第20話 新年

 親父と話した後スマホに1件のラインが届いていた。


 〈康介〉

 『あけおめ! 今実家?』

 『あけおめ! 今実家』

 『それじゃあ家の近くのコンビニこれる?』

 『了解』

 

 康介からのラインに返信をし、家を出る。

 康介の実家も俺の実家のすぐ近くにあり必然的に生活圏が同じになる。家の近くのコンビニといえば徒歩5分ほどのところにあるコンビニで間違いない。

 冬らしく冷たい風が頬をなでる。少し急ぎ足でコンビニへと向かうとコンビニの前で珈琲を啜る康介がいた。

 「おう、あけおめ」

 「あけおめー、今日寒いね」

 「だな、で? どうした」

 カップに残った珈琲を一気飲み干して一息ついて話し出す。

 「昨日の配信でさ、”たまも”とコラボしてたじゃん」

 「ああ」

 「なんかボイトレとかの話してたけどアレ本当に行く気?」

 昨日の配信で”たまも”から持ち掛けられたボイトレを紹介してくれる件だ。個人的には歌枠などの配信もするので今の独学では限界を感じていたところだ。

 さすがに〈子月 なな〉です。と言ってボイトレに行くわけにはいかないが上手いこと千鶴とかにお願いして発声の練習方法とか聞いてきてもらえないだろうかと思っていた。

 「さすがに真正面から行けるとは思ってないよ」

 「だよね。僕も最近知り合いのサウンドクリエイターに聞いたんだけどプロの人だとボイチェン使ってるかどうかって結構分かるらしいんだよね」

 「あ~、なんかネットとかでもそんな話し聞くな」

 「うん、まぁあの人たちも音に関しては変態だからね。ボイチェン使って頑張ってる人見つけると応援しちゃうらしいよ」

 「そんなもんなのか」

 「そう、だからボイトレの先生にもよるけど和樹さえよければ思い切って行ってみてもいいんじゃないかと思ってね」

 なるほど、つまり康介はせっかくだし正体をばらしてでも行ってみては?と言ってるわけだ。

 「なるほどな。まぁアリだとは思うな」

 「でしょ、歌枠少ないのも自分の歌に自信が無いからなんじゃない?」

 確かに歌枠の頻度的には月に1回、少ない時には3カ月くらいやらない時もあった。歌を歌いながらバ美肉するのは想像以上に難しいのだ。声を張りすぎても駄目だし、低い声を出しすぎてもバランスが崩れて声が乱れてしまう。

 そのためこれまで歌枠配信は避けていた。

 「まぁ、俺も上手いわけじゃないし、ちゃんとしたところで習えるなら習いたいな」

 「うん、千鶴ちゃんとも相談して決めて行こう」

 「了解。 いつもアドバイスサンキューな」

 「全然だよ。個人的にも歌枠もうちょい増やして欲しいし、上手くなって欲しいしね」

 「そんなに俺の歌ヤバいか?」

 「聞けないことはない」

 「マジか、個人的にはよくやれてるつもりだったんだけどな」

 「もっと他の人の歌聞いたほうが良いよ。”たまも”とかマジ上手いから」

 「帰って聞いてみるよ」

 その後二人で近所の神社に初詣へ行き家へと帰った。


                  〇〇〇


 家に帰ると千鶴に呼ばれた。

 「お父さん大丈夫だった?」

 「まぁ一応」

 「へー以外。いつも安定した職に就けってうるさく言ってる割には案外あっさり終わったんだ」

 「それなー、さすがに呆れられたのかもな」

 「……ありそう」

 「その分お前にしわ寄せが来たりしてな」

 「最悪じゃん」

 「そうならないように今の仕事で安定して生活していけるってことを証明しないとな」

 「切実に頼むわ」

 「……了解」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る