《後編》精霊の愛し子のお仕事

 ◇◇王宮◇◇



 あの騒動から一ヶ月。学校はすでに落ち着きを取り戻している。


 精霊の愛し子を騙った件についてメリザンドは、無教育だったことと悪質な詐欺目的ではなかったことが考慮され重罪にはならず、刑は一年間の緩やかな拘束と奉仕作業で済んだ。学校は退学になり身は修道院預りとなったけれど、刑を受け入れ穏やかに暮らしているらしい。

 それから私への名誉毀損。あちこちから訴えるように勧められたけど、やらなかった。酷い嘘ではあったけれどイシドールにしか話していなかったからだ。それに愛し子の件で裁かれているのだから、それで十分だ。


 一方でイシドールは。

 愛し子の件は、彼も騙されていたことだからと不起訴になった。ただし代わりに、教会が行っている慈善事業に二ヶ月間の奉仕をすることが義務付けられた。

 また学内で騒動を起こしたことにより、三ヶ月の停学と、奉仕活動以外は謹慎となった。

 卒業までのカウントダウンには、楽しいイベントが幾つもある。学校に在籍しているのに、それに一切出られないのだ。なかなかに辛い罰だろう。

 だがイシドールは納得しており、教会のバザーで売る品物を作ったりして静かに暮らしているそうだ。


 彼と私の婚約は解消になった。



 ◇◇



「王宮でお茶なんて初めて。緊張するわ」

 コンスタンスが小さく囁く。ベルトランに、仕事は直接見たほうがいいからと言われて王宮に招かれたのだ。私だけだと外聞がよろしくないからと、コンスタンスも一緒に。通常ならば、まだ学生で未成年の私たちが王宮に訪れることなどない。私だって五年ぶり二度目。つまりほとんど初めてと言っていいはず。


「まったく。緊張しすぎよ」とフィフィファ。

 菓子受けに乗ったチョコをひょいとつまむと素早く口に入れた。コンスタンスはよそを見ている。

 フィフィファはうさぎなのにチョコが大好きなのだ。だけれど人前では食べない。彼女を見えない人からすれば、突然チョコが消えたようにしか思えないからだ。


「あら?」とコンスタンス。「マリエット、いつの間にチョコを食べたの?」

 もう!私が食べたと思われているじゃない。

「内緒!」

 と言って誤魔化す。


 と、開いた扉から笑みをたたえたベルトランが入ってきた。その後ろにはエドモント。彼も一緒だなんて聞いていない。

 立ち上がりつつコンスタンスを伺うと、顔が強ばっている。


 ひと通りの挨拶を済ませて着席をする。

「僕ひとりだと外聞が心配だから、エドモントも呼んだよ」とベルトラン。

 そうですかと答えるが、エドモントも顔が強ばっているからもしかしたら、彼も婚約者が同席することを知らなかったのではないだろうか。


 しばらくはとるに足りない世間話をして。皆のお茶がなくなるタイミングでベルトランは、

「マリエット。そろそろ行こうか」と切り出した。

「ええ。よろしくお願いします」

「ああ。悪いがこの先は彼女しか連れていけない。君たちはゆっくり寛いでいてくれ」

 コンスタンスとエドモントの顔が再び強ばる。だけれどベルトランはにこやかに、それではまた後でと言って私を部屋から連れ出した。


「策士ねえ」

 いつの間にかベルトランの肩に座ったフィフィファが言う。

 策士とは?首を傾げる。


「マリエットのポストの件だけど」とベルトラン。

「どんなものかしら?」

 一応、国王にはベルトランから紹介を受けると伝えてある。返事は、私が気に入ったなら引き受けることを勧めるというものだった。

「まずは中庭」

「中庭?」


 黙ってベルトランについて行く。庭でのお仕事は庭師しか思い浮かばない。それも楽しそうだけどまったく経験はないから、何をして私に向いていると判断したのだろう。それとも庭師ではない仕事があるのだろうか。


 建物を出ると中庭には可愛らしい温室があった。ベルトランが扉を開けて通してくれる。中は春の花が雑多に咲き乱れていた。いや、雑多に見せかけて計算され尽くされた配置なのかも。とても美しい。


