3章 セオ調査団

第21話 報せ(メグ看病2日目)

 メグの行方がわからなくなったと報告を受けたのは、メグがノーライア家を出発してから3日目の朝。

 レオからの指示で首都にメグが滞在できる別邸を抑えろと連絡を受け取った向こうの執事が、いつまで立ってもメグが到着しないことを不審に思い、確かめるために騎士に探すように依頼した。その騎士は早速、首都から出発しノーライア家を目指しながら、途中にある村で情報収集を行った。この情報収集の結果は芳しく無く、なんの情報を得ることもなくついにはノーライア家まで到着してしまう。

 そこに至って初めて、僕たちがメグが居なくなったことを悟った。


「セオ。メグはどこに行ったと思う?」


 レオと僕はテラスでヒューゴに淹れてもらった紅茶を飲みながら報告を耳にした。そして報告を聞いた直後のレオの第一声はどこに行ったかを僕に質問してきた。


「普通に考えるなら、迎えの騎士が見つけられなかった点を考慮し、道に迷ったか事故にあったか誘拐されたか3つの内どれかですかね。どこかに立ち寄ったという可能性も否定できなくはないですが、メグはこの土地に縁もないし、観光名所と呼ばれるところもありません」

「それに体調が優れないから首都に帰ったのに、観光という気分になるかもわからないしな」


 レオの言葉に僕は頷いた。それを見たレオは立ち上がりながら口を開く。


「結論を言えばつまり、どうなったか確かめにいかなければならないということだな?」

「王子自らですか?」

「見捨てることもできないだろ?」

「それはそうですが、配下の者に任せれば?」

「今回の旅で連れてきたのは王宮付きの騎士団。彼らに人探しが得意だと思えない」


 そういうレオに対して僕は、レオも大差ないんじゃないですかという言葉が浮かんでは消える。


「なぁセオ。今、僕も騎士団と大差ないんじゃないかと思わなかったか?」


 レオの言葉に僕は頭を抱える。


「みんなして僕の心を読むのはやめろ!そんなに僕はわかりやすいか!?」


 突然取り乱した僕を見てレオは驚きの表情を浮かべる。


「いや、あの・・・なんかごめんな」


 レオに気を使われて僕は我に返る。


「すみません。取り乱しました。大変失礼しました」

「いや、取り乱したことより心中の言葉のほうが失礼だっただろ」

「それはともかく王子が直接向かわれるんですよね?」

「ああ、まぁそうだな」

「では、私もお供します」

「それはありがたいが大丈夫なのか?また家を離れるとなるとお父上が」

「なんとか説得してみます。メグも王子もこの家の大事なお客様。なにか有ってはこの家の恥です。という感じで説得してきます」

「大丈夫か?さすがのマーティン卿も取り乱されるのではないか?」

「怒るかもしれませんが、僕が強情に行くとなんやかんやで折れてくれると思います」

「そ、そうか・・・。マーティン卿も苦労してるんだな・・・」


 僕はすぐさまお父様の執務室へ向かった。そして入室しレオが直々にメグを探しに行くことと僕がそれに同行したいという旨を伝えた。お父様は怒りと呆れが同居する今まで見たことのない複雑な表情を見せたが、1時間ほどの説得を経て、ヒューゴを連れて行くことを条件に許可してくれた。

 僕が執務室から退室すると廊下にはヒューゴが立っていた。ヒューゴは笑顔のまま口を開く。


「よく説得できましたね。お坊ちゃま」

「お父上は優しい方だから。とはいえヒューゴ。貴方も今回の同行してもらうことになりました」

「はい。内容は聞こえておりました」


 さすが耳聡い。


「家の仕事もあるのに、この件に巻き込んでしまってすみません」

「なにを仰る。お坊ちゃんが友達を助けに行く旅。むしろ私の方から参加を志願したいくらいです」

「助けることになるかは状況次第ですが。ありがとうヒューゴ」

「礼には及びません。さて、お坊ちゃんが旦那様を説得している1時間で旅の準備を完了しました。すぐにでも出発できます」


 さすがヒューゴ。僕とお父上の会話の結果がどうなるか予想していたみたいだ。もう耳聡いっていうかエスパーなのでは?


「王子と今回の旅で王子を護衛していたプランツ騎士団が家の前に集結しています」

「騎士団の数は?」

「団長も会わせて50名程といったところですか」


 騎士団員が約50名。レオもわざわざ僕の家に来るためによくもまぁそんな人数を連れてきたものだと感心する。しかしメグ捜索に関して言えばこの人数はありがたい。もし、盗賊団にでも誘拐されていたら力ずくで奪い返す必要があるからだ。


