39話 事故

 〈にゃん太〉先生にボイチェンを貸して数日。設定や使い方を教えて何とか男のような声になるように設定できた。

 元々の声が高かったのでボイチェンを通してもおじさんみたいな声にはならなかったが少し声の高めの男になった。あまり無理をして声を出すと喉を痛めてしまうので楽に出せる声でボイチェンを使うのがおススメだ。

 「”なな”さんありがとうございました。これで何とかなりそうです」

 「いえいえ、また困ったことあったら言ってください」

 Discordで教えていたが初見だとまず女だと気づかない仕上がりに俺も満足した。

 そして、事件はその次の日に起きた。

 〈にゃん太〉先生に事前に聞いていたVtuberの親コラボ配信を見ていた時のことだ。

 サムネは”たまも”のデザインを担当している〈マクロ〉先生の描きおろしだ。二人をイメージしたキャラクターが描かれている。

 何やらガサガサと環境音が乗った音が聞こえ配信準備をしている雰囲気が伝わってくる。この辺りは配信慣れしてないなって感じがする。

 普段他の配信を見ている時は微笑ましいミスも俺や今の〈にゃん太〉先生にとっては大事故に繋がりかねないミスだ。

 ヒヤヒヤしながら見守っているとコメントで気が付いたのかミュートにされた。

 あっぶな!

 幸い声は乗っていなかったのでバ美肉してることはバレずにすんだ。

 ”なな”にとって親の配信なのに我が子の参観日に来たような気持ちだ。

 

              〇〇〇


 〈にゃん太〉先生視点


 ”なな”さんに教えてもらった通りに配信の準備をしているとコメントを見て自分がマイクをミュートにし忘れていることに気が付いた。

 サーッっと血の気が引くのを感じながら恐る恐るコメントを確認する。


 [コメント]

 :ミュート忘れてる

 :PON

 :ドンマイ

  :

  :

  :


 喋っていなかったので何とかバ美肉してることはバレていないようだった。

 ホッとして落ち着くと急に恥ずかしさがこみあげてくる。

 やっぱり無理だよ~


 緊張して声がちゃんと出るかも怪しい。

 しかし、マクロちゃんと別々に枠をとっていることもあり時間になったら配信を始めないわけにはいかない。

 こんなことを毎日している”なな”さんはやっぱり凄いな~と改めて関心させられた。

 

 Discordに連絡が来た。

 マクロちゃんからだ。

 「そろそろ始めるよ~」

 いよいよ配信時間だ。

 ボイスチャットに入ると既にマクロちゃんが待機していた。

 「にゃんちゃん今日はよろ~」

 「う、うん。よろしく……」

 「お~スゴ! 男の声になってる」

 「ホント? 大丈夫?」

 「大丈夫、大丈夫! 完璧! それじゃあ早速行く?」

 「す~、うん。」

 二人で同時に配信を開始する。ミュートを解除してOBSを操作する。

 良し! 頑張ろう!


                 〇〇〇


 ミュートが再び解除され二人が話し始めた。

 それを聞いた瞬間俺は固まってしまった。

 なぜなら〈にゃん太〉先生がバ美肉できていなかったからだ。

 全力で女の子の声が配信に乗ってしまっている。

 え?

 一瞬訳わかんなかったが原因はすぐに分かった。

 俺が教えたバ美肉の仕方はボイチェンの機材を通して声を変えて、ソフトで微調整。そのソフトでいわゆる返しをしながら自分の声を常にチェックしながら配信をする。

 この時にOBSでソフトを使用した声をマイク選択しないとマイクが拾った地声の方を配信に乗せてしまうのでバ美肉失敗してしまうのだ。

 〈にゃん太〉先生は今回このミスをしてしまったのだ。

 恐らく操作を間違えている。

 しかし、いまさら直したところでもう遅い。配信でしっかりあいさつまでしてしまっていた。

 本人はまだ気づいていないようだ。

 このミスの恐ろしいところは自分では気づけないところだ。返しはしっかりバ美肉出来ているので自分では上手く行ってると勘違いしてしまう。

 コメントなどで気づけばいいが緊張していてコメント読んでる余裕もないだろう。

 急いでlineをするもまったく既読が付かない。 

 「やっちまったな」

 コメントは大盛り上がりだ。

 ここ最近では一番の大事故をやらかしてしまった〈にゃん太〉先生だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る