 フィフィファがふわふわ飛びながら、何度もため息を繰り返している。彼女も感激しているようだ。妖精だからなのかうさぎだからなのか、春の自然が大好きなのだ。


「素晴らしいわ」

 そう言うとベルトランは、こちらだと言ってまた私を導く。その先には小さな円卓。お茶とお菓子のセット。

「座ってくれ、マリエット。実は、エドモントとコンスタンスをふたりきりにさせたかったんだ」


 ベルトランによると、彼も親友エドモントとコンスタンスの仲の悪さが心配だという。だけどこのふたりの場合、腹を割って話し合えば歩み寄れるのではないかと、ずっと考えていたそうだ。しかしふたりはなかなかお互いに向き合わない。

 卒業まであと少しということは、結婚までもあと少しということ。そこで考えた苦肉の策が、あのカフェテリアへのお誘いだったそうだ。四人でテーブルを囲み、適当なところでベルトランと私が席を外す。


「ほらね、策士でしょう?」とフィフィファ。手にいっぱいのしろつめ草を持っている。いつの間に摘んだのだ。というかしろつめ草まであるのか。


「コンスタンスのこと、お気遣いをありがとう。だけど大丈夫かしら」

「大丈夫だと信じている。徹底的にすれ違っているふたりだけど、エドモントは彼女が好きなんだ」

「ええっ」


「そうなのよ」とどこかに飛んでいってしまったフィフィファの声がする。「彼は本当はコンスタンスに好かれたくて仕方ないの。だけど嫌われているでしょう?だから苦しくて酷い態度をとってしまうの。悪循環ね」


 フィフィファ!知っていたなら何で教えてくれなかったのよ!


「どうして言ってくれなかったの?と思っているでしょう」フィフィファがベルトランの背後から、にょきっと顔を出す。「私は人間の恋に口出ししてはならない決まりなの。あなたが知らないことは伝えられない。アドバイスも出来ない。ごめんね」


 そうして彼女の姿はまた消えた。


「そんなに驚いたかい?」

 ベルトランの声に慌てて彼を見る。

「ええ。気づかなかったわ。コンスタンスも微塵も分かっていないと思う」

「僕もそう思う。だからこその、この時間だ。うまくまとまると嬉しいのだが」


 本当だ。コンスタンスはよくエドモントの悪口を言うけれど、心底嫌っているという雰囲気ではない。もしかしたら。彼が自分を好きだと知ったら、良いほうに変化してくれるのではないだろうか。


「それから君のポストのことだけど」とベルトラン。

「本当にあるの?ふたりへの口実ではなくて?」

 もちろんとうなずくベルトラン。それから。


「君が好きだ。私の妃になってほしい」


 妃……?妃と聞こえたけれど、気のせいだろうか。その前には、好き、と。

 かぁっと頬が熱くなる。幻聴じゃないかな。私の願望が夢を見せているとか。


「だって仕事の話を……」

「僕は一度も『仕事』なんて言ってない」


 そう言われれば、そうかも。

 フィフィファを探す。だけどこんな大事なときにいない。

 いや、さっき『人間の恋に口出しできない』と言っていたから、隠れちゃったの?


「好きだ、マリエット」

 胸がきゅうっとなる。夢のような言葉だ。

「だけど私は二度も婚約がダメになった傷物令嬢なのよ」

 両親はすっかり頭を抱えている。さすがに二回は多すぎるから、次の相手は家格をかなり下げなければ見つからないだろうと。

「問題ない。父の許可も得ている」


 はっとする。

 ベルトランの父親である国王は、彼に紹介された仕事を私が気に入ったならば引き受けることを勧めると、手紙に書いていた。


 向かいに座るベルトランを真っ直ぐに見る。

 フィフィファがアドバイスをしないのは、きっと自分の頭で考えなさいということだ。


「ベルトラン殿下」立ち上がり最上の敬意を持って礼をする。「謹んでお受け致します」

「嬉しいけど!堅苦しい」

 私はにこりと笑みを浮かべた。

「私もあなたが好きよ。嬉しいわ」

 目の端に涙がにじむ。と。


「おめでとう!」

 とフィフィファの声がして花が降ってきた。


「おめでとう!

