46話 企画2

 『オリ曲を作ろうと思います!』

 いきなりの提案に俺たちはみんな黙ってしまったが、千鶴はかまわず説明をつづけた。

 『オリ曲とはいってもまずは兄貴の歌唱力向上が先なんだけど……そのためにボイトレに通ってもらいたいんだよね』

 「ボイトレ?」

 確か”たまも”からも誘われたことがあるが如何せん中身が俺なのでやんわり断ったばかりだ。

 『うん。”たまも”ちゃんのところで習うのが間違い無いと思うけどどう?』

 「いや、バ美肉してるから無理って結論になっただろ」

 だからこそ無理して千鶴に”なな”の声を出せるようになってもらったのだ。

 『確かにそうなんだけど、歌唱力は上げるのが必須なんだよね。だから私も手伝うから一緒に”たまも”ちゃんから習おう!』

 「……なるほど、お前と一緒にか」

 確かにそれなら正体を隠したままボイトレを受けることができるかもしれない。

 だが、”たまも”からしたら訳の分からない話だろう。

 ”なな”だと思っている千鶴はともかくマネージャー役の俺まで一緒にトレーニングしたいなんて普通なら疑問に思うはずだ。

 『”たまも”ちゃんには私から不自然にならないように話をしておくから……いい?』

 千鶴の不自然にならないようにってのが気にはなるがここは話に乗っておこう。

 「分かった。今回はお前に全般的に任せる。好きにやってみろ」

 『サンキュー! それじゃあ兄貴はカラオケでこの曲練習しといて!』

 そういうとチャットで全部で10曲程曲名を送ってきた。どれも最近ヒットした曲や誰もが知る名曲のアニソンだった。

 「こんなにか」

 『それでも少ないくらいなんだけど……その中からいいやつを〈歌ってみた〉で投稿するから』

 なるほどオリ曲までのつなぎで〈歌ってみた〉の投稿で布石を作っておくということか。

 『それから〈にゃん太〉先生にもお願いしたんだけど〈歌ってみた〉で使うイラストを今送った曲から考えておいて欲しいんですけど』

 〈にゃん太〉先生はじっくり間をおいてから

 『……うん、大丈夫だよ。ラフくらいなら来週までには上げられる、はず』

 『マジですか! ありがとうございます!』

 事故以来他の仕事相手が気を使ってあまり仕事を振っていないこともあり〈にゃん太〉先生は意外と予定が空いていたようだ。

 『それから、康介兄ちゃんにはこの間私の声見てくれた大村さんに連絡とってもらえる?』

 『いいよ、早速明日にでも連絡してみるよ』

 『ありがとう! それじゃあ細かい企画書はメールで送っておくから各自読み込んで聞きたいことあったら直接聞いてください!』

 「『『了解』』」

 さっそく張り切りまくった千鶴から大量の企画書が送られて来た。

 思った以上の厚みに怖気づいてしまい、そっとウィンドウを閉じる。

 「まぁぼちぼち行こうぜ」

 

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