「50人で人探しとなるとそれなりに費用が掛かる」


 宿代はキャンプを張ってもらうとしても食事代や雑費などもかかってくるだろう。それが何日続くかわからない人探しだと、一体どれくらいかかるのか。


「その件はノーライア家が負担すると旦那様がおっしゃいました。なにせこの領地で起きたことですから。また、領地に散っているノーライア領地兵も結集中とのことです」

「そうでしょうね」


 もしお金や人員を、格好だけでも投入しておかなければ後で非難される。マーティン家も大貴族なので関係がこじれると後々面倒なことにもなるだろう。


「ともかく、お父様の許可得たので王子に合流します。私の準備をしてくれたとのことですが、ヒューゴは何か準備することはありますか?」

「私も準備を終えています。メイド長に引き継ぎも終わっていますし」

「なるほど。では外へ行きましょう」


僕はヒューゴを伴って屋敷の外へ出る。屋敷の前には、レオと騎士団約50名が向かい合って立っていた。


「レオ様。おまたせしました」

「おお。大丈夫だったかセオ」

「はい。なんとか大丈夫でした」


 僕はそう言うと騎士団の方に目をやる。


「これがプランツ騎士団ですか」

「そうだ。この家に来る時に護衛をしてもらった者達だ」


 なるほどと僕は頷いて騎士団の先頭に立つ男を見る。その男は年は40才、長身で鎧や槍から身ぎれいという印象を受ける男だ。その男が口を開く。


「王子。その子供は?」

「ノーライア家の息子でセオという。この旅に同行する」

「私どもはその子供のために待たされていたということですか?」


 男は不服を隠すこと無く口にする。


「そうだがなにか問題があるか?」

「失礼ながら私は王子を守護するためにここに居ます。他の人間を守護する余裕は・・・」


 迷惑そうという言葉が一番適切だ。この男はそういう雰囲気を醸し出している。


「私の友人を守護は私を守ることと同義。ぜひやってもらおう」

「はっ。王子がそこまでおっしゃるならば・・・」


 そう言って男は頭を下げた。おそらくだがこの男こそこの騎士団の団長ルーク・グリフォスだろう。会うのは初対面だが王子の口ぶりからあまりい評判の良い男ではないようだ。


「では馬車に乗ろうか」


 レオが振り返って僕に言う。僕は頷いた。そしてレオは馬車に向かって歩き出す。


「では、任せたぞ」

「はっ!」


 レオの言葉に騎士団長のルークが声を出して了承する。そして僕らがルークの横を通って馬車に向かうタイミングで僕は声を聞いた。


「辺境のガキが偉そうに・・・」


 声の主はルークだろう。ルークが僕にだけ聞こえる程度の音量で言葉を発したのだろう。まぁ確かに騎士団にとって見たら僕は余計な存在かもしれないし、面倒な仕事が増えたという認識なのかもしれない。その考えは理解できるし、別に腹は立たなかったがあからさますぎないかと思いはした。

 僕らが馬車に乗り込むと王子が運転手に出してくれと指示をする。運転手は頷いて馬車を出発させた。騎士団員は徒歩で付いてくるので馬車もゆっくりと進む。


「さて、セオ」


 馬車が動き出すと早速レオが口を開く。


「屋敷を出たぞ。その堅苦しい口調はやめてもらおうか」

「いや・・・でも・・・」


 僕はヒューゴの方向をチラッと見た。ヒューゴは僕の視線に気が付き微笑んで口を開く。


「大丈夫ですよ。旦那様には内緒にしておきます」

「ふふ。ノーライア家は良い執事を雇っているな」

「もったいなきお言葉」


 レオがヒューゴを褒め、ヒューゴは褒められ目を伏せて言葉を受け取る。簡易的ではあるがこれが大人の態度なのだろう。しかし、今の僕は子供だしレオも砕けた態度を望んでいる。


「わかった。わかったよ。どうしてレオはそんなに言葉遣いが気になるの?」

「セオはなんだか同年代とは思えなくてな。はるか年上のような気がする」


 僕はドキッとした。僕は1000年前の人間で享年も80を超えるじじいだった。その事を公言したことはないし、誰も想像のつかない超常現象なので、さすがのレオもこの事を言い当てていないとは思う。だが、とても鋭い指摘だ。


「はっはっはっ。セオお坊ちゃんは早熟しておられますからな。とても10才とは思えません」

「ヒューゴ殿にもそう言われるなら、僕の感覚も間違っていないということだな」


 レオは嬉しそうにそう言った。僕はなんとなくこの話を続けたくなかったので話を変える意味でも今後のことを聞く。


「ところでメグを探すと言っても手がかりもなにもない。どうするつもり?」

「とりあえず村で聞き込みしかないだろう。一通りは確かめているはずだが誘拐の線も含めて考えると聞き出せていない可能性もある」


 確かに誘拐を疑っているのと疑っていないのでは質問内容が違う。誘拐事件なら関わりたくないだろうし、知っていても知らないと言う場合もあるだろう。下手に情報提供をしてしまうと、誘拐犯の仲間と思われ処罰される可能性もある。とても理不尽な話だがそんな横暴な貴族も存在する。


「わかった。とりあえず一番近くの村から始めよう」


 僕はレオの意見に同意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る