第14話 スモークファング

そろそろ限界だが。

俺は手の中にある小銭を数えながらそう思った。

旅立ちの時が来た、と言うよりかは、そろそろ金策をしなければならない。

俺はアルトリクスの方を向いて言う。


「アルトリクス、そろそろエネミーを狩りに行くぞ」


そう言うと、緑色のジュースを飲んでいたアルトリクスはコップから口を離して俺の方を向く。


「と、言う事は、プロフェッサー」


あぁ、と俺は頷いた。

新しいスキルの実戦の時だ。

ついでにレベル上げと金策をする、と言う感じだな。


「一応は外に出て五時間ほどのエネミー狩りを行う事にする」


それが終わったら、休息をする為に戻り、闇市商店でアイテムを売り捌き、売却した金で宿に泊まる。

取り合えずはそれを繰り返す方向で活動をする事を告げた。


「プロフェッサーがそう言うのであれば、私はそれに従います」


そう言われて俺は頷いた。

話は終わった、俺は即座に上着を着込んで宿屋から出ていく。

その後を付いて行くアルトリクス。街を歩いて、俺は後ろを向く門番を見て、何も言わず通り過ぎる。

多分、また街に入る時に、素材が必要になるだろうな。

そんな事を考えながら、俺たちは灰の砂地へと戻っていく。

数十分程歩いた末に、急に空が曇って来た。


「雨か?」


幸先が悪いな。

と言うか、この新世界でも雨が降るのか。

空は謎に明るくて、夜と言う概念は無かった。

そして空は妙に明るいが、それでも雲一つない空が無窮に広がっている状態。

旧世界の常識を全て壊したのだから、気象もまた違うのだと思っていた。


「少し薄暗いな……」


俺はそう言いながら引き返そうかと思った。


「プロフェッサー」


すると、アルトリクスが魔術書を構えながら俺の名を呼んだ。

その声に振り向くと、アルトリクスが遠方を見詰めている。


「エネミーが来ます。指示を」


そう言われて、俺も遠方の方を向く。

またペンギンか、と思ったが、違う。

そのエネミーは雲と共に再来したかの様に、皮膚は白く、体毛は白く、その双眸は眼窩の窪みで蔭が出来ている。

白い牙に白い耳、白い四本脚に白い爪が生えている。

それは、白い狼だった。


「新しいエネミーか」


此処に来て、別のエネミーが出て来るとは思わなかった。


「戦闘準備だ、アルトリクス……ペンギンを出せッ!」


そう告げると、アルトリクスが手を翳して声を荒げる。


「わが同胞よ、此処に集えッ!」


ずずず、と地面から音が響いて、彼女の周りからエネミーが出現する。

述べ十体程の『爆弾の皇帝人鳥』である。


「まだ攻撃するな、『記録の記憶』で情報を確認しろ」


そう言いながら、俺も能力鑑定を発動する。

そのエネミーのスキルが把握する為だ。

流石に、俺が相手の情報を看破出来るのは、スキルだけである。

それ以外の情報は、彼女の『記録の記憶』で見てもらう。


「スキルは……『白煙気化スモーキング』『狼の咆哮ウルフ・ハウリング』か」


白煙気化スモーキング

・一時的に気化するスキル。


狼の咆哮ウルフ・ハウリング

・声を衝撃波に変えるスキル。

・狼のみ限定。


二つのスキルの情報を看破すると同時、ウインドウからスキル解放のテロップが鳴った。

アルトリクスはこめかみに指を添えて情報を自らの脳裏に流し込んで、それを俺に伝える。


「プロフェッサー、あのエネミーの名前は『スモークファング』と言います」


既にスキルは俺が知っている事なので、それ以上の情報を口にさせる事は無かった。


「よし、相手は一時的に体を気化するらしいが、これは無視しても良い」


理由は、爆弾の皇帝人鳥が爆破すれば、固体だろうが液体だろうが、気体だろうが、纏めて吹き飛ばすからだ。

要注意すべきは、『狼の咆哮』と呼ばれるスキル。ペンギンに当たってしまえば、『自爆破壊』によって爆弾化したペンギンが暴発する恐れがある。


「まずは一匹だけを特攻させるんだ。相手が回避した場合はもう一匹を使用、相手に先に『狼の咆哮』を使わせる」


俺が命令を出して、彼女はそれを順守する様にペンギンに一体だけ命令をして特攻させる。

ペンギンが飛行して、此方へと走って来るスモークファングに向けて特攻を開始、すると、スモークファングはいきなり声を荒げてペンギンを攻撃してくる。

それによって、ペンギンが爆破するが、アルトリクスはそれを見越してか、次いで、ペンギンをもう一体特攻させる。スモークファングはもう一体迫って来るペンギンに対して、今度は『白煙気化』によって回避をしようとしていた。


「好都合だ、連射してペンギンを突っ込ませろ」


アルトリクスが半分のペンギンを残してスモークファングに向けてペンギンを飛ばす。

最初のペンギンが爆破して、スモークファングの肉体が四散した所で、隙を与えぬ様にペンギンたちが爆心地に追撃爆破を発生させた。


暫くして、黒煙が周囲に散る。

ウインドウが光ると、俺はステータス画面を確認する。

レベルが上がった、と言う情報を確認する。

このレベルが上がった、と言う情報が出た事は、それはつまりスモークファングを倒した事が示唆されていた。

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