43話 親バレ2

 〈にゃん太〉先生の自宅兼喫茶店を出て俺たちは実家へと向かった。

 帰り道は俺も千鶴も親父も無言でめっちゃ気まずかった。

 

 地獄のような時間が過ぎ実家に到着した時にはもう日が暮れ始める時間帯だった。

 「ただいまー」

 正月以来の実家に帰宅のあいさつをしながらリビングへと向かう。

 戸を開けるとリビングの大画面のテレビ画面に”なな”の配信が流れていた。

 爆笑しながら視聴している母親は俺を見つけると「あ! こんなな~(笑)」と手を振ってきた。

 「……」

 無言で千鶴の方を見ると「あー」と言いながら目をそらした。

 「ごめん、バラしちゃった」

 「……おい」

 「いや、でもしょうがなくない? 説明するためには教えなきゃじゃん?」

 「言いたいことは分かるけど一言相談しろよ」

 「時間なかったし~」

 最近コイツ使えるな〜と思っていたのに滅茶苦茶裏切られた気分だった。もうため息しか出てこない。

 「あんた面白いことしてんのね~。何これ女の子じゃん!」

 「母さんはそのことに突っ込まないでくれ恥ずかしいわ!」

 母親はニマニマしながらテレビ画面を指差す。

 「え~、なんか子供のころのアンタの声思い出しちゃったわ。確かこんな感じだったわよね~」

 「分かったから、やめろし」

 そんな俺たちのやり取りを尻目に父親が椅子に座った。

 「そこに掛けろ」

 異常な程の圧を出して俺たちを促した。

 素直に俺と千鶴は父親の向かいに座る。

 「それじゃあもう一度話を聞こうか」

 「もう一度聞いても私の考えはさっきと変わらないから」

 食い気味に千鶴が質問に答えると俺の方を見た。

 「兄貴もそれでいいよね!」

 「いや、俺はどうだろうな」

 正直に言うと喫茶店で話してた時から違和感があった。

 「千鶴はなんで内定を蹴ろうと考えたんだ? 別に手伝いくらいなら週末とかにでもできるだろう」

 「それは、今しかないじゃん! ”なな”がどうなるかは今に懸かってるんだから!」

 「そうかもしれないけど内定を蹴るほどか?」

 これまで俺と康介だけで運営は問題なくできた。確かに千鶴が手伝ってくれるようになってから特に康介の負担は減っているが、ぶっちゃけ居なくても何とかなる。

 そもそも企業ではないのでそこまで事務作業がモリモリというわけでもないのだ。

 「これからだよ! ”なな”が今よりもっと大きくなっていくには今頑張らないといけないんだよ! そして私もそこに関わりたい! こんな機会めったにないもん!」

 なるほど、これで納得できた。つまり千鶴はもともとこっちの業界に憧れがあったのだ。普通は憧れてもなかなか関われる仕事ではない。

 技術が必要だったり、センスが必要だったりする。ひと昔前と比べると敷居は低くなっているがまだ一歩を踏み出すには躊躇してしまうだろう。

 千鶴はそんな進路に、将来について悩んでいた時にちょうど俺のことを知ってしまったのだ。そりゃあこんな機会を逃したくは無いよな。

 「なるほどな。お前の考えは分かった。でも、俺はお前の将来については保障できないぞ。俺自身もまだどうなるか分かんねーんだから」

 いつまで活動を続けるか、続けられるのか分からないという理由が大きい。

 するとこれまで無言を貫いていた父親が口を開いた。

 「千鶴お前はどこまで将来について考えてるんだ?」

 「とりあえず今は3,4年くらい先まで……」

 「なるほど、お前くらいの年齢だとそんなものだろう。だが人生はまだ長いぞ。いろんなことで金がかかる。結婚だってするだろうし、もしかすると病気になるかも知れない。そんなところまで考えて物事を決めろ」

 20歳そこそこの大学生相手に厳しい言葉を投げかける。

 「自由業といえば聞こえはいいが社会的後ろ盾は無いに等しい。お前が思っている以上に会社に所属するということはメリットがある」

 さっきから父親の言葉がグサグサと俺に刺さる。

 「和也が相当稼いでいることは分かった。だがいつまで続く? その後のプランはあるのか?」

 俺にとって痛いところをまんべんなくつついてから父親は締めくくった。

 「悪いことは言わん、手伝うなとも言わん。就職しろ」

 俺と千鶴は何もいい返すことができなかった。

 

 しばらく無言が続くと母親が笑いをこらえながら参戦してきた。

 「お父さんなんか偉そうなこと言ってるけど自分の若いころの話してあげたら?」

 俺と千鶴が頭に? を浮かべていると母親がアルバムを取り出してきた。

 それを見た瞬間これまでものすごい圧を出していた父親の表情が凍り付いた。

 「お、おい」

 「いいじゃん別に~」

 そうして開いたアルバムは俺も千鶴も見たことのないものだった。

 何かの撮影だろうか、特大の火柱をバックにジャンプしているライダーがいた。顔はよくわからないが写真からも躍動感が伝わってくる。

 「コレがお父さん」

 その写真を指差しながら母親は言った。

 「昔お父さんはスタントマンやってたのよ」

 衝撃の事実だった。真面目一辺倒に仕事に打ち込む姿しか見たこと無かったのでこんな風に写真に写る父親が信じられなかった。

 すると父親は大きくため息をついた。

 「別に隠していたわけではない。必要が無いから言わなかっただけだ」

 絶対に嘘だ。さっきまで俺たちの目を貫かんばかりに眼力たっぷりで見てきていたのに目をそらしている。

 「えー、パパカッコいいじゃん!」

 千鶴が写真を食い入るように見る。

 それが恥ずかしかったのか父親はアルバムを閉じた。

 「そんなことは関係ない。……いいだろう話してやる」

 そういうと再びアルバムを開いた。

 「この写真の頃は30年くらい前か、20代の前半だったはずだ。このころはとにかく仕事をもらうために必死だったのを覚えている」

 昔を懐かしむように父親は語りだした。

 

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