第21話 新年会
元日を実家で過ごした俺は2日には自分の家へと戻った。
今日は康介と千鶴が家に来ている。〈子月 なな〉の運営陣の新年会だ。
「それでは、今年もよろしく! カンパーイ!」
「「かんぱーい」」
3人で缶を突き合わせ昼間から缶チューハイをグイっと飲む。会社での飲みでは最初は生でないといけないという圧を感じていたが仲間内の飲みではそんなの関係ない。みんな好きなの飲んでいいじゃない、の精神である。
「ぷはぁ〜。生き返る~」
親父みたいなつぶやきとともに缶を傾ける千鶴を康介が苦笑いしながら見ている。
「去年は千鶴ちゃんのおかげで年末は少し楽できたから助かったよ」
「え~、私そんな大したことしてないよ」
「そんなことないよ。〈にゃん太〉先生とのやり取りなんて僕がやると全然スムーズに進まないもん、あの人とちゃんとコミュニケーション取れるのは素直に凄いと思うよ」
「話すとめっちゃいい人なんだけどなぁ」
「あの人男には厳しいからな」
「あ~、分かる」
そんな感じで去年の振り返りをしつつ酒を飲んでいると話題はこれからの活動についてに移っていった。
「そういえば年始の配信はいつからすんの?」
「今晩からするぞ」
「酒は言ってて大丈夫?」
康介が少し心配そうに訪ねてくる。
「さすがにこれ以上は飲まねーよ。後は水もしっかり飲んどけば大丈夫でしょ」
「僕はまだまだ飲むから今日はチェック出来ないよ、気を付けてね」
「私はもちろん配信見てるから!」
「あいあい、了解」
「そういえば!」
急に千鶴が大きな声を出すとスマホを俺たちの前に差し出してきた。
「コレ! 案件の依頼来たんだけど!」
画面を覗き込んでみるとそこには大手ソシャゲメーカーからの依頼メールが表示されていた。
年末から少しづつ〈にゃん太〉先生との連絡以外にも千鶴に仕事をお願いしていた。この案件メールも千鶴宛のアドレスに届いている辺り、引継ぎはちゃんと出来ているようだ。
「あ~、案件な。悪いけど角が立たないように断っといてくれ」
「? なんで? 勿体ない」
わけが分からないと言った顔でこっちを見てくる。
「さすがに案件となるとね、”なな”の正体がバレると企業さんにも迷惑かけちゃうからね。案件配信とかの契約だと不祥事の場合には違約金ってこともあるし、あんまりリスクは取らないほうがいいんだよ」
すかさず康介が説明をしてくれる。
「なるほどね。それでこれまでも案件がなかったんだ。でも勿体ないな~」
今回依頼の来たゲームは最近話題になっている育成ゲームだった。何度か配信中にも話題に上がっていて多数のリスナーもプレイしているようだ。
「確かに勿体ないよな」
「そうだね、今勢いあるしね」
「これって案件じゃなければやってもよかったりするのかな?」
「案件断ってプレイしてたら相手に失礼じゃね?」
「確かに……例えばだけど企業さんに事情を説明したらOKだったりするのかな?」
「お前、これ以上俺の秘密を知ってる人を増やそうとすんなよな」
現状秘密を知っているのは康介と千鶴、そして〈にゃん太〉先生のお父さんの3人だけだが知ってる人間が増えるほどネットでバレる危険が大きくなる。信用できる人間以外にはあまり知られたくない秘密だ。
「そうだね、企業の方もあんまりいい顔しないんじゃないかな。最悪依頼自体なかったことにされると思うよ」
「そこまで!?」
「企業ってのはお前の思ってる以上に面子を大事にするもんなの」
「なるほどね~、じゃあ勿体ないけど断っとくね」
「おう、頼む」
せっかくの飲みの席なのに結局話すことは仕事の話しばかりになってしまう俺たちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます