第14話 ルカ

 イーバはその場で頭を切り離し、血抜きと内臓モツ抜きをしてから、丈夫そうな枝に足を括りつけて二人で担いで街まで帰った。鮮度の問題もあるけど、少しでも軽くしたいからね。角は薬の材料として売れるらしく、根元から叩き折って持って帰ります。


「お前、力もあるんだな」


 街の肉屋で猪を降ろして平然としてる俺を見てマットが驚いてた。いや、担ぎ棒は念力で支えて肩に載せてるフリしただけですから。そりゃ何も疲れませんわ。


 予想外の稼ぎになったらしく、分け前とは別で夕飯はマットが奢ってくれることになった。宿に戻れば商会持ちで食べられるけど、せっかくの機会なんで厚意を受ける事にした。


 ギルドに帰還の報告をしてから連れていかれたのは、ギルドの裏手にある古びた食堂だ。中は魔法なのかランプがいくつも灯され意外と綺麗で、料理も美味かった。パロは昨日の店の方が美味かったけど。


 食事が一段落するとマットは料理を運んできてくれてたお姉さんと鼻の下を延ばしながら二階に消えていった。妙に色っぽい女性が多いと思ったら、そういう店だったようだ。入る時にアレックスが眉を顰めた意味が分かりました。俺も誘われたけど病気が怖いんです。


 冒険者はこんな感じが多いらしい。確かに危険も多いから楽しめるうちに楽しもうってとこだな。死んだら金は持っていけないからね。俺は持ってきたけど。


 階段を上っていくマットの後姿を見送ってから俺たちは店を後にした。


「初日にしては結構楽しめたね。マットに誘ってもらえたのは運が良かった」


「そうかもしれませんね。普通、新人の初仕事はゴミ拾いとか倉庫整理なんかが多いみたいですから」


「新人が一人で狩りに出てもいいのかな」


「届けを出せば大丈夫みたいですね。でも依頼を受けた方が実績が評価されやすくて星が増えるのが早いらしいです」


「ギルドの仕事を熟した方が貢献度が高くなるのはしょうがないだろうな。今日は特別だったと思って暫くは真面目にギルド経由の仕事して二つ星でも目指そうかな」


 そんな話をしながら二人は宿へ向かった。







「ルカ様、王都が見えました」


 アルスの声に馬車の窓から頭を出し、前方を眺めると長大な壁に囲まれ、中央の丘の上に王城を戴くエリュシオン王国の王都エリューカが目に入った。


「三年ぶりか」


 今回の旅路は初日から波乱があったため感慨も一入なのか、懐かしい風景につい独り言が口をつく。


 隠密でローバーを出たはずなのに、盗賊が出た事など無い場所でいきなり襲撃を受けた。偶然の可能性も無い訳でもないが、余りにも狙いすましたようなタイミングだった。隠密行動の為に多くの護衛を付ける訳にもいかず、限られた信用できる兵のみで行動した隙を狙われた。


 護衛の一人は失ったが、通りかかった青年の助力で何とか切り抜けられた。実に不思議な力を使う青年だった。無詠唱の魔法で賊を薙ぎ倒したかと思えば、手傷を負った護衛の怪我を見たことも無い術で治してしまった。あれは聖女様の癒しの力とは違う力だ。


 メリルの件もあり引っ掛かるところがあった私は、ローバーへ向かうという青年に指輪を渡し、後の事をバランに託すことにした。私には果たさねばならん事がある。バランならば私が指輪を届けさせた意味を理解してくれるだろう。


 盗賊の持ち物を検め、護衛を埋葬してから馬車のところまで戻ると不思議な光景に出くわした。倒された馬車は起こされ、斬られたはずの御者のラッツの傷は癒されていた。しかも逃げ散ったはずの馬たちが揃ってこちらに歩いてきたのだ。


 これもあの青年の仕業なのだろうか。だとすれば益々このままにすることはできない。一刻も早くバランに正確な事情を伝えなければならん。しかしそれも王都に着いてからだ。今は戻るわけにはいかん。断腸の思いで王都を目指してきたのだ。


「陽が落ちる前には街に入れます」


「うむ、ここまで来たとて決して油断はするな。あと一息。頼むぞ」


「はっ、お任せください」


 一台の馬車と三頭の馬は王都を目指してひた走る。

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