第57話 ベリオの聴取

 気まずい・・・・


 そこそこ広い和室。

 大きめの長方形の机に座布団が4枚。

 なぜか、長い辺に3枚のと、1枚が向かい合う。

 3枚の方は、奥からマリーブ、リーゴ、私。

 向かい合う席にはベリオ。

 以上。



 放課後、中川さんちのお迎えで、中川さんと私は学校で、その後、ベティ先生ことリーゴの部屋で何故かもう到着していたマリーブもピックアップ。

 4人で運ばれた私たちだけど、すでに梅子ばあちゃんと談笑していたタツがいた。


 中川さんに私たち3人が案内されたこの部屋にすでにベリオがいて、

 「まずはお仲間水入らずで、シッシッシッ・・・」

 と放置されたのよねぇ。


 座布団は、2枚2枚で向かい合わせに置かれてあったけど、リーゴが黙って、ベリオの横の座布団を持ってきて、片方を3枚にしちゃった。

で、デーンと、その中央にそのまま座ったから、私とマリーブはその両隣に座ったってわけ。


 そのまま、数分。


 無言の時間が流れた。


 「ウンキョーン国」

 ふいに、リーゴが言う。

 何?

 私は、疑問に思って、隣の顔を見た。

 リーゴは、難しい顔をベリオに向けたまま。

 「そうよね?」

 重ねて、リーゴが言う。

 「えっと、ウンキョ・・・何?」

 思わず聞いちゃった。

 聞いたことのない国、だよね?


 「ウンキョーン国。2年前に独立宣言した超新興国家。」

 マリーブが言う。

 えっと・・・・

 「ベリオが持っていたパスポートの発行国よ。」

 「革命勢力が某大国の後ろ盾を得て宣言したけど、いまだその元の国は独立を認めていない。今、もっとも荒れている地域の一つ。」

 と、マリーブが補足してくれた。


 さすがに二人とも世界情勢に詳しいらしい。

 私はちんぷんかんぷんだけどね。

 私がおバカってわけじゃなくて、そんなニュース、たぶんこの国ではやってないと思うんだ。


 「で、あんたはそれ、パスポートをどうやって手に入れたの?」

 「船に乗るときに渡された。」

 「なるほど。で?」

 「・・・で?とは?」

 「なんで、ウンキョーン国なのよ。」

 「そうは言っても・・・」

 リーゴとベリオの会話はどうもかみ合ってない気がするのは私だけ?


 「ウンキョーン国にいた。それは間違いない。どの船か分かる?」

 マリーブが言った。

 そっか。

 発行国にいたのは間違いない?


 「少なくともあの国から日本に来た船はないはずよ。調べたもの。」

 「そもそも、あの国に大きな港はない。山がほとんど。」

 そうなんだ。

 「どうやってここに来たの?」

 「放浪しているとき、ある町で荷運びの人足をしたんだ。その様子を見たらしい、ある男に声をかけられた。船に荷を積み、それを守るという仕事のようだった。とにかく世界を巡り、シオンか王女を見つけようと、言われるまま一緒に船に乗った。その時にそのパスポートというものを渡された。一度大きい船に乗り換えて、魚を捕りながらこの国に入った。」


 「はんこがない。」

 ベリオが、ポツリポツリ話している間、マリーブがパスポートをパラパラしていたけど、急にそんなことを言った。

 マリーブはリーゴにパスポートをぺらぺらとして見せる。

 私も横からみたけど、入出国のはんこは確かにないね。たまに押さないときがあって、あの基準はなんなのか知らないけど、まったくゼロってのも、なんか違う気がする。


 「これは預かるわ。こっちで調べてみる。それにしても、よく都合よく船に乗れたわね。」

 「どうも特別な魔物らしき遺体を運ぶ仕事のようだった。この世界の人間よりも強靱な肉体に目がとまったんだろう。」


 それにしても、魔物?

 でかかったから、そう思ったのかな?

 この世界、魔物なんていない、よね?


