47話 企画3

 【千鶴視点】


 私のプレゼンが概ね受け入れられて通話を終えた。

 「……うん。手ごたえアリ!」

 兄貴はともかく〈にゃん太〉先生や康介兄ちゃんからも肯定的な意見を貰えたことは素直に嬉しかった。

 気合いを入れて資料を作った甲斐があるというものだ。

 でも私は知っている。こういう時に兄貴は大体「後でいいや」と資料を読まずに適当に返事をしているということを。

 だてに妹していない。

 「さてと、どうせ兄貴は資料も読んでいないでしょ」

 ということでさっき全体での通話を終えたばかりだが兄貴の、”なな”のアカウントのDiscordに連絡を入れるのだった。



 通話を終えてすぐのこと。千鶴から連絡が来た。

 「さっき終わったばかりだろ」

 何か伝え忘れたことでもあったのかと思い通話に出てみると少し浮かれ気味の声がした。

 『どうせ兄貴のことだから資料全然読んでないんでしょ?』

 「でしょ↑」とちょっと弾んだ語尾の辺りさっきのプレゼンが成功したのがよほど嬉しかったのだろう。

 「なんで分かったんだ? 後で読もうと思ってたんだよ」

 『そんなことだろうと思った。後で後ででいっつも後回しにするもんね』

 「そんなことねーよ」

 『はいはい、言ってな~。そうだと思って直に資料の内容話してあげようと思ったのに』

 千鶴はどうせ俺が読んでいないであろうことを予想して通話をかけてきたみたいだ。

 「あー、じゃあ頼むわ」

 『あーい、了解。んじゃ最初のページからね……』

 そういうと資料の1ページ目から説明を始めた。

 

                  〇〇〇


 要約すると千鶴の計画はオリ曲をメインにした2段構えの企画だ。

 これから毎月歌ってみた動画を投稿し、リスナーに”なな”が歌に挑戦し始めたということを印象付ける。

 そして、リスナーが馴れてきたころにオリ曲の発表を合わせるということらしい。

 肝心のオリ曲は最近売れ始めたボカロPに依頼するとのこと。

 大手企業のように有名アニソンを作っているような作曲家にお願いするにはかなりの大金を必要とするらしいのでとりあえず今回は無しということだ。

 それでも相場には詳しくないが千鶴の提示した金額はかなりのものだった。俺こんなに一変にお金使ったことないんだが。

 千鶴曰く真面目に歌ってみた投稿をしていれば余裕で回収できるとのこと。

 さらに千鶴の企画は続きがありオリ曲のMVは〈にゃん太〉先生の描きおろしにしてもらうとのこと。

 オリ曲だけではなく歌ってみたの方も頼んでいるのでかなりの負担になるだろう。

 しかし、同じ絵師による統一感が何よりも重要だとのことだ。

 さっきは軽く聞き流してしまったが聞けば聞くほどよく考えられた企画だと思う。これなら康介達が了承したのもうなずける内容だった。

 『どう? 分かった? 兄貴』

 「あぁ、実はさっき結構適当に聞き流したから助かったわ」

 『やっぱりちゃんと聞いてなかったんじゃん!』

 あ、やべ。ついバラしちゃった。

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