第17話 組合とチンピラと資格試験



「と、いう訳で実力試験を受けてもらうよ」


「いやどういうわけ!?」



 応接室での会話の後、アリス支部長に連れられて瑠夏達が移動したのは、組合支部の地下に設けられた訓練場だった。

 訓練場は頑丈な石造りの床と壁に覆われており、壁際には訓練用であろう、木製から金属製からありとあらゆる武具が並べられている。



「いいかいルカお嬢ちゃん。まず探索者って連中には、ランクが存在するんだ」


「は、はぁ……」



 急展開に思わずツッコミを入れた瑠夏を華麗にスルーし、並び立つ瑠夏達の正面に立ったアリスは、女教師のように説明を始めた。

 瑠夏はそんな彼女に何となくダディと似た、ツッコミの通じない空気を察したのか、一先ずは話に耳を傾けることにしたようだ。



「下から新人探索者、初級探索者と上がっていって、中級、上級になっていく。さらに上には国家に功績が認められたヤツが居て、そいつらは特級探索者として国から依頼を受けたりもする。とまあ、要するにソイツの信用度と実力を分かりやすくするためのランク分けさね」


「けっこう、ザックリ分けてるんですね……?」



 瑠夏の頭の中には、ラノベ知識で得た〝冒険者ランク〟が思い描かれていた。そこではABCや金銀銅など、呼称はともかくもう少し細かく分けられていたため、疑問に思ったようだ。



「これでもだいぶ揉めたらしいけどね。何しろ字も読めない、特技も無いから仕事も無いってな鼻つまみ者まで一攫千金を夢見て殺到したもんだから、組合創設当初に力で捩じ伏せて納得させたらしいよ」


「なるほどな。田舎から出てきた農家の三男坊やらのそんな学の無い連中には、あんまり複雑でない方が良かったってことか」


「ダディ?」



 それまで大人しく――大半は寝ていただけだが――事の成り行きを見守っていたダディが、そんな説明会に口を挟む。

 瑠夏にはその表情がどこか楽しそうに笑っているように見え、嫌な予感に胸をざわつかせた。



「それで、要はアレだろ? 俺らに本当に上級探索者としてやっていける実力チカラがあるか。ソイツを見極めるために連れてきたんだろ、アリス嬢?」



 不敵な雰囲気でノソリと前に踏み出すダディ。そんなダディの雰囲気に当てられたのか、アリスも口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。



「……驚いたね。賢い従魔だとは思ってたけど、人語を解すのはともかくまさかそこまで見抜いてたとはねぇ」


「え、えっ、ちょ……?」


「それで? 俺はアンタと闘えばいいのか?」



 熱血バトル漫画のように視線に火花が乗り、バチバチと音を立てる様子を幻視する瑠夏。

 一触即発の重苦しい空気の中で、アリスは口角をさらに吊り上げて口を開いた。



「いいや。あんた達の相手は別に用意してある。入んなっ!」


「!?」



 アリスの張り上げた鋭い声に肩を震わせる瑠夏。その視線の先には、さらに地下に繋がっているらしい扉があった。

 その扉が錆びた金属の軋む音を立て、ゆっくりと開かれる。



「おうおう! 随分と可愛らしいお嬢ちゃん達じゃねぇかよォ……!」


「ゲヒヒヒ……! アリスのアネゴよォ、コイツらをヤッちまえば追放は無しって約束、忘れんなよォ?」


「アネゴもやっぱりオレらを捨てるのは惜しいんだろォ? こんな上等なオンナ共をわざわざ寄越してくれるんだからよォ!」



 その扉から現れたのは、世紀末を彷彿とさせる攻撃的な装備に身を包んだ巨漢達。肩当てには棘を生やし、筋骨隆々な肉体に鋲を打ったベルトを直接巻き付け、革製のジャケットやパンツがはち切れんばかりの筋肉を押し包んでいる。

 ヘルムや武器もやたらと攻撃的なデザインで、今にも『ヒャッハァーー!!』と叫び出しそうな男達が、五人。



「騒ぐんじゃないよッ! あんた達を庇ってやれるのは、今回が最後だからね!? ここで負けるようなら、そんな連中には金輪際組合は関与しないよ!」


「冗談キツいぜアネゴォ。こんなお嬢ちゃん達に、上級探索者のオレらがやられるワケねぇだろォ?」



 支部長といえば、その支部においての最高権力者である。そんなアリス支部長に対しても、馴れ馴れしく話し掛ける男達。


 そんな男達の様子を見て、瑠夏の胸中の嫌な予感はさらに加速していた。



「ね、ねぇ、ダディ? これって……」


「ああ。俺らの実力を見るついでに、ていよく厄介払いもさせる気みてぇだな。素行の悪さで組合を追放寸前のチンピラってとこか」


「だよねぇ!?」


「ぱんだぁ〜っ♪」



 嫌な予感が的中したことを悟り愕然とする瑠夏。そんな瑠夏の様子とは裏腹に、ダディは楽しげに身体を伸ばして戦いの準備をし始め、ルナはもっと楽しげにはしゃいでいた。ちなみにカレンディアは、後ろでオロオロと狼狽うろたえている。



「得物は好きな物を使って良し! 制限時間は無しで、降参か戦闘不能と判断されるまで! 故意に殺すのは無しだ! あんた達、準備はいいね!?」


「「「ヒャッハァーーーーーッッ!!」」」


「ようやく面白くなってきたな、瑠夏」


「面白くなーい!! ちょっとカレン!? カレンからも何か言ってやってよ!?」


「わわ、わたくし足を引っ張らないように精一杯頑張りましゅっ!!」


「噛んでるし!? ってそうじゃなくて!!!」



 地下の空気が熱を帯びる。


 チンピラ達はナイフを舐め、棘の付いた鉄球を振り回し、斧を肩に担ぎ、トゲトゲの手甲を打ち合わせ、大剣を石床に突き立てる。

 対するダディは咆哮を上げ四肢を踏ん張り、ルナははしゃいで踊りだし、カレンディアはラマーズ法で深呼吸し、瑠夏は混乱している。



「〝全ては自己責任〟! 〝己の居場所は己で掴め〟! それが探索者に共通のルールだ! あんた達、気張っておりな! 試験模擬戦闘、始めぇッ!!」



 アリス支部長の鋭い号令により、戦いの幕が上がったのだった――――




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る