第1話「令和元年の涙雨」④

※場所は佐賀県武雄市朝日町たけおしあさひちょう。"避難所の小学校"にて。時間は朝9時頃。(※)内は演出指示です。<>はセリフ以外の演出ほかシュチュエーション、傍点は佐賀弁。






<体育館に敷かれたブルーシートの上で>




ゆう:「志織しおりちゃん、温かいお茶をもらってきたよ。」




ゆう志織しおりに紙カップに入ったお茶を渡す>




志織しおり:「社長、ありがとうございます。」




ゆう:「朝、早かったでしょ。きつくない?」




志織しおり:「(※お茶をすする音。一口飲んだあとに)きついのかきつくないのかもです。社長の電話からまだ4時間も経ってですし…。今日は時間が長く感じます…」




ゆう:「まだ朝の9時やもんね。普通は会社を開ける時間…。それにまだ雨も止まんし、避難所にくる人もどんどん増えとるよ。」




志織しおり:「お子さんたちも、ご主人も元気そうでなりよりでした。子供の避難者も多いんですね。」




<ワーワーワーと子供が体育館を走り回る音>




ゆう:「家が心配だからって、子供たちと年配の方を連れてきて、戻る人もよ。」




哲人てつと:「いつきまさる、煩くて、みんなの迷惑なるから大人しくしてなさい。明来あきは静かにしてるぞ!」




<ワーワーワーと子供が体育館を走り回る音。一人スマホをいじくる明来あき




いつきまさる:「お母さん、明来あき姉ちゃん、お菓子があるとて。非常食ば用意してーよ。取ってきていい?」




ゆう:「てつちゃん、ゴメン。非常食ば子供たちの為に持ってきて?みんなの分志織しおりちゃんのも…」




哲人てつと:「分かった。いつきまさるも非常食取りに行くよ。明来あきは?」




明来あき:「(※無言)…」




哲人てつと:「いつきまさるも非常食取りに行くぞ!」




いつきまさる:「おー!」




ゆう:「志織しおりちゃん、ADKエーディーケーは…天乃電装工業あまのでんそうこうぎょう、(※しばらく間を空ける)実家のほうはどう?」




志織しおり:「お母さんに連絡とりました。あちらは大丈夫だそうです。それより、私の事を心配してくれてました…」




ゆう:「親思ふ心にまさる親心けふの音づれ何ときくらん。昔の偉人が最後に言った言葉よ。子が親を思う以上に、親が子を思う気持ちは強いものだ。今日のこの報せを聞いた親は、なんと思うだろうか。という意味。結婚して子供ができて…ようやくこの年で分かった気がする。」




志織しおり:「親思う心にまさる親こころか…。お母さん、あ、まだ理名りなです?」




ゆう:「理名りなちゃんには連絡と?」




志織しおり:「メールしてたんですけど…(※心配そうな声で)まだ、既読になってなくて…。」




ゆう:「ADKエーディーケーには?」




志織しおり:「昨日、お母さんに電話で連絡があって、大学のダンスライブがあったそうで…同じメンバーの家に泊まるとだけ…」




志織しおり:「理名りなちゃん、いるのは佐賀市だろうし、大丈夫と思いたいね…」




<急にブルーシートの上で座ってスマホをいじっていた明来あきゆうに近づく>




明来あき:「お母さん、お母さん、隣町の鉄工所で沢山油が流出。ポンプもみたい。それに祖母ばあちゃんのこの前、入院病院が陸の孤島になってるって。スマホのニュースで今流れてる。」




ゆう:「この朝日町あさひちょう自体が、西も東も全部の道が冠水して、電車も車もみたいね。非常食はどう。明来あき哲人てつとさん、大丈夫そう?お父さんの所に手伝いに行ってきて。」




明来あき:「(※しばらく間をあけて不満そうな声で)分かった。行ってくる…。」




ゆう:「いつきまさるのこと、よーく見取ってね」

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