第22話 僕はムタくんと仲良くする


 朝日が眩しくて、目を覚ます。

 隣には誰も寝ていない。それもそのはず。僕は昨日、寝るまでやっていたのだから。

 いまでも感じる、下腹部の異物感。

 中を押し広げられて、快感よりも痛みがあった。だけど、友達に聞いた話だと2回か3回すれば快感に変わる。

 キースさんのモノはムタくんのモノより大きくて、凶悪だった。反り上がっていて、壁をゴリゴリされて。ムタくんとはヤッていないけれど、その違いは歴然だった。


「はぁ」


 幸せなため息が漏れた。

 これからはムタくんじゃなくて、キースさんに相手をしてもらおう。好意を持ってくれているムタくんが相手だと、罪悪感もあって、ちょっと困るのだ。

 その点、キースさんは秘密さえ守ってくれれば問題ない。

 このことがほかの人たちに露見しなかったら、万事オッケーなのだ。


「……昨日ムタくんとの約束、ブッチしちゃったな」


 ふと思い出し、これからのことも話しに行こうと着替えを済ませる。


「姉ちゃん」


「レン? どうしたの?」


「は、入っていい?」


「いいよ」


 レンが入ってきて、キョロキョロと部屋を見回す。


「あいつは?」


「あいつって……キースさん? キースさんなら、昨日の夜のうちに帰ったよ」


「そうなんだ」


 少し大人しくなったように思う。おとなしいというより、何かに怯えているというか、なんだろう?

 レンが安心した表情を見せて、部屋の中に入ってきた。そして、意を決して表情で僕を真っ直ぐに見つめる。


「姉ちゃん、俺、俺も軍隊に入りたいんだけど、いい?」


 レンが、軍隊に?


「いま作ってるだろ、昨日来たやつと、もう1人の怖いおっさんの2人で」


「あれは、でも、レンはまだ子どもだし、まだいいんじゃないかな」


「ダメだ!」


 僕が軽い気持ちでそう言うと、レンは握り拳を作って、自分の無力さを嘆く。


「ダメなんだ。俺は、このままじゃ。姉ちゃんを、みんなを守りたい。守るための力が欲しい。大人になるために、必要なことなんだ。子どものままじゃ、いられないんだ!」


 昨日のことを気にしているのだろうか。

 僕が、まだ子どもだからダメだと言ったことを。


「でも、俺みたいな孤児なんて、普通に行っても追い返されるだけだ。姉ちゃんに頼らなきゃいけないのは、悔しい。だけど、俺を軍隊に入れてくれ! 頼む!」


 まるで土下座でもしようかというくらい、僕に迫る。

 顔と顔が近い。

 僕はこの世界では背が低いほうだ。150cm程度なんて、そんなもので、レンは140cmほどある。これからメキメキ伸びて、きっと170cmは超えるのだろう。

 無性に頭を撫でたくなって、撫でた。


「な、なんだよ急に」


「別に、なんでもないよ」


 少しの間そうしていると、さすがにレンが居た堪れなくなったのか、手を払った。顔は真っ赤に染まっている。


「ありがとう、レン。軍隊って厳しいけど、いい?」


「覚悟の上だ!」


「そっか。じゃあ、一つだけ約束して」


「……なんだ?」


「絶対に生きて帰ってくること。何があっても。戦争に出たとしても」


「姉ちゃんが死ぬまで死なねぇ。だから大丈夫だ!」


 拳を前に突き出すレン。

 僕はそんなレンの拳に自分の拳を当て、頷いた。



 レンと一緒に教会を出て、ムタくんのいるコンビニ2号店に入った。

 ムタくんに、これからは相手をしなくてもいいよ、というためだ。


「アカリさん?」


「おはよう、ムタくん」


「おはようございまッス! どうしたんッスか?」


 寝起きで寝癖がついたままのムタくんを、久しぶりに見た。

 片方の眼はずっと隠れているはずなのに、寝癖があるから両目がぱっちり見える。


「昨日来なくてごめんね。でも、ムタくんに頼らなくても、ここいる間はなんとかできそうだから、それを伝えにね」


「……え?」


 ムタくんの明るい表情が、一気に暗くなる。


「それって、俺以外の誰かとしたってことッスか……?」


「そう、だね」


「誰ッスか!? 俺を差し置いて、誰とヤッたんスか!?」


 両肩を力強く掴まれた。

 顔が近い。ていうか、そんなに近づかなくても。


 それに、なんとなく恥ずかしい。こんなに近くでムタくんの顔を見るのは初めてだ。


「その、キースさんだよ。ほら、ゼルさんと一緒に軍隊を作ろうとしてくれてる」


「あいつッスか。ぶっ殺してくるッス。よくもアカリさんの純情を……!」


「違うよ!? あれはその、キースさんだけの問題じゃないし、むしろ私の希望を聞いてくれたっていうか、なんというか」


 ムタくんの目が座っている。まるで怒られているみたいだ。


「ということはッスよ? もしかして、アカリさんはあいつのことが好きってことッスか……?」


「違う違う! それは絶対ないし!」


 慌てて否定する。

 なんて勘違いをしているんだ、ムタくんは!

 僕がキースさんを好きになるなんてないのだ。少なくとも、いまのところはそんな予定はない。男はみんなご主人様だ!


「じゃあ、なんで俺じゃなくてあいつなんスか。俺の何がダメなんスか。教えてくださいッス。お願いッス。これまで、ずっと、俺――」


 そこまで言って、ムタくんはハッとして口を噤む。

 続きはなんとなく予想できた。そこまで突っ込んで話していいのか。


 ムタくんには、僕が性奴隷になりたいということを伝えていないから。それを伝えていいのだろうか。失望しないだろうか。期待を裏切らないだろうか。


 なんで、こんなことを気にしているのだろう。

 僕は性奴隷になりたい。それは間違いない。ずっとそれが目標だった。

 ムタくんを見た。目が合った。真っ直ぐに僕を見つめる両目が、まるで僕を詰問している。

 気にしなくていい。気にしなくていいはずだ。

 だけど、と、自分の胸に手を当てる。


「……アカリさん、俺、ちょっと一人になりたい」


「え、あ、うん。えっと、ちょっと待って! 私は別に、ムタくんとしたくないわけじゃなくて。ムタくんはきっと、私のことを好きでいてくれているから、なんというか、そういうことを付き合ってもないのにするなんて、ムタくんに申し訳ないっていうか、なんていうか」


 しどろもどろになって言う。

 ここで別れたら、もう二度とムタくんと仲良くなれない気がした。だから、なんとしてでも引き止めたかった。

 だからと言って、こんな止め方はないだろう。


「アカリさん、そんなこと気にしてたんスか。確かにちょっと虚しいッスけど、好きな人と一緒になれるなら、嬉しい気持ちも結構あるッスよ!」


「……でも、私はムタくんだけのものになれないから」


「それでもいいッス! 俺は俺なりに、アカリさんを大事にするッス」


 ムタくんに手を握られ、引っ張られる。

 背中に手を回され、僕もムタくんの背中に手を回した。


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僕は性奴隷になりたい~異世界にTS転移したんだけど、宗教戦争に駆り出されて辛いです~ 初夏 終冬 @shutou_shoka

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