第16話 クリスマス

 いよいよクリスマス配信当日。

 ここまでかなり駆け足で準備をしてきたが今日ようやく本番だ。

 3D撮影の時には普段使用しているのとは違うカメラを3台使用している。大手事務所などではうん百万円と掛かるカメラを難題も設置して撮影をしているそうだが個人で活動している俺にはこれが限界だ。

 スタジオもちゃんとしたものは無いし、資金も限りがある。そのためモーションは最小限にし、後はソフトウェアに丸投げだ。

 機材の設定を終えて配信の準備を終える。

 今日は家に千鶴と康介も来ている。配信のサポートをしてもらうため来てもらった。普段やらない配信方式なのでサポートをしてもらったほうが安心だ。

 「よし、準備できたな」

 「出来たね。久しぶりにこれ準備したね」

 「確かにな~半年ぶりくらいか?」

 「そのくらいかな、やっぱ準備大変だから段々やらなくなりそう(笑)」

 「気持ちは分かるけど機材の元は取りたいところだな」

 「もう十分とれてるでしょ」 

 そんな話をしているとガチャリと玄関が明く音がした。

 「ただいま~、ごはん買ってきたよ~」

 買出しに言っていた千鶴が飯を調達して返ってきた。

 「サンキュー」

 「ん」

 千鶴は当たり前のように領収書を俺に向けて突き出す。

 「マジか」

 「当然でしょ、もちろん経費だよね?」

 「はいはい、了解」

 「ちゃっかりしてるなー。千鶴ちゃんは」

 「当たり前じゃん、落とせるものは落とすよ私は」

 「少しは遠慮しろよな」

 「じゃあご飯あげませーん」

 「おい、払うって言ってんだろ」

 社会人の時先輩や上司に飯を何度も買いに行かされたが一度として金を請求したことはない。というかできる感じでは無かった。圧に負けてしまっていたし、それが当然だと思っていた。

 そういう意味ではうちの妹は大物に育つかもしれないな。相手が俺だからってのもあるんだろうが。

 ちなみに買ってきた弁当はコンビニの500円前後の弁当ではなく1000円以上する有名弁当だったりする。普段自分じゃ絶対に買わないような品だ。

 (ホントちゃっかりしてるよ)

 

               〇〇〇


 「コレが配信用の機材なんだ」

 千鶴が設置されたカメラを見ながらつぶやいた。

 「そうだよ。このカメラで和樹の姿をトラッキングして動きをトレースするんだ」

 康介が千鶴に丁寧に説明をしている。俺はといえば配信に緊張してそんな話をしている場合ではない。テレビで興味のないニュースを垂れ流しにして緊張を紛らわしていた。

 「へー、スゴ! こっちのモニターは?」 

 「それでトレースした動きをチェックするんだよ。ちょっとテストがてらやってみようか」

 「マジで! やるやる」

 完全に職場体験みたいになってやがる。

 「へー! こんな感じなんだ! 私の動きに合わせて”なな”が動いてる!」

 「ちょっとその場で回ってみたりして」

 「はーい」

 クルクルとその場で回転し楽しげにしている。

 康介はテストで千鶴にいろんな動きをさせてカメラの動作状況をチェックしている。

 「はーい、OK。問題なく動作してるね」

 「チェック終了?」

 「うん、これで後は配信時間になるのを待つだけかな」

 「後30分かぁ、暇だね」

 「和樹はそうでもなさそうだけどね」

 「え? もしかして兄貴緊張してんの?」

 「煽んじゃねぇよ、緊張くらいするだろ」

 「マジウケるんですけど」

 「ウケるな」

 ヤバい久しぶりの3Dでガラにもなくマジで緊張してきてしまった。

 「マジ緊張してきた」

 「あはは、久しぶりだもんね」

 「それな、前こんな緊張しなかったはずなのにな」

 「コメントでも見て緊張ほぐしなよ」

 「もうコメント打ってるヤツいんのかよ」

 配信枠の画面を覗いてみると既にぽつぽつとコメントを打ってる人が何人かいた。内容は総じて「楽しみ」だとか「待ってました」などの内容だ。

 「ん? このコメントお前じゃん」

 ぽつぽつとあるコメントの中の一つに千鶴のアカウントを見つけた。

 「見んなし」

 「いや、別にいいだろ。てかもうコメント打たなくて良くないか」

 「だからリアルとバーチャルは別なんだって」

 「そうゆうもんか、お前がいいなら良いが」

 「和樹そろそろ準備しようか」

 「おう」

 そんな話をしていたらそろそろ配信時間になっていたので準備を始める。

 いよいよ3D配信開始だ。


                〇〇〇


 『みんな~こんなな!』

 『今日は待ちに待ったクリスマスだよ~! みんなのとこにはサンタさん来たかな?』

 

 [コメント]

 :こんなな~

 :メリクリ!