 おめでとう!

 パンパカパーン!

 おめでとう!」


 彼女はあちこち飛び回りながらそう叫び、片手にもったカゴから春の花を取り出して放り投げる。

 どう見てもカゴの容量以上に花が入っている。精霊の魔法だろうか。


「何で花!?」とベルトランが驚き辺りを見回している。「どこから降っている!?あ!!」


 ベルトランの紫色の瞳が一点を見つめる。

「うさぎ!?」

「見えるの!?」思わず叫ぶとベルトランが私を見た。


「パンパカパーン!おめでとう!」

 フィフィファがベルトランに向かってたくさんの花を投げる。



「あなたは今、精霊女王の愛し子になりました!」




 ◇◇



 それから私たちはフィフィファに言われて、王の元に向かった。

 ベルトランはフィフィファが見えるけれど、声は聞こえないという。それに対して彼女は、そういうものなのよと答えた。


 王は私たちが揃ってやって来たのを見ると笑みを浮かべおめでとうと言い、人払いをした。そうして私たち三人とフィフィファだけになると、息子に

「彼女マリエット・ラヴァンディエが精霊の愛し子だ」と言ったのだった。


 ベルトランは驚きの声を上げる。


「マリエット。指輪を息子に見せてやってくれ」

 しろつめ草の指輪がはまった右手を向けると、彼は息を飲んだ。

「愛し子の証!」


「精霊の愛し子とはね」とフィフィファが王の膝にちょこんと座って言う。「精霊女王の愛し子の伴侶のことなの」


 んん?精霊女王の愛し子の伴侶が精霊の愛し子?だけど選ばれたのは、私が先だ。


「どういうこと?」

 するとフィフィファはくるりと向きを変えて王に

「説明しなさい!息子にも聞こえるように」と言った。

「マリエット。フィフィファは説明しろと言っているかな?」

「はい」

「では。昔々のことだ。精霊の女王の娘、精霊の王女と人間の王子が恋に落ちた。そうして王女が生んだお子が我々の祖先だ」

 フィフィファが偉そうにうなずく。


 それは禁じられた恋だったそうだ。女王の代替わりがすぐそばに迫っていた。女王は娘である王女に、人間の元へ行ってはならない、女王になる準備をしなさいと諭していたらしい。


 だけど王女は家出し王子と結婚。あまつさえひとりの男児を産み、その翌日、女王は王女を迎えにきた。

 我が子と離れたくなかった王女は号泣。見かねた女王は、王女の血を継ぐものたちと国の加護をする許可を娘に与えた。


 その証として王女の直系の子供は紫色の瞳を持つ。更に立太子されると、『愛し子』となり精霊が見えるのだそうだ。

 王女は今では女王だから、『精霊女王の愛し子』と呼ばれるという。


「僕はまだ王太子ではありません」 とはベルトラン。

 我が国では、第一王子が二十歳で成人したら王太子になるという仕組みだ。


「柔軟な対応なのよ!」とフィフィファ。

「ケースに応じて、柔軟に代わるらしい。そして『精霊の愛し子』とは『精霊女王の愛し子』の伴侶のことなのだ」


 ベルトランが私を見る。嬉しそうな表情だ。


「『精霊女王の愛し子』は、精霊が見えても声を聞くことはできない。だから『精霊の愛し子』が女王のお告げを聞き、ふたりで力を合わせて国を守る」

 王の言葉にうなずくフィフィファ。 そこで王の表情が翳った。

「ところが私の妃は早世してしまった。精霊の加護があっても病に勝てぬときもあるという。命の理(ことわり)のほうが強いらしい」

「ごめんなさい」とフィフィファ。心持ち耳が力ない。


「妃は亡くなる前に、『精霊の愛し子』の長い不在は不便だから、ベルトランの伴侶が15歳になったら『精霊の愛し子』にすると女王からの言伝てを遺した」


 15歳?伴侶?疑問が幾つもある。


「我々『女王の愛し子』はな、ベルトラン。生まれたその時から星のお導きで、運命の伴侶が決まっているそうだ」


 運命の伴侶!

