第15話 蠢動

「小娘が王都に入ったか」


 そこは薄暗い石造りの壁に囲まれた一室。明り取りの窓はなく、卓上の蝋燭だけが赤い光を放っている。


 その光に照らし出されているのは、円卓を囲むように座る、フードを目深に被った4人の男達だった。何れも年老いた印象だ。


「急ぎで揃えた冒険者崩れでは、やはり難しかったようだな」


「一体、どんな啓示を受けたと言うのだ、小娘如きが」


「それが分からんからこうして集まっておるのだろうが。しかし、どんな内容であれ陛下の耳に入れば我ら教会の有りようにも影響がでかねん。何しろ神からの言伝なのだからな」


「神の言葉を伝える事が出来るのは我ら教会だけでなくてはならん。小娘の話がどんな物であれ、それは間違いでなくてはならんのだ。その為にも一刻も早く内容を知り、対策を講じる必要がある。各自、己が持ちうる手段をすべて用いて、神託の内容を早急に調べよ」


「仰せのままに」


 上座に座る白い顎髭の男の言葉に、残りの三人が同じ返事と共に頭を垂れた。





「ねえ、アレックスは馬に乗れるの?」


 俺はあれから毎日、一つ星でもできる仕事を黙々とこなしてます。二日目は街の外壁補修工事、三日目は畑の草むしり。今日は果樹園の収穫だ。今は涼しい風が抜ける木陰で休憩中。


「はい、昔は商隊に付いて街を回る事も多かったですから」


「俺、乗ったことないんだよね。移動するなら乗れた方が便利だろうから、乗れるようになりたいんだけど教えてもらえないかな」


「なら、貸し馬屋に寄ってみてはいかがですか。大抵、馬場を貸してくれて馬の扱いに慣れた者が教えてくれますよ」


「そんなとこあるんだ。知らなかったよ。じゃあ、明日にでも行ってみようかな。仕事も楽しいけど休みは必要だしね」


「では、私の方で手配しておきますね」


「おーい、そろそろ始めるぞー」


 ちょっと離れたところから、今日の依頼主の声が聞こえる。


「はーい、今行きまーす。行こうかアレックス」


「はい」


 アレックスは元々冒険者登録も済ませていたので二日目からは一緒に仕事を受ける事にした。毎日付いてくるなら同じ事だ。一つ星の仕事は基本人手が足りない単純作業だから二人の方が喜ばれたし。


 今日収穫してるのは梨みたいな外見でリンゴみたいな味のするロタの実と呼ばれる果物だ。種は真ん中にデカいのがあって桃みたい。色々混ぜ過ぎだよ。年に四回収穫できるらしい。謎植物か。


 引っ張っても取れないけど、軽く持ち上げてやると蔕が簡単に切れる。上手く出来てるもんだと感心した。休憩を何度か挟みながら日暮れ前まで黙々と収穫作業を続けた。


「ようし、もう上がってくれ。今日は助かったよ。婆さんが腰やっちまって困ってたんだ。痛たたた。ワシもこの通り膝の具合が悪くて無理もできんしな」


「良かったらマッサージしましょうか?意外と上手いんですよ俺」


「そんな事できるのかい、お前さん。じゃあ、少し頼むかな。教会に行ければ少しは良くなるんだろうが、金も時間もかかるから、つい我慢しちまってな」


 ベンチに腰掛けた爺さんの足をゆっくりと揉みながら軽く回復ヒーリングをかけていく。


「へぇ、教会ってそんな事もしてるんですか」


「聖女様がいらっしゃるからな。聖なる癒しの力ってやつだ。それに今の聖女様は力も強いらしくて人気があるから教会の診療所はいつも混んでるんだよ」


「はい、終了。こんな感じですけどどうですか」


「おお、痛みが無い。凄いなお前さん」


 立ち上がり何度か屈伸を繰り返してから爺さんは唸った。


「これなら夕飯を出すから婆さんの腰も頼めんか?」


「いいですよ。時間はありますから」


「よし、じゃあ家に行こう。大した飯じゃないが婆さんの料理は美味いぞ」


 俺たちは爺さん自慢の美味しい夕飯をご馳走になりました。いや、マジ美味かった。アレックスも驚いてたもん。婆さんの料理、侮れん。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る