追悼13 厄介者は、廃棄。ー影狼の法廷(触法少年編)

 「桜子の状態はどうだ」

 「言われた通り、保存しているよ」

 「保存?」

 「そう、保存と言えば冷凍でしょう。食べたいときにチンすればいいだけの」 

 「冷凍?冷凍したのか?」

 「ああ、-17℃で。必要になればチンすればいいじゃん」

 「-17℃で…冷凍…」

 「どうかした?」

 「いや、よくやった修斗君」

 「俺、また褒められた、やほぉ~」


 元・旭川市長・仁支川紘一の秘書・河野新次郎は、あきれ果て、二度と修斗に関わらないと強く意に決めた。

 根岸修斗は反社会組織のフロント企業の社長である根岸三郎の長男で在り、甘やかされて育てられたため、我慢や勉強というもとは無縁だった。それでも親の見栄もあり、裏から手を回し偏差値の低い私立大学まで行かせた。小学校高学年から中学校に上がる頃にはいっぱしの悪になっており、暴行・強姦・窃盗などを金と村の掟・繋がりで揉み消し続けていた。その素質は、中学三年生の弟の根岸賢人にも立派に?引き継がれていた。賢人の遊び仲間に北悶中学の高岳風馬がいた。風馬は賢人との関係から大学生の賢人の兄・修斗とも関係を持っていた。


 河野新次郎は、思った。世間がこの事件を忘れさられ去られるまで、修斗の馬鹿な行動を活かす方法を考えた。桜子が失踪して一ヶ月程過ぎていた。週刊文冬などマスゴミは旭川中2女子イジメ事件として取材の手を伸ばし始めていた。政治の局面もスケジュールが明確になる中、桜子の存在が邪魔になり始めていた。そこで、河野新次郎は、桜子の遺体を世間に晒すことにした。遺体なき完全なる隠蔽も考えたが、この事件に関わった諸刃の刃の朝毎興業やそれに関連した有力者の秘密を握るのも悪くないと考えたからだ。


 2021年3月23日未明。河野は、桜子の冷凍された体を配下に支持し、人気のなくなった夕暮れを見計らって永山中央公園に放置した。万が一を考え、修斗の計画通り、遺体の2・3m離れた所に朴から譲り受け、ビニール袋に保管していたジュポンライターを指紋が付かないように取り出し、落とさせた。警察が追い込まれ、犯人を特定し、警察の面子を潰さないためのものだった。あとは、地域密着の村意識を巧みに操り、事件の経緯を仁支川紘一元旭川市長に伝え、都合よく導くだけだった。


 桜子の遺体が発見されたという北海道の警察上層部からの連絡を待った。連絡を受けた仁支川紘一元旭川市長は、亡くなった桜子へのお悔やみの言葉と如何にも将来を苦にしての自殺だと印象付けて、幕引きに動いた。

 警察は、倒れ込むように凍り付いた遺体の発見状況から行き倒れて寒空の下、亡くなった。不慮の事故死か自殺かの判断は、警察上層部の結論である自殺で片づけられた。スタンガンの痕を知られたくない仁支川紘一元旭川市長は、警察幹部に自殺だから死亡解剖は要らないだろうと、警察を労うようにして死亡原因の隠蔽を企てまんまと遺体は火葬へと回された。

 仁支川紘一元・旭川市長は、国政の進出の後ろ盾となる立心共同党の幹部に連絡を取り、ある事を依頼した。


 「お世話をお掛けしています」

 「どうされました?」

 「来たる選挙に支障きたす厄介な事がありましてね」

 「ああ、あの事件ですか?」

 「ええ、その事件の関係者が居ましてね、そいつが日本を出て缶酷に渡ったんですよ。それで、何とでも理由を付けて二度と日本に戻れないようにして頂きたい」

 「それは、厄介な事を」

 「簡単だろう。彼は缶酷籍だ。薬物とかテロ組織の人間とかでっち上げてくれれば入国禁止にできるだろう、反日国家籍だからね」

 「それでは党の方針に逆らうことに」

 「ああ、あれか。移民を受け入れ手懐け、党の支持者を増やすってやつか」

 「はい」

 「いいや、あれだ、そう、チューインガムだ」

 「チューインガム?ですか」

 「旨味がなくなれば捨てればいいってやつだ」

 「確かに捨て方次第では厄介なことになりますね」

 「分かってくれましたか」

 「はい」

 「で、そのゴミの名前は?」

 「元北海日道新聞の記者・朴浩二だ」

 「はぐれ新聞記者ですか?それは厄介だ。直ぐに手配しますのでご安心ください」

 「じゃ、頼んだよ」


 桜子を悲劇に導いた朴浩二は、仁支川紘一元・旭川市長と立心共同党の工作によって二度と日本の地を正規には踏めなくなった。


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