 ベルトランが再び私を見て、手をぎゅっと握りしめた。


「とはいえ、運命の伴侶と結ばれるかどうかは私たち次第。愚かなことをしてすれ違ったまま生涯を終えることもあるそうだ。そうなると精霊の加護が弱くなり、天災や疫病が起こるという。お前が無事にマリエットと結ばれてくれて、安堵しているぞ」


「私もよ」とフィフィファ。「とても嬉しいわ」

「陛下。フィフィファが嬉しいと」

「そうか」と王はフィフィファのおでこを撫でた。「そうだ、フィフィファ。再びお前に会えて嬉しいぞ」私たちを見る。「彼女は初代の『精霊の愛し子』からずっと、私たちを見守ってくれている」


「えっ!」

 目を見張ってフィフィファを見る。

「レディに年齢を訊かないでね」とフィフィファ。「さっきの温室は、昔の『愛し子』が私のために作ってくれたのよ」

「だけれど、どうして?私は15歳になる前にあなたに会ったわ」

「予定は15歳だったのよ。『愛し子』としての責任と理性や判断を持てるのは、そのぐらいだと考えていたから。だけれどテオドールを亡くしたあなたは、大きなショックを受けて身体も心も弱っていった。だから女王は一か八かで時期を早めたの。『愛し子』としての責任を持てば、あなたがしっかりしてくれるのではないかと考えて。予想は見事に的中!」


 フィフィファに出会った頃を思い返す。優しくて穏やかなテオドールとの文通が大好きだった。彼からくる手紙を心ときめかせて読んだし、彼に送る手紙に素敵なことを書こうといつもはりきっていた。それがある日突然に断たれ、子供の私は受け入れられなかったのだ。


 王の膝から私の元に飛んできたフィフィファを抱き締める。

「ありがとう!」

「ええ!さあ、ふたりに説明をしてあげて」


 自分が弱っていたなんて恥ずかしいことだけど包み隠さずに伝えると、王はそうではないかと思っていたと微笑んだ。私が拝謁したときに、両親からテオドールのことを聞いていたそうだ。そして私はやつれて悪い顔色だった。ただ、表情だけは。責任感に溢れるいいものだったとか。


