エンディングフェイズ
0 ちよとかすみと高見
「本当に行くのか」
「決めたんですっ」
大賀が笑顔で言うのに高見は、そうか、とため息をついた。
エレウシスの秘儀を破壊する作戦から翌朝。
高見たちはどうして、化け物を産み出す遺産を破壊することにこだわったのかを思い出すこともなく、支部に戻り、後片付けに精を出した。
主に霧谷への謝罪と言い訳にかなりの時間を必要としたが――今回は命令無視ということで咎めは受けたが、無事に遺産をなんとか出来たということで、ある程度は寛容された。
隊長である椿が遺産破壊後に行方をくらましたマルコ班は一度本部に戻るというのに、大賀が出来たら本部に行ってみたいと言い出したのだ。
マルコ班は常に人手不足のため歓迎と言われたがすぐに発つというので大賀は自分の荷物を手早くまとめることになった。
リュック一つ背負って大賀は笑って高見に敬礼する。
「しかし、大賀よ。私より、言うべき相手がいるだろう」
「え、あ、かすみ、ちよ」
高見の背からかすみとちよが顔を出したのに大賀は焦った顔をした。
「大賀、マルコ班にはいるんだって」
「かすみちゃんを置いて」
二人にジト目で睨まれて大賀は大いに慌てた。一応、二人には手紙をそれぞれ残しているのだが、まさか追いつかれるとは。
「あ、あははは……オレ、もっと強くならないといけないってわかったんだ。かすみ、待っててくれる?」
「……ばか。仕方ないから手紙ちょうだい。待ってるし」
「えへへ。ありがとう」
その答えに大賀が白い歯を見せて笑った。
「ちょっとー! いいの、それでいいの、かすみちゃん!」
「ちよ、いい女の条件は、寛容さだぞ?」
頭をかかえるちよに高見が両肩を竦める。
「そろそろいきますよー」
アイシェが声をあげるのに大賀ははーいと声をかけて駆けだした。
「にしてもいいんですか? 椿さん、いなくなっちゃったの。別に班の持つ遺産がなくなったとしても、だからってマルコ班が解体されることはないんでしょう?」
駆け寄ってきた大賀に問われて、アイシェはゆるく微笑んだ。
「ええ。報告の際、遺産については変えがきくものだから気にしなくていいとテレーズ様はおっしゃってました。……いいんです。私は……私たちマルコ班は変わらず、そしてあの人を追いかけるんです。もし今度、厄災となって再会しても、これは使わないと言い返すために」
手の中にある銀の銃弾を弄んだアイシェは、すでに加工してネックレスにしたそれを身に着けて歩き出す。
「そういえば、これは誰のかわかるか」
大賀の背を見送った高見が一冊の手帳を取り出して聞いてきたのにちよとかすみはきょとんとした。
古びたその手帳に二人は見覚えがなく小首を傾げる。
「誰かの日記のようだ。楽しい日々のことを書いてある」
「へー」
「いつか、持ち主がとりにくるかもしれませんね」
「ああ、そうだな。ざっとしか見なかったがとても楽しい日々のことを、書いてある。それに可愛いしおりつきだ。ほら」
高見が取り出したそれは小さな紙に描かれたネモフィラのしおりだ。拙い絵だが、それでも懸命に色をつけて、書かれたしおりだ。
「これはちゃんと持っていよう。いつか返せるように」
「そうですね」
「だね。大切なものならとりにくるよ」
三人は視線を交えて微笑み、空を見上げる。
青い空が広がる。
まるで常世の海のようだ。
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