追悼41 胸糞悪い証言

蜷 川「被告人女子、自らを有罪か無罪か、答えなさい」

美 帆「ふん、好きにすれば」

蜷 川「自分の罪の判断を答えるように」

美 帆「勝手にどうぞ」

蜷 川「反論、申し立てはないか」

美 帆「な~い」

三 上「被告人女子は、未だ中二病から抜け出せないようで代弁致します」

美 帆「中二病?中学は卒業しましたぁ、残念」

三 上「被告人女子が桜子さんに対する行為は、見下される不安・恐怖からなされた

    ものであり自分自身の存在感を肯定する唯一の手段としたものです」

美 帆「自分の存在?そんなの興味な~い」

三 上「桜子さんをイジメることにより、本人が気づかない冷淡な意志を見せること

    により周囲の者に恐怖感を与えた結果、従わせることになった。これは本人

    の意志ではなく、取り巻きの判断であり、被告人女子個人の命じたものでは

    ない。よって、被告人女子の行為は、悪意でなく、素性がそうさせたもので

    感情の育成の未熟さが原因であり、更生し難い人格形成にある。よって、被

    告人女子本人に自らの罪を認識させるのは不可能だと考えます」

美 帆「言っている意味は分からないけど、馬鹿にされている私?」

三 上「あら、自分の事になると敏感になるのね」

美 帆「あんた私の弁護人じゃないの」

三 上「弁護してあげているじゃない。何も答られないあなたの事情を」

美 帆「好きにすれば、期待なんてしてないから」

蜷 川「双方とも感情的にならないように注意してください」


 三上と美帆は視線を合わせることなく、不貞腐れて深い闇を見ているようだった。


蜷 川「被告人女子に関して今一度、こちらから質問したいと思います。重複するこ

    とがありますが被告人女子を知るためのものと面倒くさがらず、答えるよう

    に」

美 帆「好きにすれば」

三 上「あんた!好きにすればしか、言葉をしらないの!」

美 帆「知ってるよ、ばばぁ」


 三上は、今にも美帆に掴みかかろうとするのを拳で机を叩き、堪えた。


蜷 川「桜子さんとの関係は」

美 帆「友達」

蜷 川「その友達の桜子さんが亡くなった事を知り、どう思いましたか」

美 帆「う~ん、いや、正直、何も思ってなかった」

蜷 川「友達が亡くなって何も思わなったのですか」

美 帆「別に」

蜷 川「自慰行為の強要をイジメとは思いませんでしたか」

美 帆「う~ん、別にどっちでもないんじゃないですか。本人、最初嫌がっていたと

    しても、どっちにせよ最終的にはやってるんだから」

三 上「自慰行為は強要したものではないと被告人女子側は主張します」

美 帆「そう、そう。初めて意見が一致したわね」

蜷 川「強要したものではなく自発的だったので罪悪感はない、と言う事ですか」

美 帆「そう」

蜷 川「被告人男子に聞く。自慰行為をさせたことはイジメと認識していますか」

優 斗「悪ふざけ」

財 津「行為をやらせた事実は認めますが、遊びの一種であり、自分は悪くないと言

    うことだね」

優 斗「ああ、言い方が気に喰わないが、そうだ」

蜷 川「動画を撮りましたね。それを誰に見せましたか」

優 斗「覚えていない」

蜷 川「調べは付いています。当裁判では被告人に不利な証言も隠蔽すれば、被告人

    に不利に働くことを伝えておきます」

優 斗「わ、わかった。でも、本当に覚えていないんだ。え~と、そうだ、副校長と

    そこの美帆にしつこく言われて動画を送った」

蜷 川「被告人女子、動画を送らせましたか」

美 帆「優斗が面白がっていたから、皆に見せようと送らせたけど、詰まんなくて何

    人かに適当に送って消した。誰に送ったかは覚えていない」

蜷 川「当時、その場に居た後日談として保護者の証言に成りますが、イジメだった

    と認めていますが、それをどう思いますか」

優 斗「親にそう言えって言われたんだろ。女子は、やれるの?やれるの?とはやし

    立て男子はニヤニヤして楽しんでいたからな」

蜷 川「被告人男子・女子は、はやし立てていないが周囲の者ははやし立てた、と言

    うことですか」

優 斗「そうだ、そうだよな、美帆」

美 帆「興味な~い」

蜷 川「質問を変えます。桜子さんがウッペツ川に飛び込んだ事についてどう思いま

    すか」

美 帆「自分で飛び込んだ」

蜷 川「どうして自分から飛び込んだと思うんですか」

美 帆「どうして?わかんないです。死にたくなったんじゃないですか?」

蜷 川「現場ではやし立てるような行為はありませんでしたか」

美 帆「知らな~い」

財 津「被告人男子の保護者からは、被告人女子の素行の悪さや桜子さんの家庭環境

    に問題があると被告人男子「だけ」が悪いわけではないとの証言を付け加え

    ておきます。いいよね、被告人男子」

優 斗「そうだ。悪いのは俺たちだけじゃない」

財 津「おいおい、被告人男子。俺たちだけって自白しちゃ、駄目じゃない」

優 斗「迷惑しているのはこっちのほうだ。現に俺はここに連れてこられているんだ

    から」

蜷 川「分かりました。質問を変えます。被告人男子に聞く。桜子さんが飛び込むよ

    うに仕向けた行為はありませんでしたか」

優 斗「風馬が桜子の仕草をしつこく真似した。それが桜子は嫌だったみたいで、キ

    レて川の下へ行ったみたい」

蜷 川「風馬とは、同じ中学だった高岳風馬のことですか」

優 斗「はい」

蜷 川「当時、被告人男子は現場にいなかったのではないですか」

優 斗「は、はい」

蜷 川「では、その場の状況を何故、知っているのですか」

優 斗「動画を見て、そう思った」

蜷 川「その動画はありますか」

優 斗「警察に言われて消した」

蜷 川「異例ではありますが、一旦、休憩に入ります。再開は三十分後に」


 判事・弁護役の者は、クルーザーの奥に消えた。美帆は、自分を取り巻く奴らの親の自分への誹謗中傷や全てを自分に責任を押し付けた数々の暴言を思い出していた。優斗は、なぜ、自分がここに居るのかを自問自答するが全てが楽しい悪ふざけの流れであり、拘束され、カラオケやナンパや先輩たちと弱い女子を見つけ、甚振る楽しい日々を思い出し、今の境遇を認めないことに必死になっていた。







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