第7話 ⦅金色亭⦆


 ◇◇農耕都市⦅カナン⦆の大通り──



「ッく〜〜〜〜!っやっとついた〜!!

 ねぇねぇフィン、何食べよっか!?この街って何が美味しいんだろうね?わくわく!」



「うーん、俺もこの街は初めて来るし、名産品とかよく分からないな。まあ、とりあえず、のぼりが出てるあの店でいいんじゃないか?大衆食堂っぽいし」




 ⦅カナン⦆の街の門を抜けた俺たちは、大通りにある手頃そうな食堂を見つけたため、そこへ入店した。




 ◇◇◇




「金色亭へようこそ!お食事ですか〜?それとも──」



「はい!食事です!」



 店に入るとすぐに店員さんから声をかけられたラミーは、間髪入れずに返事をした。ラミーの頭はもう食事のことでいっぱいらしい。




「ふふふ。はい、ではこちらへどうぞ〜」


 店員は、その勢いに目を丸くしていたが、すぐに微笑ましいものを見たように目を細めてテーブルまで俺たちを案内してくれた。


 昼食を取るにはかなり遅かったためか、店内は空いていた。



「ところでラミー、金は持ってるのか?」


 席に着いたところで、俺はラミーに問いかける。

 俺としては結果を聞くまでもなかったのだが……



「無いです!フィンさん貸してください!」


 ラミーが即答する



「…ですよねー(棒読み)」


(やっぱりな、こいつめ)



 ラミーは学園都市にいた頃から、かなり金遣いが荒かった。

 種族的に肉食動物の習性が混ざっているためなのか、っていうものができない性格らしい。なので、あたしが残念な娘というわけでは無い!人虎ワータイガーは皆んなそうなのだ!と、本人が威張るようにいつか言っていたのを覚えている。とても威張れることではないのだが。




「フィーン…お願いだよぅ。ウルウル。」


(いや、ウルウルって口から聞こえる音ではないから)



「……おーけー、わかったよ。じゃあ、コレを食べたら、暗くなる前に街の人から情報を集めてきてくれるか?この街で何ができるのか知りたいな。」



「イエイ!フィンってば優しい!大好き!まっかせて〜、じゃあ頑張って面白そうな話を片っ端から集めてくるよ〜!

 あ!お姉さ〜ん!こっちこっち!え〜とね、コレとコレとコレと〜……」


 ラミーは早速店員を呼び止めて店のメニューから美味そうなものをどんどん頼み始める。



 ──オススメは何ですかー?



 ──羊肉の衣揚げになります



 ──じゃそれも〜



「うん、じゃあ頼むよ。俺は、泊まる場所を探すからな」


「は〜い。」



 俺は、この後の計画を考える。


 まずは、ステータスの確認をして、適正なランク帯のクエストがあればそれをこなしつつレベルを上げ、装備を整えていく必要がある。


 近いうちに災厄が現れることは間違いない。どれくらいの時間が残されているかはわからないが、少しでも戦えるように準備を整えておくべきだろう。



 ──えーと、あとお水を小樽で2つもらえます?



 ──あ、はい。大丈夫ですよ〜



 そして、この先旅を続けていくとなれば、移動の為の荷獣、もしくは馬なんかも必要になるだろう。


 ゲーム時代のシミュラクルにも、確かに食事や睡眠の要素はあったが、それはあくまでも回復アイテムまたは一時的なステータスへのボーナスを目的とした物だったので長期間何も飲まず食わずであっても特に問題は無かった。



 ──お待たせしましたー



 ──やたー!おいしそー!



 だが、この世界が現実になった以上、今後は食事や休息の取り方も考えていかなければならないだろう。転生前リアルの生活で自炊した経験があることがせめてもの救いか…



 ──あと、店員さん…ごにょごにょ



 ──ああ、でしたらウチにもありますよ



 ──そうなの?いくらくらい?



 ──等級は高くはないですが…ごにょごにょ



 ──へーそうなんだ〜。じゃあ〜



 目下のところ、まずはこの街で情報、資金、仲間の優先順位で戦力を整えていく。そして、頃合いを見てから更に大きな街へと移動して……




 ◇◇◇




「──ん?」


 しばらく考えに集中していると、視界の端でひらひらと動くものがある。

 ラミーの尻尾だった。



 横を見れば、いつの間にか食卓には大量の料理が並べられていて、それを前にラミーが目をキラキラさせている。

 でも、手をつける様子はない。

 自分がお金を払わないことに気が引けているのか、チラチラと俺の方を見ては尻尾の先だけを器用に左右に降っている。


 きゅるるという音が鳴り、ラミーが完全に下を向いてしまったところで思わず声をかける。



「さ……冷めないうちに、──どうぞ?」


 まあ、頭を使うのは十分な休息をとってからでも良いだろう。それに、情報が揃わない中で考えても無駄が多いだけだ。



「えへへ……じゃ、いただきます!」


 ラミーは早速、鳥の丸焼きを鷲掴みにして齧り付いた。

 その後もガツガツと言う感じで飯に手を伸ばす彼女は、何というかかなりワイルドだった。



「ちょっと行儀悪くない?」



「にゃによう、ふぉいしそうなんだからしょうがないじゃない!…ゴクン。それに、お料理だって喜んで食べて貰える方がきっと嬉しいんだから、食べ方はあってると思う!」



「…まあ、それもそうか。」



 ラミーの言う通りだ。美味しいものは食える時に食べておく。一度街の外へと旅立てば、次にまともな料理が食べられるのは随分先になるのかもしれないのだから。



「あ、そうそう。ここの2階は宿になってて、いまちょうど部屋に空きがあるんだって〜」



「お、そうなのか。」



「食料になる獣とかを捕まえて渡せば食事代はサービスしてくれるってよ?」



「お〜。それはいいな」



「うん!そんでね〜」




 ◇◇◇◇◇◇




 結局、俺たちはその⦅金色亭⦆という食堂の二階にしばらく滞在することにした。

 俺が飯を食い終わる頃にはラミーが既に眠そうにしており、宿も決まったので、なんだかんだでその日のうちに片付けておくべきことは無くなった。


 俺たちは情報収集の予定を明日に延期し、その日は早めに休む事にしたのであった。



 ◇◇◇

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