第19話 帰省

 年越し配信を終えた後、数時間の睡眠を取って昼前に実家へと帰省する。

 仕事を辞めた後も正月と盆は実家へと帰ることになっている。個人的には再就職していない以上気まずすぎて実家には近づきたくないのだが家族との約束なので年2回は必ず帰省するようにしているのだ。

 「あ~! だるぅ~」

 去年の正月はまだ失業保険をもらえる期間だったこともあり両親からもそこまでつつかれることもなかったのだが今年はそうもいかない。

 「絶対親父に怒られるよな……」

 Vtuberのことを何も知らない両親は俺が貯金を食いつぶしながら生活していると思い込んでいるはずだ。それか借金していると勘違いをしている可能性もある。

 そんな感じに自室でうだうだしていると千鶴からラインが届いた。


 〈千鶴〉

 『明けおめ、今日いつ頃帰ってくんの?』


 千鶴から今日の予定の確認である。

 

 『昼ぐらいには帰る』

 『りょ』


 とりあえず昼くらいには帰るという当初より少しだけ予定をずらしてゆるーい意気込みで挑もう。


                〇〇〇


 14時。

 当初の予定の数時間後、重い体を引きずりながら実家へと帰省した。

 「ただいま~」

 玄関でとりあえず帰宅のあいさつをする。

 しーん、とした家からは誰の返事も返ってこず俺の実家でのヒエラルキーを察する。

 分かってましたということでとりあえず自分の部屋へと向かう。部屋の戸を開けると見慣れた部屋は既になく大量の段ボールや家具が置かれていた。

 「マジかよ」

 お前に帰る場所はないと言われているような状況に思わず立ち尽くす。

 すると隣の部屋の戸が開き千鶴が出てきた。

 「あれ? 兄貴帰ってたんだ」

 「おう、今さっきな。というか俺の部屋どうなってんのコレ?」

 「あー、お父さんが年末の大掃除で兄貴の部屋を物置にしようって言い出してさ」

 「マジか、もしかして親父怒ってたりするの?」

 「そんなことなさそうだったけど」

 「マジで? 俺の荷物どうしよう」

 「下の客間でいいんじゃない?」

 一階の和室の辺りを指差しながら適当に答える。

 「まぁこの状態じゃあな」

 他に選択しもなさそうなので素直に一階へと向かうことにした。

 

 一階の客間へ行くためにはリビングを通過する必要がある。そのため帰省してからあえて避けていたリビングへと足を踏み入れなければならないのだ。この期に及んで往生際が悪いことこの上ない。

 「ただいま」

 リビングの戸を開けると親父と母親がそろって炬燵に入りテレビを見ていた。母親に関してはミカンをつまみながらくつろいでいる。

 「おう、帰ったか」

 少しドスの利いた声で親父が迎えてくれる。

 「あ、うん」

 「お前の部屋な物置にすることにした」

 「見たよ、びっくりしたけど」

 「まぁ問題ないだろう」

 問題大ありだろうが! と心中で大きく叫びながら入室する。

 「部屋の物とかどうしたの?」

 「全部捨てた」

 この親は、普通ならとんでもない親子喧嘩になっても不思議じゃないぞ。

 文句の一つも言いたいところだが就職のことで負い目があるためこちらから強くでることに抵抗を覚えてしまう。

 「ふーん、そう」

 「何も言い返さないんだな」

 「まぁ、文句言えた立場じゃないし」

 「ふん、自覚はあったか。それじゃあ年も開けたことだしお前の今後の予定でも聞こうか」

 帰省して数分。いきなり修羅場へ突入してしまった。


 テーブルをはさんで向かい合うこと数十秒。最初に切り出したのは親父からだった。

 「再就職の状況はどうなっている?」

 「まぁ、ぼちぼちかな」

 「そんな答えが聞きたいわけじゃない。具体的に話せ」

 上司かよ!

 「去年の状況から変わってません」

 「……まったくか?」

 「まったく」

 実際はVtuberとして成功しています! なんてことは口が裂けても言えない。

 「金は?」

 「今のところ問題ないよ。家賃もちゃんと払ってるし、食事もちゃんと摂ってる」

 「ずいぶん貯めていたんだな」

 「今はバイトとかもしながらだから大丈夫」

 この言い訳は事前に考えていたものだ。どう考えても20代で離職したサラリーマンが家賃を払いながら1年以上も保てる貯金持ってますなんて言い訳は苦しすぎる。

 「バイトか、バカにするわけじゃないがそんな生活がいつまでも続くと思っているのか」

 「それは……」

 いきなり痛いところを突いてくる。

 「じゃあ聞くが再就職する気はあるのか?」

 さらに答えづらい質問を投げかけてくる。「ある」と答えたいところだがVtuberとして人気が出てきた今が頑張りどころの俺としてはいまさら8時間労働をしている暇なんてない。そんな暇あったら一つでも企画を考えている。

 「今のところは考えてない」

 「……」

 「……」

 微妙な沈黙が流れ場の空気がどんよりとしてくる。そんな中母親だけが正月特番を見ながらゲラゲラ笑っていた。

 「自分の人生だよく考えろ」

 そう一言残して親父は炬燵へと戻っていった。

 なんとか切り抜けたと言えるのか?

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