第16話 乗馬
今日は楽しい乗馬の訓練だ。アレックスが受付をしに行ってくれたので、柵に寄りかかり放牧されている馬を眺めている。そこに一頭の鹿毛が寄ってきた。人の顔を眺めてから一言。
『チッ、腑抜けた顔の野郎だな』
「余計なお世話だ」
『何だお前!俺の言葉が分かるのか!』
「そうだよ。だから余計な事しゃべってんじゃねえ」
『!姐さーん、変な奴がいるんですー』
そう叫びながら走り去ったと思ったら、暫くすると見事な体躯の芦毛がさっきの鹿毛と一緒に近づいてきた。
『コイツかい?』
『そうです。コイツです。俺たちの言葉が分かるみたいで、気味が悪いんです』
「何だ、ビビッて仲間連れてきたのか」
『こりゃ驚いた。ホントに分かるのかい』
「さっきもそう言ったよ。丁度いい。お前ちょっと俺に協力してくれないか」
『協力?何させるつもりだい』
「俺に乗馬の練習をさせてくれ」
『ハッ、言葉は分かるのに馬には乗れないのかい。ホントに変な奴だね』
「ダメか?」
『いや、面白そうだ。あたしが直々に付きあってやるよ。その代わり下手な乗り方したら振り落とすけどいいかい?』
「落馬しないように努力するよ」
話が付いたところでアレックスが貸し馬屋のオヤジを連れて近づいてきた。
「お待たせしました。馬を選びに馬小屋に行きましょう」
「馬なら決まったよ。コイツで頼む」
馬屋のオヤジに後ろの二頭を見せる。
「ああ、この鹿毛なら丁度いい。ネロは気が小さくて大人しいから」
「いや、俺はこっちの芦毛で頼みたい」
「そっちはオルフェって言うんだが気難しくて初心者には向かないよ。鞍付けるのだって大変なんだから」
「大丈夫、大丈夫。取り敢えずやってみて。アレックスはこっちでいい?」
「はい、私はどちらでも問題ありません」
「怪我してもウチは知りませんからね、まったく」
ぶつくさ言いながら小屋から持ってきた銜をセットして手綱をつなげ、鞍を腹帯で固定する。
「驚いたな。なんでこんなに大人しいんだ。こんなの初めてだよ」
俺が話し付けといたからですよ。言っても信じないだろうけど。
付けられた鞍には鐙が無かった。うっ、これ尻の皮が剥けるやつだ。
「長目の丈夫な紐無いかな」
「あ?こんなんで良いかい」
渡されたのは引き綱。硬そうだけど使えるかな。長さを見ながら両端と中央に輪を作る。中央の輪を鞍のホーンに引っ掛けてズレないようにしたら簡易鐙の出来上がり。輪が絞まらないように舫い結びにしてみたけど何とかなるだろ。無いよりは多分マシだ。
早速、ホーンを掴んで紐の輪に足をかけ颯爽と跨ってみた。結構いけるね。
「兄さん、凄いね。ホントに乗れないのかい。それにコイツは何だい?随分と便利そうだな」
「使えそうなら後で教えるよ。さあ、練習始めよう」
「えらいせっかちだな。じゃあ、まずは俺が牽くから足運びを感じながら乗っていてくれ」
引き綱に繋がれたままポクポクとゆっくり進む。
「止まる時は状態を起こして気持ち重心を後ろに移しながら拳一つ分くらい手綱を引いてくれ」
「こんな感じ?」
「そうだ、上手いぞ。よし、自分で
そう言って馬屋のオヤジが引き綱を外した途端にオルフェが走り出す。
「テメエ、狙ってやがったな」
振り落とされないように手綱にしがみつきながら鐙に体重を移し尻を上げる。
『ふふん、せいぜい頑張りな』
馬の分際で人をばかにやがって。これはお仕置きだな。ジワリと足の動きを阻害するように念力で力を加える。
『何だいこれは』
脚を押さえつけられ走れなくなったオルフェは仕方なく
『あんた何したんだい。あんなことされたんじゃ走れやしないじゃないか』
「いきなり走り出すお前が悪いだろが。初心者には順番が大事なんだよ。それにさっき付き合うって言っただろ。俺が早く上達すれば、その分お前も好きに走れるようになるんだかちゃんと協力しろ」
『分かったわよ。ちょっと悪戯してみたくなっただけだから、もうあれは勘弁して』
「よし、じゃあ常歩からやり直そう」
訓練は夕方まで続いた。
『なんか変なのと関わっちゃった。グスッ(泣)』 by オルフェ
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