第12話 コラボ4

 コラボ配信は順調に進み予定していた6つのゲームすべてが終了した。

 尺もぴったりで約1時間。予定どうりである。

 ちなみに勝敗は3勝3敗でドローだった。一つ目のゲームが「リバーシ」で”なな”の勝ち。二つ目の「ドット&ボックス」でまた”なな”の勝ち。三、四番目の「コネクトフォー」と「ボウリング」で”たまも”が勝った。「ダーツ」で”なな”が勝ち越したが、最後の「ヨット」で”たまも”が勝ったことで結果ドロー。

 いい試合だったとお互い称えあい配信は終了するはずだった。

 『いやー、いい試合だったね!』

 『そうじゃの! しかし、ドローか……どうせじゃし最後にもう一戦して決着をつけんか?』

 ここでいきなり”たまも”から予定になかった「もう一勝負」が発せられた。

 『えー? 三対三でいい感じじゃなーい?』

 『いやいや、ここまで来たら決着付けたいじゃろう。リスナーのみんなもそう思うじゃろ?』

 ”たまも”はリスナーを巻き込んできた。こうなると断りづらくなってしまう。

 

 :決着付けろ

 :ラストもう一戦!

 :ドローはないでしょ

      :

      :

      :


 コメントでも決着を付けろという意見が多くなっているようだ。

 『そこまで言われたらしょうがないなぁ。よし! いいでしょう受けて立ちます!』

 『良し! それではゲームを決める前に少し賭けをせんか?』

 『賭け?』

 『そうじゃ、負けたほうが勝った方の言うことをなんでも聞く、というのはどうかの?』

 予定と違うだけでは無く賭けまで仕掛けてきたか。とはいえさすがに”たまも”も無茶な要求はしてこないだろう。

 『いいよ~。でも負けても吠え面かくなよ!』

 『こっちのセリフじゃ! それじゃあゲームを決めるかの』

 『おっけー。今日やった6つの中から決めよ』

 『了解じゃ!』

 リスナーもルールが分かる今日やったゲームの中から選ぶこととなった。

 そして、厳正な抽選の結果「ヨット」で決着を付けることとなった。


                 〇〇〇


 六つ目にもプレイしたため俺たちもリスナーもルールはばっちりだ。

 ”なな”が先行に決まりゲームがスタートした。

 「ヨット」は互いに5つのサイコロを振って役の合計点を競い合うポーカーゲームだ。2回までサイコロを振りなおすことができる。

 基本的には運要素の強いゲームだが、選択する役が勝負を左右することもある。例えば[1]のサイコロが4つ出たときに【フォーダイス】か【エース】かを選ぶ必要がある。【フォーダイス】はもっと大きい目のときに取りたいが、狙いすぎて0点なんてことにもなりかねない。小さい数字のときには勿体なくてなかなか選ぶことはできない。先ほどの勝負ではそれで負けてしまった。

 まさか2点差で負けるとはな。

『それじゃいくよー!』

 最初のサイコロを振る。

 カラカラと転がったサイコロは[1][2][3][4][5][5]【S.ストレート】だ。最初なのでとりあえずはこれで良しと、【S.ストレート】を選択する。これで15点が入った。

 『おろ? 【S.ストレート】でいいのかの?』

 『いいの! 最初はこれくらいで勘弁してやるよってこと』

 『ほーん、舐めるでないぞ!』

 そう言って振ったサイコロは[5][5][5][3][1]だった。

 『きた、きた、きたの~』

 ”たまも”は[5]を三つキープして残りの二つのサイコロを再度振りなおす。

 結果は[1][5]でこれまた[5]をキープ。この時点で【フォーダイス】まで完成している。

 『あーっはっはっは! 笑いが止まらんのぉ!』

 『ちょいちょいちょい! おかしいでしょ!』

 こうなると俺は慌てざるをえない。いきなり【ヨット】を出されてしまうとか勘弁してほしい。

 ”たまも”は再度振りなおしで残った一つのサイコロを振った。転がったサイコロの目は[4]、残念ながら【ヨット】ならずだ。

 『むー、惜しいの。でも悪くない手じゃの~』

 『”たまも”? 【ファイブ】が良くない? もうそんな手出ないかもしんないよ?』

 『何じゃ、何じゃ? 惑わそうとしてくるのぉ。でもそれありじゃな!』

 そうして”たまも”は【ファイブ】を選択する。

 互いの初手での点数は”なな”15点。”たまも”20点となり”たまも”優勢でゲームがスタートした。


                 〇〇〇


 6巡目のこと。

 ここまで”なな”は【フォーダイス】に【B.ストレート】などを出し得点86点。対する”たまも”は【フルハウス】を出し残りはパッとしない手が続き現在60点となった。出だしとは異なり”なな”優勢でゲームは進んできた。

