第35話 勝利

 メグを筆頭とする村人たちは投降する騎士団の武器を奪い、縄で縛り上げて村に戻る。メグを先頭に村人が続き、その後ろを縛られた騎士団員が続く。まさに戦勝パレードといった雰囲気だ。村人はメグを歓声でもって迎えメグもそれに応える。

 僕ことセオ・ノーライアはというと騎士団が劣勢となり撤退した結果、川に追い詰められたというまさにその時、隙を見てレオ達と脇にある森に逃げ隠れていた。戦いが終わるまで僕とレオとヒューゴと馬車の運転手はやり過ごそうと思ったが、メグが堂々と戦いの勝利を宣言し、村人が大声を上げて喜んでいる状況になると出づらくなった。

 少なからずというか、それなりに今回の戦いの責任がある僕たちなので突然出ていってそのまま村人に交じるというわけにはいかない。下手したら切られるかもしれないという恐怖が僕たちの心の中を占めていた。そんな事を考えながらまごついていた僕らをメグはあっさりと発見した。


「何やってるんですか?レオ様とセオ?」


 少々呆れた様子でこちらを見るメグに対し、僕は意を決して口を開く。


「ちょっと花を積んでたんだ」

「嘘にしてもまだマシなのあるでしょう?」


 少々どころか本気で呆れるメグは僕たちを村へ招待した。騎士団員達みたいに縄で縛られることはなかったので安心した。そのままメグに連れられて今に至る。

 メグはこの村人に心底歓迎されているようで驚きを隠せない。普段のメグを考えたらわがまま放題で縛られていてもおかしくないと考えていた。

 だが、今のメグにはわがまま放題の頃の面影はなく、それどころか村人を気遣って声をかけている。そんなメグに対して僕は口を開いた。


「メグ。どうしちゃったの?頭でも打ったの?」

「打ったわよ。忘れちゃったの?」

「いやそうだけど・・・」

「まぁ驚くのは無理はないし、失礼だと咎める気はないわ。変わったのは事実だしね。私は目が覚めたの」


 言葉も態度も大人びている。目が覚めたぐらいでこんなに変わってしまうのだろうか。もしかしたらメグは熟睡しながら今まで僕らの相手をしていたのか。いやいや夢遊病どころのレベルじゃない。


「まぁ私も色々有ったのよ。察してよ。それくらい」

「いやいやいや・・・・これは察せる範疇を超えてる」


 僕が本気で混乱してメグと話していると、今度はレオが口を開く。


「まぁセオの気持ちもわかるが、とにかく君が無事で良かった。メグ」


 レオがそう言うとメグは微笑んだ。


「ありがとうございます。レオ様」


 メグがそういった直後、大声でメグの名前が呼ばれる。


「メグ!」


 メグが驚いてそちらの方向を見る。そこには村の女性が3人立っている。


「アリソン!レクシー!モリー!」


 メグはその女性達をみると、その3人のもとへ駆け寄っていった。


「大丈夫だった!?怪我はない!?」

「大丈夫よ。ごめんね。大変なときに私だけ居なくて」

「いいのよ。ドナだって許してくれるわ」


 女性たちはそう言ってメグの頭をなでている。どうやらメグはこの村の人々と良好な関係を築いているようだ。以前の彼女なら考えられないことではあるが、1000年前の記憶を持つと自称する人間がいるくらいだ。彼女の身に何かが起こり、それが彼女を人間として成長させたとしてもありえないことではない。