 :サンタ来ねー

 :サンタいつまで信じてた?

 :始まった~

      :

      :

      :


 『サンタ来てないって人いるね~そんな人に朗報です! 今日はサンタさんが来ます!』 ちなみに今の”なな”は通常衣装のままだ。

 進行としはこの後2曲程歌ったところで衣装発表をして最後にもう一曲歌う。そして最後にスクショ撮影会をして終わりの予定だ。

 さっそく歌に移っていく。

 『それじゃあ歌っていくよ~』

 有名なクリスマスソングのイントロが始まったことでコメントが賑わい始める。

 

 [コメント]

 :クリスマスっぽい!

 :!(*'ω'*)!

 :!(*'ω'*)!

 :可愛い!

    :

    :

    :


 ペンライトを振るスタンプが大量に流れて歌配信らしくなって来た。

 ちなみに歌枠は普段全然取らない。理由はバ美肉しながら歌を歌うのはかなり疲れるからだ。

 ただでさえ普段よりも高い声を出しているのに曲によってはさらに高い音を要求してくるので喉が持たないのだ。そのため普段聞けない歌枠ということでリスナー達は大いに盛り上がっている。

 『はーい! ありがとうございました!』

 予定してた2曲を歌い上げた。いい感じに場があったまり衣装発表をするにはちょうどいい感じとなった。

 『それじゃあ、お待たせしました! これより新衣装を発表しようと思います!』

 

 [コメント]

 :やったー

 :待ってました!

 :どんなの来るんだ?

     :

     :

     :

 

 コメントはさらに盛り上がる。

 『みんな色々予想しくれてるね~、それじゃあお着換えしてくるよ』

 ここで一旦画面から”なな”が消える。

 康介の方を見ると小さくうなずいてPCを操作する。

 配信には映っていないが手元の画面に映る”なな”の衣装が新衣装のサンタコスに変わった。

 再び康介の方を見ると片手でOKと指示をしてきた。

 『はーい! みんな~準備が出来ました~』

 『それじゃあ行きますよ~』

 『じゃーん!』

 カメラの前に駆け足で飛び込むようにして登場する。

 まさかのミニスカビキニサンタの登場でリスナーは発狂していた。

 

 [コメント]

 :うわああああ!

 :センシティブ!

 :かわいいいいいい

 :そうきたかぁ

    :

    :

    :

        

 『はーい、ということでこんな感じになりました~』

 『マジでハズいんだけどwww』

 とは言いつつもコメントを確認すると割と好意的な意見が多い感じだ。

 『ちなみにデザインは〈にゃん太〉先生です! ありがとうございました!』

 『ハズいからそれじゃあサックっと歌枠続きいくよー』


               〇〇〇


 『それじゃあみんな今日は集まってくれてありがとう!おつなな~』

 約一時間の配信が終了した。

 おおむね好評だったように思う。康介からOKの合図が出て配信が終了したことを確認する。  

 「ふ~」

 「お疲れ様」 

 「おう、サンキュ」

 「いい感じだったんじゃない?」 

 「そうか? ありがとな」

 「マジ最高だったわ!」

 別室で待機していた千鶴が戻ってきた。

 特に手伝えることも無かった千鶴は別室でスマホ片手に配信を観ていたようだ。

 「お前がそう言うんなら成功だったんだな」 

 「千鶴ちゃんはリスナー代表だからねwww」

 「もう最高だったからOK」

 OKだったらしい。今日はとにかくもう疲れたからさっさと寝てしまいたい。

 「それなら良かったわ。今日は泊まってくのか?」

 「僕はもう帰るよ」

 「私は泊ってく~」

 「了解、んじゃ二人ともお疲れ様」

 こうして今年最後の大型企画が終了した。

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