第15.5話 九重 たまも

 【たまも視点】

 〈九重 たまも〉こと長月 木乃香は28歳独身、男性は苦手だ。

 音大を卒業後は様々な事務所オーディションを受け、シンガーソングライターとしてデビューした。

 活動をしていた期間は2,3年で、目が出ずに引退。

 その後ボーカルトレーナーとして主にネット上で活躍している歌い手やVtuberのサポートをしている。

 そんな私は自分が歌うよりも人に教えるほうが才能があったようで、3年ほど前に教えていた生徒がネット上で話題となりそのままメジャーデビュー。可愛らしい外見も相まって様々なメディアに引っ張りだこの人気シンガーとなった。

 それ以来実に多くの生徒が私のボーカルトレーニングに来るようになった。とても運が良かったんだと思う。

 1年半前に生徒の一人に配信をしてみては?と進められて知り合いのつてを頼りVtuberとしてデビューした。

 デビューに際しては元々ハスキーな自分の声に少しコンプレックスを抱えていたので、ボイスチェンジャーを使用して声を加工し、可愛らしい声に変えて配信している。

 配信を初めてすぐのこと。

 自分と同じ時期にデビューした個人Vtuberがいるという噂を聞いた。気になって視聴してみてすぐに気が付いた。まだ配信を初めて間もないということもあり、その娘の声には微妙にノイズが乗っていた。普通の人ではまず気が付かない程度のノイズ。しかし、声を仕事にしている私は気が付いてしまった。

 それからは私と同じことをしている人がいるということに興味を惹かれ毎度配信を見る日々だった。時にはコラボをしたり、お互い意見を交換しあったりした。

 最近になって久しぶりのコラボ配信をしたときに私は思い切ってその娘をオフコラボに誘ってみた。

 その娘は戸惑った様子をしていた。

 無理もない私はその娘がボイチェンをしていると気づいているが私がボイチェンしていることをあの娘は知らないのだ。秘密がバレてしまうと間違いなく炎上案件なためオフコラボには慎重になっているのだろう。

 押して、押してなんとかコラボOKを勝ち取った。そこで私は秘密をばらそうと思った。そして、二人で色々な話がしたい。ボイチェンの設定方法だったり、コツだったり。他の人とは話せないような内容の話をしてみたい。そして思いっきり抱きしめたい、だってその娘は絶対に可愛らしいはずだから。

 そう、私は可愛らしい人が大好きなのだ。

 つまり、〈子月 なな〉という可愛らしい女の子の正体を見てみたい、可愛がりたい。

そんな欲望が私の胸の中でグルグルと渦巻き始めていた。

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