第18話 羞恥と逆鱗と同士討ち
「言うだけあってなかなかやるじゃねぇかコイツら! 瑠夏! 出し惜しみすんなよ!」
「イヤっ! 絶っっ対
「ヒャッハァーッ!! 逃がさねぇぜお嬢ちゃんよォ!!」
探索者組合の地下訓練場。
片や探索者の資格を得るために。片や資格剝奪からの追放を防ぐために。
この地を治めるアルチェマイド侯爵の推薦により、上級探索者の資格を得るための試験に臨んだ瑠夏達一行は、素行が悪く追放の憂き目に立っている探索者五人組と相対し、激闘を繰り広げていた。
「ルカお姉様!? おのれ探索者風情がッ! よくもわたくしのお姉様に狼藉を……ッ!!」
「ッ!? コイツ魔法使いか!? だがそんなモン撃たせる前に潰しゃあ関係ねェ!!」
「きゃああああッ!?」
「カレン!?」
「カレン嬢ちゃん!!」
チンピラの一人が振り回す鎖鉄球がカレンの足元を
「マズイ……! 瑠夏!!」
「うん!!」
ユニークスキルである【
地面を擦りかねないほどの低い前傾姿勢で床を蹴り、それまで執拗に自身を追い回していたチンピラ達の間をすり抜け、その身体を疾駆させた。
「お姉さ――――わぷっ!?」
「カレン! 大丈夫だった!?」
チンピラが鉄球を振り下ろす寸前、横から掠め取るようにしてカレンディアの身体を抱きしめ、その場から飛び退いた瑠夏。
つい先程までカレンディアが尻餅を突いていた場所には、禍々しい棘を生やした鋼鉄製の鉄球が半ばまで埋まっていた。
「ッ……! 女の子にそんな物をぶつけようとするなんて……! 許せない……!!」
「ああ〜ん?? だったらどうするってェんだァ?」
「主人公にワンパンでやられそうなチンピラのくせに!!
仲良くなったカレンディアを危険に晒したこと。そして容赦なく彼女を攻撃したチンピラ。双方に憤りを爆発させた瑠夏は、彼女達の保護者の決めゼリフを吼えた。そして――――
「ルナぁ!!」
「ぱんだぁ〜〜っ♪♪」
怒りのままに、衝動のままに。ユニークスキル【霊体化】を行使して、ちゃっかり自身の安全は確保していた守護霊獣の名を鋭く呼ぶ。
「【
「ぱ~んだぁ~っ!!」
気合いの込もったルナの鳴き声が響くと同時、その身体が輝きを放ち始めた。【霊体化】したまま瑠夏の元へと駆け付け、そのまま彼女と一つになる。
守護霊獣の力を自身に宿す瑠夏の切り札が発動し、某美少女戦士や某魔法少女のように絶妙に発光しながら、その身を変貌させた――――
「お、おねえさま……!?」
「なんだァその姿はァ!?」
そう、パンダ耳にパンダグローブとパンダブーツ。そしてパンダカラーのビキニスーツの……リングコスチュームへと。
(恥ずかしがってる場合じゃない……! ダディだけじゃあたしもカレンもどっちも守れないなら、あたしが守るもんっ!!)
本能的に局部や胸を覆い隠したくなるのを理性で耐え、顔を赤面させた瑠夏がチンピラ(鉄球)を睨み付ける。
「お、お姉様ッ、またそのような格好を……!? は、はははハレンチですわぁッ!?」
「いや、しょーがないじゃんッ!? 文句なら女神様に言ってよぉッ!!」
しかしそんな瑠夏の健気な覚悟を、まさかの
そして、もう一方からも。
「ぐぇっへへへ! なんだァお嬢ちゃんよォ!? そんな下着みてぇな格好になって、そんなにオレっちに可愛がってもらいたかったのかよォ!?」
「なっ……!?」
「イイぜイイぜェ……! この試合が終わったら後ろの嬢ちゃんと一緒にたぁっぷり気持ち良くしてやんよォ!!」
(コイツ……っ! 心底気持ち悪いっ!!)
突然目の前に晒されたうら若き乙女の柔肌に、粗暴かつ厳しいチンピラの食指が動かない訳がなく。
「お金貰ったってあんたなんかお断りよ! 【
そして【
(アイツの
瑠夏の脳裏にダディが戦う姿と、兄と観たプロレスの映像が蘇る。
(あたしにはダディのような体格もパワーも無い。でも……【
瑠夏が思い浮かべたのは、パワーではなくスピードやテクニックを活かして闘うレスラー達の姿。闘う彼らの雄姿を、技を、胸躍る空中殺法の数々を思い出す。
「オッパイもケツもしゃぶり尽くしてやんよォ!!」
「パンダぁああああああッッ!!」
チンピラの欲望塗れの叫びと瑠夏の気合いが重なり、同時に二人が動き出す。
チンピラは鎖鉄球を振り回し遠心力で威力を増して、叩きつけんと鎖を持つ手を振り下ろした。しかし瑠夏はそれよりも早く、鉄球の打点を駆け抜けていた。
瑠夏のすぐ背後で鉄球が床を抉る破壊音が響く。それを意識の片隅で聞きながら、瑠夏はさらに加速し間合いを詰める。
そしてチンピラの目前で飛び上がり、その大腿部で正面から首を挟み込んだ。当然チンピラの目の前には、ビキニパンツしか身に着けていない瑠夏の股間部分があった訳だが――――
「うほっ♡」
「『うほっ♡』じゃないのよこのヘンタイがァーーーーーッッ!!!」
羞恥と怒りとをない交ぜに身体を後方に振り、振り子のように回転させながら挟み込んだ首を足で
勢いよく頭部を振られ、かつ瑠夏の足に引っこ抜かれるようにして、チンピラは宙を舞う。高速で振り回された勢いで身体を宙返りさせ、後頭部から硬い石の床へと叩き付けられた。
――――フランケンシュタイナー。【
大のプロレスラーですら当たり所が悪ければ昏倒しかねないその技を、マット上でなくリング外で、しかも石床の上で披露したのだ。その威力は凶悪至極であった。
受け身の心得も無くプロレスの知識すら無いチンピラは、一瞬の内に後頭部を襲った衝撃に、何が起こったか理解すらできぬままに意識を失っていた。
「はぁ、はぁ……! うぅ……っ、仕方ないとはいえ太ももで男の頭を挟むなんて……!」
「お姉様……っ!? い、今のふしだらな技は……いったい……!?」
「ふしだらって言わないでよぉおおおおおお!! しょーがないじゃんかそういう技なんだからぁあああああああッ!!」
「って、ツッコんでる場合じゃなかった! ダディは――――」
「ぱんだぁあああああああ!! 喰らえ必殺! パンダーライトボムホールドぉッッ!!」
「ひでぶぅぅううううッ!!??」
あまりの羞恥と、カレンディアを守れたため力が抜けかけていた瑠夏であったが、まだ彼女達の保護者が戦っていたことを思い出し、慌てて振り返る――――が、そこにはダディに正面から抱きすくめられ、そのままブリッジにより後頭部から石床に突き刺さったチンピラの姿。フィニッシュホールドはノーザンライトボムからの固め技であった。
「来世はパンダにでも生まれ変わって、真っ当に生きるんだな!!」
「いや殺しちゃダメなんだよダディぃいいいいいいッ!!??」
「おお瑠夏。そっちも終わったみたいだな。安心しろ、峰打ちだからな」
「地面に突き刺しといてどこが峰打ちなのよッ!? ちゃんと生きてるんでしょうねぇええええ!?」
訓練場に瑠夏の
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