「僕のマリエットは、さすがだね」

 ベルトランの言葉に王が笑う。フィフィファは、早速のろけている!と言った。

「私も息子の伴侶が君で良かったと思ったよ。ああ、そうだ」と王。「私との契約は仮だ。君がする相手はベルトランなんだ」

「あ、忘れてた」とフィフィファがぽかりと自分の頭を叩く。


 王は息子をそばに呼んで、ひそひそ。それが終わるとベルトランは私の元にやって来た。立ち上がって迎える。すると彼は片膝を地面につき、私の右手をとった。


「マリエット・ラヴァンディエ。しろつめ草の指輪を確認した。そなたは正真正銘の精霊の愛し子である。そして私ベルトラン・バルテルミーの最愛にして運命の伴侶である」


「あら、素敵なアドリブ。やるわね!」とフィフィファが声を上げる。


 ベルトランの唇が手の甲に触れた。そこからじわじわと熱が広がる。あぁ、これは。

 ベルトランは私を見上げてにやりとした。

「君との初キスだ」

 ぼっと顔も熱くなる。


「続きは他で。節度を持って」と王。「おめでとう、ベルトラン、マリエット」


「ベルトラン殿下、光栄です。精霊の愛し子としてあなたの伴侶として、精一杯長生きします」

 僅かに目を見張ったベルトランは立ち上がり、

「約束だよ!」

 と私をぎゅっと抱きしめた。



 ◇◇



 長い廊下をベルトランと並んで歩く。何の配慮なのか、彼の従者も衛兵もいない。


 私は婚約が解消されたばかりなので、ベルトランとの婚約はせめて卒業してから、ということだった。


「だけどこれで一安心」とフィフィファ。ベルトランの肩に座っている。「ベルトランてばなかなか行動しないから、このまますれ違って終わってしまうのかとヤキモキしたわ」

「なかなか行動しないって?」


 フィフィファに尋ねたのだけど、なぜかベルトランがびくりとした。

「彼女は何を言っているんだ?」

 先ほどの言葉をそのまま伝えると、なんとベルトランの頬がうっすらと赤くなった。


「……学校に入った頃から、君が気になっていた」

「まあ!」

 ということは、三年近く前だ。

「だけど君は婚約している。相手との仲が良くないからといって僕が割って入っていいものか、悩んだ」

「二年もね」とフィフィファ。


「メリザンドが現れて、これは婚約が解消になるだろうと待つことにしたのだけど、一向にそうならない。そろそろ待つのはやめようと思ったのが、中庭のプロポーズを見たとき。あの日、君に求婚するつもりでカフェテリアに誘ったんだ。もちろん、エドモントとコンスタンスを置いて君とふたりきりになった後にね」


「三年も待ったのだから、ある意味気長なのね。短気よりは王に向いているけど、決断力行動力が低いとも言える」とフィフィファ。

「……フィフィファが辛辣なことを言っているわ」

「だろうな」と苦笑するベルトラン。「エドモントにもよく叱られた。自分はどうなんだと反論してやったけどな」

「五十歩百歩!」とフィフィファ。


「『女王の愛し子』が精霊の声が聞こえず、伴侶の『愛し子』が聞こえるのはどうしてだと思う?」

 フィフィファの質問をベルトランに伝える。

「ふたりで仲良く協力をしろということだろう?」

 ベルトランは当然のように言った。そうなのか。私は気がつかなかった。


「正解。女王は愛した王子と添い遂げられなかった。だから自分の子供たちは伴侶と仲良く幸せでいてほしいと願っているの。だけど運命の伴侶といえども、ケンカしたりすれ違うこともある。だからこのシステムにしたのよ」


 ベルトランに伝える。


「僕の死後」

「死後?」とフィフィファ。

「このシステムは必要のないふたりだったと女王陛下に言っていただけるよう、最大限の努力をするよ」


 ベルトランは私を見て、微笑んだ。


「素敵な心意気!この!この!」とフィフィファがベルトランの頬をつつく。

「くすぐったいよ!」とベルトランが笑う。「フィフィファはいたずらっ子なのかい?」

「結構なね。ひとの顔を叩いたり蹴ったり頭突きをしたり、やりたい放題。笑わないようにするのは大変なのよ」

「そうか。君がよく虫を払っているのは、フィフィファのせいか」

「それはなでなでしているのよ」


「僕もしていいかな」ベルトランがフィフィファに尋ねる。

「どうぞ。頭と背中ね」

 フィフィファのお腹は白くてふわふわで魅力的なのだけど、そこを触られるのは嫌らしい。

 ベルトランは嬉しそうにフィフィファの頭をなでなでしている。可愛い。


「ベルトラン。私も最大限の努力をすると約束するわ」

「ああ!」ベルトランが声を上げた。「君はなんて可愛らしいのだ」


「バカップル、爆誕!」とフィフィファ。「なんてね。末永くお幸せに」


 ベルトランと私はどちらともなく手を繋いだ。従者も衛兵もいないのは、このためだったのかも。



 ◇◇



 三人で幸せな話をしながら、友人たちが待つ部屋に戻った。

「待たせたね」

 と扉を開くベルトラン。

 コンスタンスとエドモントの顔が赤い。

 卓上で重なり合っているふたりの手。


 ベルトランと私は顔を見合わせた。それから繋いだ手を、友人たちがよく見えるよう胸の高さに掲げる。



 突如、部屋の中に降り注ぐ花ばな。


 おめでとう!

 おめでとう!


 と言いながら、フィフィファがどこから取り出したのか不思議なカゴを持って、花の雨を降らせていた。

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精霊の愛し子のお仕事 新 星緒 @nbtv

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