0 椿
世界の果ては海だとなにかで言っていたな、と椿が思い出したとき、腕に甘えるようにきぃが飛びついてきた。
横にいる侘助が慌ててふらつく椿を支えた。
遺産破壊後、なにかの気配を察した椿は急いで侘助に乗って、きぃとともに移動した。
力を使い過ぎて疲労困憊しているうえ、このままレネゲイドウィルスの強い環境にいればきぃが暴走すると予想したからだ。
自分たちの持っていた遺産が破壊された――その責任をこのまま逃亡する自分が背負えばいいと思ったのだ。
アイシェぐらい頭がいいなら、きっとそれくらいは察するだろう。
街を抜けて、海沿いの道を歩く。
朝から歩きどおしでふらふらしているとさざ波が聞こえてきた。
「よぉ、椿」
目の前に立つ男を見て、ぎくりとした。
「……日下部」
「迎えにきたぜ。新しい世界を作るために。お前が暴走したとき、俺が必ずお前を殺してやる」
伸ばされた腕に椿は静かに笑って手を伸ばし返した。もし、厄災となっても、それ以上の力で殺してくれる友がいる。人はそれを殺伐というかもしれないが、椿は、知ってしまったからこそ自分が怖い。許したくない。許せない。罪を背負って生きることはできるが、どうしようもなく自分の無力さも知っている。
「マスターレイス、日下部仁、神となるために世界を変える」
「マスターレイス、椿十九、完璧な蟲を作るために世界を変える」
互いに名乗り合い、かたく抱きしめあう。
迷い続けて、ようやく先へと進む。そのためだけに再び出会った。
「で、FHに戻ってきた感想はどうだ」
「コードウェルに会うのがいやだ」
「あははは、違いない! 俺もしばらく雲隠れしていたからな。あいつに会うのは億劫だ」
明るい声とともにきらめく海の先へと向かっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます