第8話 恋の予感とラッキースケベ

「ふぅ、これくらいでいいかな?」


 悪霊を倒したあと、腹を貫かれた楓をなんとか家まで運び、人形の肉体の治療をした。

思っていたよりも傷が深く、広かったため、霊力のほとんどを使ってしまった。

 ——案外可愛い寝顔してるのね。


「んん……」


 治療からしばらくして、久城がゆっくりと目を開けた。


「あれ、幽香ちゃん…」

「調子はどう?」

「うん、最高だよ…。幽香ちゃんの太もも丁度いい柔らかさしてるし、いい匂いもするから…」


そう言いながら、久城は私の太ももら辺をまさぐってきた。


「ちょっと!何してるのよ、アンタは!」


鼻の下を伸ばしてニヤケながら私の太ももをまさぐる楓の頭に、一発パンチを食らわせた。すると、疲れ果てていたのか、その一発だけで楓は気絶して、再び眠りについてしまった。


「——私、お風呂入ってくるから」


 もちろん、気絶している久城からの返事は無く、少しの間だけ彼の顔を見てから私はお風呂に入ることにした。


・ ・ ・


 シャワーヘッドから出た水が地面に落ちる音だけが響き渡る浴室。勢いよく飛び出てくる水が私の体をなぞり、落ちていく。

 目を閉じると、自分を守ってくれた久城の姿を思い出した。


「初めて名前で呼んでくれた…か」


 ハレンチなところもあるけれど、というかそれがほとんどだけれど、アイツも案外良いところあるのね…。


「この気持ちは、なに…?」


 突然、胸が痛くなった。心臓の鼓動がだんだん早くなっていくのも感じられた。

 胸が締め付けられるような痛さ——。

私がアイツのことを?いや、そんなはずはないけど…こんな気持ち……。


「もう、わけが分からないじゃない…」


 そんな時、ガラリと扉が開かれ、誰かが浴室に入ってきたのが分かった。

振り向くと、そこには久城の姿。


「なっ……!」

「お、やっぱり思ってた通り、幽香ちゃんは良い体してるね!」


 そう言われ、今の自分の姿に気づき、慌てて前を隠した。


「——アンタねぇ、お風呂入るって私言ったよね…?」

「そんなこと聞いてないよ?」


あぁ、そうだった…。あの時、コイツ気絶してたんだ…。しかし、こんな状況だというのに、久城は出て行く気配もなく、それどころか私の体を舐め回すように見ている。


「…やっぱりアンタなんて大嫌いよぉ!」

「ちょ、ちょっと待って、誤解だって!」


 風呂桶やシャンプーなど、手元にあるもの全てを投げつけて追い払い、私は気づいた。

先の胸を締め付けるような感覚は、このことを予知した胸騒ぎだったということに。


「アンタあとで覚えてなさいよね!」

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新米巫女とお憑き霊! 寧楽ほうき。 @NaraH_yoeee

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