第42話 『これから先も』【第二部最終話】

 雨上がりの日光が温かい。

 優しい風が草と花の香りを運んできてくれる。

 

「……こっちは元気でやってるよ」


 乾きかけの地面に座って語りかける。

 返事はないが、なんの不満もない。


「あのあと気づいたら二週間経ってて、しかもローガンの家で寝てたから驚いたよ。クズハとミアと兄貴は居候してるし、ティアさんたちまで見舞いに来てくれてさ」


 笑いながら、ここ最近の出来事を思い出す。


「ローガン家はとりあえず、今回のことに関しては不問だって。俺がケジメつけたのと、おじいさまの犠牲が考慮されたらしい。ま、その対価に王都で化身武装教えるハメになったんだけどさ。参ったぜ」


 青輝石のペンダントがゆらゆらと光って、なんだか笑っているように見えた。


「リース。俺はまだそっちにはいけない。もっとお前への土産話を作りたいし、ファミリアだって増やしたいからな。だから……見守っててくれ」


 立ち上がり、青輝石にキスをした。

 体を撫でた風が、なんだか妙に心地よかった。


「んじゃ、また来るよ」


 墓標に背を向けて、ゆっくりと歩き出した。


「ケイン様」


 たしかに声が聞こえた。

 リースの優しい声が。


「あっ」


 導かれるように空を見上げて、納得した。


 きれいな光の贈り輪フォトン・リースが、穏やかに輝いていた。


「ハハッ!」


 空に笑って丘を下る。

 見えてきた街道へ続く道に、たくさんの笑顔が待っていた。


「あ、来た来た。おーい、ケイン!」

「ケインくん、準備できてますよ!」


 クズハとミアが大きく手を振る。


「ケイン、子どもたちをなんとかしてくれ! いてててて、尻尾引っ張るな……ってゴクウかこの野郎!」

「ウキャキャキャ!」


 村の子どもたちに囲まれた兄貴に、ゴクウがどさくさに紛れてちょっかいをかけていた。


「ケイーン!」


 ミーナとエリースをジョンとジミーが肩車し、となりでハンナが笑っている。


「ケイン」

「にいさま!」

「ケイン様」


 父上と母上とマリオスが並び、その後ろにまだ包帯の取れないメイとにこやかなロアが立っている。

 見送りに来てくれた村の人たちも、みんな俺を待っていてくれた。


「みんな、お待たせ!」


 なんだか嬉しくて、思わず走り出した。

 

 俺の人生はまだ終わらない。

 これから先も、幸せってやつを追い求めていくんだ。

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天涯孤独の狼は異世界で幸せを求める 末野ユウ @matsuno-yu

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