38話 バ美肉

 ピロン♪

 スマホが通知を知らせる。画面を確認してみると千鶴から返信が届いていた。

 内容を確認してみるとさっき送ったアンケートの集計の件OKとのことだった。

 よし、半分くらい送ってやろう。ということで早速データを圧縮してメールを送信する。するとすぐに返信があった。

 『多すぎwww』

 『まぁいいけど、そういえばお父さんが兄貴に話があるって。いつ帰ってこれる?』

 なんだか引き受けてくれた代わりに一番嫌なことをぶっこんできやがった。

 『何の用事?』

 『知らない』

 コイツ、ホントに知らないのか? 

 なんだか怪しい気がする。何か根拠があるわけではないがそこは兄妹として通じるものがあるのだろう。

 『週末なら帰れる』

 『りょ』

 とりあえず今は目の前の仕事を優先しよう。

 『そういえば、後から〈にゃん太〉先生から連絡あると思うから対応してあげて』

 『何の用事?』

 『自分で聞いて、私じゃどうしようもなかったから。優しくね!』

 仕事の用事だろうか? これまでは何か連絡事項があれば千鶴を通してもらっていたがわざわざ直接話したいってことは何か緊急の事態なのだろう。

 『了解』


                   〇〇〇


 千鶴とラインをした1時間後。

 Discordに〈にゃん太〉先生からメッセージが届いた。

 『今ちょっといいですか?』

 『大丈夫ですよ』

 『実は……』

 話すのが苦手な〈にゃん太〉先生は事前に用意していたのだろう、ものすごい文量で最近起こったことを書き綴った。

 要約すると声変えたいんだけどどうすればいいですか? とのこと。

 〈にゃん太〉先生もなかなか修羅の道を歩んでるな。

 ちょうど千鶴のために購入した大量の機材があまっていたのでそれを貸してあげることにする。

 仕事のきりが良かったので〈にゃん太〉先生の自宅へと届けることになった。

 

 電車で移動すること1時間。〈にゃん太〉先生の実家が営む喫茶店に到着した。

 事前に話は聞いていたのか店長がにこやかに迎えてくれる。

 いつも打ち合わせで使わせてもらっていた奥の席へと通されてテーブルに珈琲をおいてくれた。

 「いつもありがとうね」

 「いえ、こちらこそお世話になってます」

 「それ、高い機材なんじゃないかい? 大丈夫だったの?」

 機材を入れたバッグを指差しながら店長が尋ねる。

 「いえ、あまっていたものなんで大丈夫ですよ」

 「そうかい? ありがとうね」

 この人はホントに物腰が柔らかくて話しやすい。俺の親父とは大違いだ。俺も将来はこんな風に年を取りたいと密かに憧れている。

 「ちょっとパパ! 何話してるの!」

 店のドアを開けた状態でこちらを〈にゃん太〉先生が見ながら恥ずかしそうに話しかけてきた。

 「”なな”くんと話していただけだよ」

 「もう! いいから仕事に戻ってて!」

 「はいはい。ちゃんとお礼言うんだよ」

 「分かってる!」

 二人のやり取りを聞いていると親子だなぁと感じる。

 普段俺と話すときはたどたどしい感じがするが父親と話すときはあんな感じなのか。年頃の娘って感じだ。

 カウンターへと店長が帰って行くのを確認して〈にゃん太〉先生は向かいの席に着いた。

 「あ、あの。父がすいませんでした」

 「いえ、いいお父さんですね」

 「お、お節介なだけです///」

 照れた感じで顔を隠す

 なんとなく話題を変えてあげたほうが良さそうだったので早速機材をテーブルの上に出す。

 「コレが言ってた機材なんですけど」

 ダイヤルやスイッチが沢山付いた機材を前に〈にゃん太〉先生はたじろいだ。

 「一応マイクも持ってきたんですけど、自前のがあったりしますか?」

 「い、いえ。持ってないです」

 「分かりました。それじゃコレも使ってください」

 「あ、ありがとうございます」

 そういうと持ってきた機材一式を〈にゃん太〉先生に渡し使い方を説明する。

 本当は部屋に上がらせてもらって設定をしてあげたかったがさすがに女の子の部屋に立ち入るのは気が引ける。

 「……て感じ何ですけど大丈夫そうですか?」

 「……は、はい。なんとか……」

 「まぁ分からなかったらまたDiscord下さい。いつでも教えます。あ、それと設定出来たら通話とかって出来ますか? 声の出し方とかにもコツがあるんで」

 「わ、分かりました……が、頑張ります!」

 想像以上にいい返事だ。

 これまでの関係を思うと大分進歩しているのでは無かろうか。

 最近千鶴の件でボイチェンは嫌というほど触ってきているので何とかなるだろう。

 

 俺はこの時の浅はかな考えをすぐに公開することになるのだった。

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