第31話 コラボ1
あれから何度か入れ替わり練習をしてきて数日。いよいよオフコラボの日がやってきた。
場所は”たまも”の家でとのこと。マネージャー役の俺も行ってもいいことになった。
何か問題があったときにはフォローしないといけないからな。
指定された待ち合わせ場所まで向かう道すがら千鶴と今日の段取りを確認する。
「いいか、あんまし変なことは言うなよ。あとこれまでオフコラボ断ってたのは声変えてるのを知られたく無かったからってことにしとけよ」
「りょ、てか私”たまも”ちゃんと絡めるとかマジ上がるんだけど!」
これまで配信者とリスナーの関係だった千鶴はめっちゃウキウキした感じでさっきから落ち着きがない。
「頼むから暴走すんなよ? あとヤバくなったらなんでもいいから話題そらすなり何とかしろよ、俺もフォロー出来たらするから」
「あいあ~い」
そんな感じで千鶴と二人待ち合わせ場所の駅前までやってきた。
なんと驚いたことに待ち合わせ場所の駅前は俺の家の最寄り駅だった。近くのカラオケは練習で良く利用している場所だ。
「てか、こんな近くてマジビビった」
「それな~、まさかこの近くに住んでるとはな」
偶然だろうが最初に聞いた時には鳥肌がたった。
「出来ればこの話題は無しな」
「あんまし突っ込まれたく無いしね」
待つこと数分俺たちの前に一人の長身の美女がやってきた。
「どうも、”なな”ちゃんであってる?」
千鶴に向けて話かけた美女は”なな”の名前を出して確認してきた。その声は”たまも”とは違い少し低めのハスキーな感じの声だ。
「……はい、そうですけど……”たまも”さんのマネージャーさんですか?」
”たまも”本人では無くマネージャーだと思ったのだろう、一応確認の為に千鶴が質問をする。
「はははっ! いえ、すみませんでした。私が”たまも”本人ですよ」
「「っえ!」」
思わず俺も驚いてしまった。
その声は普段可愛らしい声をした”たまも”とは全然似ていないからだ。まぁ俺も人のことは言えないが。
「めっちゃ驚いてますね~。でも”なな”ちゃんも普段と声違うよね?」
「あつ、はい。隠しててすみませんでした」
”たまも”は軽く笑い、「全然いいよ~」と手を振る。
「私だって声を変えて配信してたしね」
千鶴は”たまも”が声を変えていたことに驚いていたが俺は違うことに驚愕していた。
なぜならこの美女はよくカラオケ屋ですれ違う人だったからだ。
直近ではクリスマス前、練習の為にカラオケに行った時隣で歌っていた。
まさかあの人が”たまも”だったなんてな。
世間の狭さをここまで感じたのは初めてだ。
そんな俺を置いて千鶴のスキル、コミュ強が発動して二人の会話はどんどん弾んでいった。
「で、隣のお兄さんがマネージャーさん?」
「うんうん! そう!」
おいおい、もうタメ語になってんのかよ! スゲーな。
「初めまして、今日はよろしくお願いします。マネージャーの佐藤 和樹です」
「よろしくお願いします。〈九重 たまも〉をやってる長月 木乃香です。呼び方は”たまも”でお願いします」
「ご丁寧にどうも。今日は迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ。そういえばお兄さんもこの辺に住んでるんですか?」
いきなりドキッとさせられる質問をされたぞ。
ここで嘘をつくと後々厄介なことになりそうなのが目に見えている。
「ええ、確かにこの辺に住んでますが……」
「あぁ、深い意味はないんですけどよくカラオケで近くの部屋に入られてるの見るので」
まさかの”たまも”も俺のことを認識していた。
「あ~、そうだったんですね」
ここで選択肢を間違えると芋づる式に色々バレてしまいそうな予感がする。
「そうなんですよ~。”なな”ちゃんの歌枠で歌う曲ばかり入れていて不思議だなぁって思ってて、マネージャーさんだったんですね」
しかも歌ってる曲まで認識されていた。
まさかここまで把握されてるとは俺も思わなかった。
「あぁ~、一応確認のためにカラオケに行ってたんですよ」
いい返しが思い浮かばずなんかふわっとした言い訳みたいになってしまった。
「そうだったんですね~」
”たまも”の方もそこまでこの話題を深堀する気もなかったようで何とか身バレ回避は出来そうだ。
なんだかいきなり冷ヒヤヒヤする場面のあるコラボになりそうな予感だ。
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