと思ったが、

「危ない!」

 そう言ってルゥが落ちていた石を拾って、投げつける。


「ギュゥ」

 まさかの命中。

ホーンラビットは地面に落ちたが、さすがに投石程度では傷ひとつついていなかった。


 だが、これはチャンスと思い、急いでルゥの元まで走っていく。


 ホーンラビットもすぐに起き上がって追いかけてきた。


「来るな!」

 そう言いながら、後ろに手をかざして混沌の支配者カオス・ルーラーを発動させ、ホーンラビットの足元から黒い棘を出す。


 案の定、ホーンラビットは前と同じように、瞬間移動で後ろに移動して回避する。


 攻撃を回避したあと、すぐに追いかけようとしてきたが、その頃には既に私はルゥの元までたどり着いていた。


「絶対に離れないでよ」

 そう言いながら、ルゥの背中に手を回す。

「え、ちょっ、何するの……?」

 ルゥはこれから何が起こるのかわからなくて混乱しているようだ。


「奥の手ってやつ」

 そう言って、ルゥに向かって微笑みかける。


 ホーンラビットはまだこちらに向かって走ってきている。


そのホーンラビットに向かって手を掲げ、

混沌の支配者カオス・ルーラー!! 最大出力!!」

 と叫ぶ。


 すると、ホーンラビットの足元の影から黒い棘が出てくる。


 当然、前と同じように瞬間移動で避けたが、移動した先の足元からも棘が出てくる。


いや、移動した先だけでは無い。

視界に移る限りの影から棘が出てきている。


 奥の手……それは何かの作戦でもなければ、手を合わせて協力して倒すことでも無い。

単純なこと。相手が瞬間移動するのなら、瞬間移動で移動してくる可能性がある場所全部に攻撃すればいい。

幸い、ここは森だ。影はいくらでもある。


 ただ、混沌の支配者カオス・ルーラーを広範囲で使うとなると、制御が難しい。

自分の周りだけ当たらないようにすることはできても、もう一箇所ともなるとさすがに厳しい。だからルゥの近くで発動する必要があったのだ。


「ギュエッ……」

 これはさすがに避けきれずに直撃。

黒い棘がホーンラビットの胸を貫く。


「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながら地面に倒れ込む。

「お、終わったー!」

 地面に寝転がりながら手足を伸ばす。


「お疲れ様!」

 ルゥが微笑みかけてくれる。


 それにしても妙だ。

あのホーンラビット、ルゥには一切攻撃しなかった。

それともう一つ、あんなに強かったのに目撃情報すら聞いていないことだ。


普通、あのレベルの魔物が出たら森は立ち入り禁止になる。


一体どうして……。


⋄◇???◇⋄


 とある場所、どこを見ても真っ白な空間。

まるで、異世界のような場所に2人の美女がいた。


 片方は豪華な玉座に足を組んで座っており、金色が多いキラキラした服装をしている。威厳たっぷりで、女神にすら見えてくる。


 もう片方は、地面に片膝をついて頭を垂れている。服装は白主体。おそらく、玉座に座っている人に仕えているのだろう。


「報告します! 加護持ちのホーンラビットが一体倒されました!」

 片膝をついている方が言う。


「ほぅ……それで? 倒した者は?」

 玉座に座っている方が落ち着いた声音で訊ねる。


「女が1人と男が1人。計2人でございます」

「ふぅん……お前はどう思う? 戦いを見てたんだろ?」


「男の方は力は強いですが、その他の面を鑑みて、放置しておいて問題ないでしょう。しかし、女の方は使っている魔法から御力みちからと同じ波長を観測することができました。よって、彼の娘で間違いなさそうです。」

 言い終わった後に、玉座に座っている方がニヤリと笑う。

「さぁ、これから忙しくなるわよ!」

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