 「まぁいいわ。で、その親切な?男はどうしたの?」

 「港に入ったときに船が襲われてな、全員バラバラに逃げたんだ。」

 ・・・・・


  それって、ダメな奴じゃ?・・・・


 私たち3人は互いの顔を見合わせて、大きくため息をついた。


 また、しばらく沈黙が落ちる。

 耐えきれなくなって、私が声を出した。

 「ね、魔物って・・・地球にいるの?」

 「あー、それね。だいたいベリオ。あんたなんでそれが魔物だって思ったのよ。」

 「瘴気が溢れていた。何重にも布が巻かれていたが、にじみ出た瘴気で、地面の草が枯れていた。」

 「なるほど。まずシオン。あなただってこの世界の魔物、知ってるでしょ?あれ、とか。」

 アハハ。指さしているのは、ここから姿は見れないけど、タツ、だよね。

 彼は魔物じゃなくて龍。神様みたいだけど・・・・


 「神だ悪魔だって言ってるけど、ようは魔物と同類よ。ちなみにマリーブは、悪魔相手の魔術師やってるのよね?」

 「私は、バチカンのエクソシストだし、そうなる。」

 「シオンだって、この世界にいろんな化け物の伝説あるのは知ってるでしょ?実在するのもあるわよ。」

 だよねー。

 実際、地震ナマズとか土蜘蛛、河童とか会ったし。あ、ひょっとして議事堂地下の巫女様も同様?

 「彼の言ってるのも、その類いでしょ。それはまぁいいわ。」

 え?いいの?少なくともそれ、この国に入ってきてるんだよね。やな予感。


 「とにかく!あのストーカー魔王を探すわよ。シオンはどうする?」

 「え?どうって?」

 「あの元姫君があんたを追ってこの世界まで来てるの。たぶんベリオが初めて到着したこの世界の山ってのの近くに、あのアバズレはいるはずよ。魔王の力を使い切った今、倒すチャンスに違いないわ。」

 「私は、ベリオを連れて、元来た山とやらを探す。」

 マリーブが、言った。

 「それは私もそのつもり。あんたはどうする、シオン?」

 「もちろん、俺だって・・・」


 「はいはい。詩音ちゃんはダメですよ。まだ学生じゃないの。」

 急に障子が開いて、梅子ばあちゃんがそう言いながら入ってきた。

 私たちだけ、って結局聞いてるんじゃない。ってあれ?私たちアレクシオンの言葉で話してたつもりだけど・・・

 「ウフフ。内緒話って不思議と分かるのよねぇ。ところで、アメリカさんとヴァチカンさん。あなたがたの入国は、まぁ、特殊ルートとして認められるとしましょ。けど、彼はどうかしら?」

 「まぁ、それは・・・」

 「偽造パスポート。しかも密入国。あきまへんなぁ。ウフフ。」

 「・・・」

 「まぁ、そんな顔しなくても。ねぇ。このおばあちゃんが良い案あるんやけど、聞く?」

 「・・・なんでしょう。」

 「彼ね、私の息子にしたいわぁ。」

 「はぁ?」

 「ベリオちゃん、私の息子にします。そうして戸籍も正規の物を与えまひょ。あんたらと同じえ。オホホ。」

 「それは。・・・しかし・・・」

 「それにな。異世界人の能力者。アメリカとヴァチカンだけに集めるわけにはいかへんで。国力のバランス、ちゅうもんがあります。」

 「でも、それは!日本にはシオンが!」

 「いややわぁ。シオンやのおて詩音ちゃんです。前世はともかく、この子はちゃんとこの世界に生まれたこの世界の子。異世界人やおまへん。」

 「そんなの詭弁・・・」

 「詩音ちゃん。あなたは今の家族は異世界の家族もどき、なんて思ってはるん?」

 「そんなこと!大切な自分の家族です。異世界とか関係なくて・・」

 「そうでっしゃろ。当たり前や。この子は地球の子です。当然地球人でしっかり守るつもりやよ。まぁ、別に余所の世界の人やからって、この子を守ったらあかんなんて言わしませんけどな。」


 ・・・・


 いろんな意味で、やっぱり怖い人だったよ、梅子ばあちゃんって・・・

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