「よし!勝ったから宴を開くぞ!」


 村人の一人がそう叫んだ。その声に他の村人も賛同する声が響く。


「酒をもってこい!酒!」

「俺は食べ物を持ってくる!」

「俺は火をおこす!祭りのように盛り上がろう」


 あれよあれよと宴の準備が進んでいく。村の男衆が迅速に動き、村の中央にある小さな広場に品物がどんどん集まってくる。それを見たメグはため息を付く。


「はぁ。けが人の手当がしたんだけど」

「まぁまぁメグちゃん。こういうのも大事よ?それに村長への供養でもあるし」

「それはわかるけど・・・。そういえば病人達はどうなった?」

「それは大丈夫よ。今はもう殆どクレアとミアが面倒見てる」

「ということは皆元気になったのね」

「そうだよ。明日になればみんな元通り」

「よかった」


 メグは女性たちと話をしている。


「メグ嬢ちゃんも来なよ!主役がいないと宴は始められない!」


 村人は嬉しそうにそう叫んだ。始まらないという割にはもうすでにアルコールを何杯か嗜んでいるようだ。


「私はパス。負傷者の手当をしたいし。代わりにジャスパーとリリーが参加するから」

「え!良いんですかお嬢様!」


 ジャスパーとリリーが同時に目を輝かせる。


「私の代理だから節度を持って行動してね」

「「お任せください!」」


 そう言って2人は村人たちの輪の中に飛び込んでいった。そしていきなりカップを手を受け取る。


「かんぱーい!がはははは!」


 すごい勢いで酒を飲み始める。いやジャスパーはプランツ騎士団の副団長じゃないの?なんで部下を差し置いてあんだけ騒げるの。というか自分たちに勝ったお祝いを目の前でされるとかなり居づらいんだけどという気持ちが湧いてくる。だが、そんな気持ちはすぐに払拭される。


「あ、そうだ。ここで飲み食いしたものはプランツ騎士団が責任を持って補充すると約束しよう!」


 ジャスパーはそう高らかに宣言した。


「「「おおおおおお!」」」


 村人たち歓声を上げている。


「だから、あいつらも一緒に入れてやってくれないか?」


 ジャスパーはそう言った。その言葉を聞いて上機嫌だった村人も流石に渋顔をする。


「んーしかしなぁ・・・」

「頼むよ!あいつらは良いやつだから!悪いのは騎士団長のルークだけだ!」


 そう言って頭を下げる。そうすると村人の一人が口を開く。


「わかった!あんたがそう言うなら俺はそれでいい!皆はどうだ?」

「まぁ過ぎたことだしな!」

「村を侵略しないなら別に良いだろ!」


 酒のせいなのか、それともこの村の気質なのかわからないが、思いの外すんなりと村人は騎士達が宴に加わることを了承した。ジャスパーは騎士団を手招きする。


「よーし!じゃあプランツ騎士団!それぞれ自己紹介と一発芸をしろ!」

「おっ!いいねぇ!」


 騎士たちは戸惑いながらも宴をしている場所へ歩いていく。そして団員それぞれが自己紹介と一発芸を行っていく。それを機に宴は盛り上がっていく。


「あー!けが人は呑んじゃ駄目よ!」


 メグはそう言って騒いだが、時すでに遅し。みんな宴の盛り上がりに飲み込まれている。とはいえ全員が宴に参加したわけではない。深い傷を負って倒れたものはこの村で一番大きな建物に収容された。

 僕は宴が苦手なので僕はそちらに行こうかと思う。僕自身は怪我はしていないが怪我の治療は手伝えるはずだ。そう思って僕はメグに近づく。


「メグ」

「何?」

「けが人がいるだろ?なんというか・・・罪滅ぼしってわけじゃないけど手当てを手伝わせてほしい」

「それはありがたいけど、あなたけが人の手当てとか出来るの?」

「一通りは知ってるし、回復とまではいかないけど役に立ちそうな魔術は何個か知ってる」

「へぇ魔術にはそういうものもあるのね」

「いや、君も魔術貴族の子供でしょ?」

「私は勉強が苦手だったのよ」

「そう。じゃあ役者不足かもしれないけどよろしく」

「はいはい。じゃあ行こうか」

「あ、そうだ。ちょっとまって」

「いいけどどうかしたの?」


 僕が後ろを振り返るとそこにはレオとヒューゴが立ちすくんでいた。レオはこういう雰囲気の場所を初めて見るのでどうすればいいか分からず、ただ呆然としている。


「ヒューゴ!レオをお願いします!」

「お任せください!」


 僕はレオの事をヒューゴに託すとメグの方を見た。


「待たせてごめん」

「あーレオ様はこういうの不慣れかもね」

「ヒューゴが上手くやってくれるよ。じゃあ僕も少しでも役に立たないと」

「やる気があって結構。じゃあ付いてきて」


 僕はメグの後ろをついていく。

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