第10話 冒険者と神官と。

 

 ◇◇カナン周縁の耕作地──



 フィン達が⦅カナンこの街⦆に到着してから7日が過ぎた。


 農民達が隊列を組んで小麦を収穫していくのを横目に、現在フィンとラミーはその護衛として森から出てくる魔物を警戒している。



 この街は穀倉地帯の中心部にあり、大陸では小規模以上中規模未満といったランクの都市である。   


 この地域で生産された穀物は、一度ここ⦅カナン⦆に集積され、ここから中央大陸西部随一の大都市である⦅レーヴェン⦆に向けて輸送されている。

 今の時期はちょうど収穫期にあたるそうで、一月ほど後には輸送のためのキャラバンがいくつも編成されるのだという。


 そこで、フィン達は当面この街で適当なクエストをこなしつつ過ごし、そのうちのキャラバンのどれかに護衛として雇ってもらい⦅レーヴェン⦆へと向かうという計画を立てた。


 学園都市チェイズの卒業生には、その卒業の証に指輪がプレゼントされるのだが、その指輪を⦅冒険者ギルド⦆で提示すれば、最初から銀級Cクラスの冒険者として登録されて即座に活動することが許されている。


 例年、キャラバンの護衛は金級Bクラス銀級Cクラスの冒険者パーティをいくつか雇って組まれるそうなので、フィンたちは問題なく雇ってもらうことができるだろう。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇





「ねー、フィンはさー。兎やら猪やらを狩るのが好きだったっけー?」



 ラミーは先程から畑の柵にもたれかかる様にして面倒臭そうに森を見ていたが、ついに痺れをきらしてフィンに近寄り、彼に話しかける。



「いや?まあ嫌いじゃないけど、特段好きというわけではないよ?」



「じゃーさー、なんで毎日毎日畑の警備なんてクエストを受けるのさ。あたしの職業ジョブわかってる?探索者シーフだよ?探索者がウサギやイノシシ見つけてどーすんのさぁ!ぼーけん行こうよ冒険〜」


 ラミーは早く冒険がしたいと喚く。



「いや、何度も説明したけどさ、ここで急いで移動するよりも、農作物を輸送するキャラバンを待ってからのほうが安全だし経済的で──」



「それはわかるけどぉ。じゃなくてあたしが言いたいのは、ギルドの掲示板ボードには他にも冒険っぽいクエストがいっぱい貼ってあったじゃん?って話よ!」



「あー、うん。それなー。」



 フィンはラミーに悪い気もしたが、フィンのパーティがかなり危なっかしいのは事実である。


 フィンもラミーも完全に前衛寄りのステータスなので、単独の敵を迅速に撃破することには向いている。

 その一方で、継戦能力が低いので連続した戦闘、あるいは防衛戦などには不向きなのである。



 つまり、二人だけでその冒険っぽいクエストとやらに向かうことには相応のリスクがつきまとうのだ。




「最低でも僧侶や神官を一人は仲間にしないと、俺たち二人だけじゃ危ないんじゃないかと思ってさ。」



「えー、じゃあ勧誘に行こうよー。

 ウサギ狩り飽きたー。イノシシ狩り飽きたー。」


 ラミーはやんやんと首を振って駄々をこねている。


 んー、どうしたものか。




 ◇◇◇




 その後、ひとまず今日の収穫は終わりということで街に戻ったフィン達は、冒険者ギルドに終了報告をすべく大通りを歩いていた。



 すると、街を行く人並みの中に、フィンは見覚えのある少女を見つけた。



「……っあ。」



「ん?どうしたのフィン?」



「あれ、あの子。あの白い服を着た緑の髪の女の子。マリエラじゃないか?」



「ん?マリエラ?」


 ラミーは、眉根を寄せて頭を捻る



「え、学園都市でクラスメイトだった……?」



(あ、……しまった。こいつラミーの周回では会ってないのか)



「ん〜。んん〜??ラミーちゃん、もうボケてきたのかなあ?ねぇフィン、わかんないよぅ。」



「い、いや。俺の勘違いだ。けど、あの子の職業は多分聖職者だ。」



「なんでわかるの?」



だ!」



「あ、それあたしのやつパクッたでしょ」



「うるさい、とにかくあの子に話かけてみよう」



「えー!?なんの脈絡もなく?」



「俺たち冒険者だろ?こういう時は冒険するもんだぜ!」



「さっきは安全がどうとかいってたくせに〜」



 ラミーにギャーギャー言われながらも、フィンは彼女マリエラへと近づいていく。



「や、やあ。初めまして」



「あ、はい!初めまして!あら、冒険者の方…ですね?

 何か、御用でしょうか?」



 マリエラはいきなり話しかけられたことに少し驚いた様子であったが、フィンたちの外見から冒険者であることを見抜くと、なにやら不安そうな顔をした。



「失礼かもしれないけれど……貴女も冒険者ではないですか?もしかしたら、聖職者の……。よければ俺たちの──」




 そこまで言ったところで、彼女は暗い顔をして答えた。




「わ、私は……いいえ。ちがいます。私は、ただの神官です。この街の、⦅地母神⦆の神殿で働いています。し、失礼します。」



 彼女マリエラは言葉少なに立ち去ろうとする。



「あの、ちょっとだけでもお話しできませんか!?」



「……いいえ。急いでおりますので。」




 フィンは後ろから声をかけるも、彼女は立ち止まらない。そんな時…彼女の目の前に何処からともなくラミーがスッと現れた。


(すげぇ。どうやったんだ……?)



「ねぇ、シスター。あたし、ラミー!ひとつだけ教えてくれない?貴女、お名前は?」



 ラミーは手を差し出しながら彼女に質問した。



「わ、私はマリエラと申します。すみません……ほんとうに、これ以上は……」



 それだけ言うとマリエラは、ラミーの手を取ることなく足早にその場を去っていった。



 ……



「ほ、マリエラちゃんだった……!」



 ラミーは、そう呟いてフィンが声を掛けるまでしばらく固まっていたが、クエストの報告が遅くなると達成報酬が少なくなるかもと言うと、サインの入った依頼書をフィンから引ったくって冒険者ギルドの方へと走り去っていった。



 ……



「元気だなー。まあ、あいつラミー今日ずっと柵に寄っかかって寝てただけだもんな。」



 残されたフィンはそう呟くと、とりあえず一足先に独り⦅金色亭⦆へと戻るのであった。



 ちなみに、このあとフィンがラミーに食堂で渡された皮袋からは今日の報酬がきっちり半分無くなっていて、それらは既にラミーの腹の中に収まっていた。



 ◇◇◇

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