第9話 お楽しみの時間?
◇◇⦅カナン⦆大衆食堂⦅金色亭⦆2階──
現在、ラミーとフィンは、宿の部屋で二人向かい合ってベッドの上に座っていた。
「よし、それじゃさっそくやろうか。
相性とかがあるかもしれないから、いま試しておきたいんだ。」
フィンは、真剣な顔つきでラミーを見つめている。
「う、うん。な、なんだかドキドキするよ……
あ、待って!あ、あたし臭くないかな?」
ラミーはそのオレンジの髪をクンクンしてフィンを上目遣いで見る。
「いや、別に臭くはないぞ?それに、嫌ならやめてもいいって言いたいところだが、俺たちは⦅パートナー⦆だからな。
これからも二人でやっていく為にこれは必要なことだ。」
フィンは、自分の正直な気持ちをラミーに伝えた。
「そ、そう?なら、いいんだけど……」
「何度も言うけど、でかい声だすなよ?」
「わ、わかってるよう……!……で、でもでも、やっぱり我慢できないかも!」
「大丈夫、全部俺に任せて。それに、そんなに力まないほうがいいと思うし、すっごく楽しいんだ。慣れればラミーも気にいると思う。」
「ほ、ほほほんとうに?あたしは経験ないからわかんないけど……そういうものなのかな?フィンはこういうのこれまでよくやってたの?」
少し返答に悩んだ後、フィンは答えた。
「……いや、あまり経験はないが、ああ、初めてじゃない。」
「そ、そうなんだ……」
⦅パートナー⦆として、初めての相手に選ばれなかったことをラミーはかなりショックに感じているようだ。
さっきまで緊張でピンと伸ばしていた尻尾がひどく垂れ下がってしまった。
「……だが、これからは
「っえ!?日常的に!?」
ラミーは目を見開いて顔を赤らめる。
「ああ、
「…っえ、っええ!?それどんな時!?」
「いや、色々あるだろう?例えば、後をつけられたりして身を隠す時なんか、咄嗟にできないと困るぞ?」
「か、隠れた先でするの!?…そ、そっか。心に余裕を持つため…ってことね!?」
「…?…よくわからないが、何なら
「……!? い、いや…さ、流石にそれは…」
ラミーは顔を更に真っ赤にしていやいやと首を振っている。
「そうか?まあ、とりあえずやるぞ?」
「……あ、待って待って!まだココロの準備が……」
ラミーは、ギュッと目をきつく閉じた。
(お父さん、お母さん、ラミーは今日、ついに大人になりましゅ……!!)
………………
……(ラミー、聞こえるか?ラミー?)
……( ……… )
……(おーい、ラミー?どうした?聞こえているはずだが?)
……( ……… )
フィンはラミーに⦅念話⦆を繋げて会話を試みるが、一向に返事がない。
……(そうか、ラミー。初めての⦅念話⦆の相手じゃなかったこと。まだ怒ってるんだな?
確かに、こんな楽しいことを黙っていたのは悪かったよ。けど、俺もコレが使えるようになったのはつい最近なんだ。
それに、安心していいぞ?最初の相手はこれを教えてくれたおっさんだし、特に楽しい話をしたわけでもないから……)
そこまで言ったところで、何やらボソボソとラミーから念話が聞こえてくる。
……( ……か )
……(え?よく聞こえないぞ?)
……(フィンのばか〜〜!!〜〜!!!)
キーーーーーーーン
フィンの頭の奥底まで、大音量の念話が響き渡った。
ラミーはものすごい勢いで立ち上がると、逃げるように走り去って行った。
「⦅念話⦆じゃ耳を塞ぐこともできないのですごく、辛い……」
部屋に一人残されたフィンは、何が悪かったのだろうとしばらく考えるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「とりあえず、ラミーを怒らせてしまったようだ。こういう時は謝罪だ。悪気はなくても相手を傷つけてしまった事に対しては誠意をもって謝らねば──」
フィンがすくっと立ち上がり部屋を出ようとした時、ちょうどラミーが帰ってきた。
……しばらくの沈黙。
ラミーの顔は、まだ少し赤い。
フィンは、意を決して──
「「ごめん!」なさい!」
同じ言葉が口から出ていた。
ラミーとフィンは、二人で顔を見合わせる
「あ、あたし、あたし何か変な勘違いしちゃって!突然フィンから楽しいこと教えてやるって言われたから、つい、その……。それに、大きな声出しちゃってごめんなさい!」
ラミーは矢継ぎ早に言葉を紡ぐと頭を下げる。
「い、いや。俺の方こそ。ちょっとビックリさせてやろうと思って……。けど、よく考えたらそんなに楽しくもなかったし、それにラミーが初めての
フィンも、しっかり頭を下げて謝った。
再びの沈黙……
しばらくして沈黙に耐えかねたフィンが、眉を上げてラミーを見るのと、彼女がフィンを覗き込むのはまた同時だった。
──……っぷ
あはははは!
ははははは!
二人は同時に笑い出す。
こんなにも、タイミングが合うのだ。
それに、念話もよく聞こえることがわかった。
たぶん、ラミーとフィンの相性は相当良いのだろう。
「あははは!あたし、あたしね。ほんと早とちりが多くて、ほんと、バッカみたいで!あはははは!」
ラミーは手でパタパタと顔を仰ぎつつ爆笑している。
「ははは!俺もだよ。ラミーを怒らせてばかりだ。本当に悪かった。けど原因が分からなくて……いったい何で怒ったんだ?」
「……ッ大丈夫大丈夫!ほんと、なんでもないから。忘れて忘れて!」
笑い過ぎたのか、ラミーの顔がまた赤くなる。
「それに、大人になりまし……」
「忘れろー!!!」
「あうっ!」
ラミーは全力でその拳をフィンの頭目掛けて振り抜いた。
◇◇◇◇◇◇
──その日の夕方。
(俺は、なんだかよく分からないが今日一日眠りこけていたらしい。頭もガンガンする。……風邪だろうか?)
貴重な一日を無駄にしてしまってラミーには本当に申し訳ないことをしたとフィンは思った。
そのことを謝罪すると、ラミーは大丈夫とだけ答えて顔も合わせてくれない。
ただ、何故かビックリさせてやろうと思って隠していた念話について彼女は知っていたし、とても初めてとは思えないくらい要領よく使いこなしていることもわかった。
(あいつのステータスには⦅念話⦆はなかったような気がしたんだけどな?)
フィンは首を傾げつつ、ラミーのステータス画面をまじまじと見つめるのであった。
とても不思議な体験をした一日だった。
◇◇◇
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