第6話 農耕都市⦅カナン⦆


 ◇◇◇◇◇◇◇ 


 ……徐々に視界が明るくなっていく──



「おお〜い」



 ……聴き慣れた声がする。



「お〜い、フィーンー?お〜いってばー!」



 フィンが薄く目を開くと、そこには見慣れた顔がある。



「あ、やっと起きたね!もう少しで、蹴るとこだったよ!ここ、何処だろうね?」


 オレンジの髪に、アーモンド型の目をした人虎ワータイガーの少女、ラミーだ。


「ん……ああ。結構痛かったよ。」


 フィンは少し呆れたように笑い、彼女の言葉に応える




「ぇえ!?蹴ってないから!あたし、蹴ってないよ!?」


 ラミーは不本意そうだ。が、フィンが彼女に蹴られたことだって嘘ではない。ただそのやり取りで、彼を蹴ったラミーが、目の前にいる少女ではないことを改めて認識し、彼は少しの寂しさも感じた。




 辺りを見回すと、どうやら此処は先程の転移先とは別の場所らしい。世界座標から察するに、ここは中央大陸西方に位置する穀倉地域のどこかのようだ。



 辺りには小麦のような作物を育てている畑が点々とあり、近くには川も流れていた。



「なーんか、すごい牧歌的なところだねぇ。」


 ラミーはフニャフニャと尻尾を振りながら目を細めている。


(こいつ……完全に猫してやがるぜッ)



「ああ、そうだな。」



(そうか。学園都市のダンジョンにある転移門ゲートの行き先は同じ⦅パートナー⦆を選んだとしても固定ではないのか……これはゲーム時代の仕様と同じだ。さっきの転生のときは世界座標とワールドクロックは確認できなかったから、これでは始まりの災厄がいつ何処に出現するのかの情報は今のところ全くないな。)




「ううむ……先ずは何から取り掛かるべきか……」



 その時、ぐぅ。という腹の音が横から聞こえる。



「ラミー、とりあえず街でも探してメシにしよう」



「それな!あたしもそうしたいって思ってたとこ!」


 彼女は満面の笑みでそう返した。



「んじゃ、とりあえず近くの農民にこの辺りに街がないか確認だな。」



 フィンは辺りを見回す。


「あそこに白い煙が立っているところがあるから、とりあえずそこへ向かおう」



「オッケー!じゃ、行っこ〜」


 なんだか間延びした声でラミーが号令(?)をかける。



(前の転生は俺もラミーもピリピリしてたからあんまり違和感なかったけど。いつものこいつはこんな調子だったんだっけな。)




「はいはい。あんま飛び跳ねんなよ。腹減るぞ」


 しょうがない奴め。





 ◇◇◇◇◇◇




 ──約4時間後





「ま、まだ着かないの〜?こんなに遠いなんて。聞いてないよぉ。」





 案の定というか、ラミーは出立から1時間ほどして直ぐに動けなくなった。




「おぶってもらっておきながら、その台詞は無いだろう。」



なので現在は、フィンの背にへばりついて運ばれている。




「だって、あの農夫のオジさんが道なりに進んだら割と近くに大きな街が──って言うから……」




「あの農夫の感覚と俺たちの感覚が少しズレていたとしても、それを詳しく確かめなかったのは俺たちの責任だ。まあ、最悪今日は野宿になるから、飯は乾パンになるな。」




「ええ〜〜!野宿やだぁ!」



「じゃあ自分で歩くんだな。ペースをあげないといつ着くかわからんぞ?」



「ふぇぇ〜〜」



そんなやり取りをしていた時だった。





 ──ゴーン……ゴーン……





 遠くで響く鐘の音が、ふいにフィン達の耳に入ってきた。



「あ、あれ!あれがたぶんさっき聞いた⦅カナン⦆って街じゃない?」


 ラミーの指差す方に目をやると、確かにその方向に塔のような高い建物が見える。




「おそらくそうだろう。確か、時計塔という建物があるとか……」




「へぇ、トケイ糖かぁ!なんだろうね!なんだかお腹が空いてきたよ!」




「ん。いや、ラミー。時計塔は建物だ。コンペイ糖みたいに言うなよ。決まった時間になると尖塔の上でああして鐘を鳴らし、この辺りの住民はその音を頼りに一日の時間を知り、それに従って生活しているんだ。」





「ふーん。フィンは物知りだなぁ。学園の成績は、そこそこだったのにね!──ぐぅ。なんでもいいけどお腹がペコペコだよぅ。」





「子供かお前。よし、とりあえずあとちょっとだ。もうゴールは見えてるんだから、自分で歩けよ。」




「はぁーい♪」



 ラミーはフィンの背からシュタッと音を立てて飛び降りると、軽い足取りで歩き始める。



「やれやれ」



 こうしてフィン達は、ついに学園都市を出発して初めての街⦅カナン⦆へと無事に辿り着いたのだった



 ◇◇◇

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