 そして”たまも”のターン。

 [1][2][3][6][6]の目が出て[6]を2枚キープ、ワンチャン【ヨット】を出して逆転を狙う。

 『いいじゃーん。[6]【ヨット】狙い?』

 『当たり前じゃろう! 来い!』

 再びサイコロを振る。目は[1][1][6]当然[6]をキープし最後の振りなおしをする。

 『頼む! [6]来るな~!』

 俺は念を込めて見守る。

 『はっ!』

 サイコロの目は[6][6]【ヨット】完成だ。

 『あぁ~! なんでだよ!』

 『いえ~い! 見たかコラ~』

 当然”たまも”は【ヨット】を選択し50点が加算される。86対110で再びゲームの流れは”たまも”に移ってしまった。

 『これで勝ち確かの~』

 『まだ、終わったと思うなよ! 絶対【ヨット】を出してやるからな!』

 『やれるもんならやってみてほしいのぉ』

 互いに煽り、煽られを繰り返しながらサイコロを振る。

 [1][2][6][6][6]だ。当然[6]を三つキープ。

 『マジか! ヤバいの』

 『見てなよ~、オラ!』

 再度サイコロを振り[1][6]の目が出た。

 『おかしいじゃろ! マジか!』

 『はっはー! んじゃ最後!』

 最後の振りなおし、転がったサイコロの目は[6]

 『しゃあー! 見たか!』

 『なんでなんじゃ~』

 当然俺は【ヨット】を選択する。

 これで点数は136対110だ。互いに一歩もゆずらない熱い戦いになってきた。

 『負けられんのぉ』

 ”たまも”がサイコロを振りながら真剣な声音でつぶやいた。


               〇〇〇


 勝負は最後のターンになった。

 互いに点数は193点対189点。少し”なな”の方がいいがすべてのターンを終えて後は”たまも”のプレイを見守るだけだ。

 ”たまも”の残った役は【B.ストレート】出すのが難しい役であるのがここまでのミラクルを思うと油断できない。

 『”たまも”~出るの?』

 『出して見せるわい! 見てろ!』

 そう意気込んで振ったサイコロは[1][2][4][5][5]五つのうち四つをキープだ。

 『ヤバい! ヤバい! [3]出るな[3]出るな!』

 『出させていただきますのじゃと。 そら!』

 転がったサイコロは[3]、【B.ストレート】完成だ。”たまも”に30点が加算されて合計点数が219点。”なな”の193点を上回り”たまも”の逆転勝利だ。

 『やったーーーーー!』

 『あーーーーー! マジかぁ』

 ”たまも”ははしゃいで喜び、俺は萎えた感じで落ち込んでしまう。なぜならこの勝負は賭けをしていたからだ。

 『妾の勝ちじゃな~!』

 『いやーん、変なお願いしないでよ?』

 『ふふん、実は最初からお願いは考えていたのじゃ!』

 『マジで? なにさせる気?』

 『”なな”にはオフコラボで3DVRホラーをしてもらおうと思う!』

 『はぁーーー! オフコラボ!?』

 まさかのオフコラボのお誘いだった。本来なら嬉しいお誘いも俺にとっては地雷でしかない。”なな”の正体を知らない”たまも”とオフコラボをするということは”なな”の中身を見られてしまうことになるからだ。

 『驚くところそこ?』

 『あっ、いや、ホラーにも驚いたけど私オフコラボとか初めてだし……』

 『確かに初めてじゃの。妾も楽しみじゃ!』

 VRホラー以上に正体ばれの危険がすぐそこまで迫ってしまっている恐怖。これこそがホラーでしかない。

 『それでは”なな”のリスナー達よ、続報を楽しみにしておいてくれな』

 『勝手に人のリスナーに告知しないでくださーい』

 『楽しみじゃの~』

 こっちは今からどうやって断ろうかすごい勢いで考えてるよ。

 こうして久びりのオフコラボは大盛況で幕を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る