第56話 迷子の外国人、預かってます

 翌日。


 相変わらず雨が降る。

 ひょっとして、タツのせいじゃないかな、なんて、思って、なんとなく彼を見る。


 学校での昼休み。なぜか私たちの教室に来て、一緒にご飯を食べている。

 近くの机を合わせて、一緒に食べているのは、4人。私とタツ、中川さん、そしてピーチ君。

 最近は、こういうメンバーの時も多い。

 しょっちゅうタツがやってきて、タツが来た時はピーチ君か立花君が、なぜか同席しなきゃだめって騒いでる。


 中川さんは毎日一緒。おうち訪問からは、学校じゃ常に一緒にいる気がする。ニコニコ、ううん、いつもニヤニヤしてる。本当に残念美人さん。

 双子や立花君は、昼練があるときも多いからって、一緒じゃないときが多いから、この4人で食べることが一番多い、かな?

 でもこの4人ではしゃべる人が少ない。だから割と静かに食べている。違うな。タツが一人でしゃべってる感じ、かな。


 「言っとくけど儂のせいちゃうで。」

 「え?何?」

 「今、詩音はこの雨、儂のせいちゃうか、思ったやろ?ちゃうからな。」

 いや、本当にタツのせいだと思ったわけじゃないよ?龍神ってそういうの司るイメージだから、ね。とは、口に出しては言えないけど。だって、ピーチ君いるし。

 だから、私は無言で頷いて、首を傾げた。

 「なんやんな、その反応は。ほんま、学校やったら無口やのう。あ、そうや。無口言うたら、あのおっさん、その姉ちゃんちに世話になることになったんやったわ。」

 お行儀悪く、箸で中川さんを指しながら、そんなことを言う。

 ・・・って、え?

 私は、目を丸くして驚いてしまった。

 今、おっさんって言った?

 あのおっさん、って私たちの間で言うなら、間違いなくベリオ、だよね。

 どういうこと?


 私は、自分でもギギギッて音がしてるんじゃないかってぐらい、マネキンちっくな動きで首を回して中川さんに顔を向けた。

 中川さんは相変わらずニヤニヤと私を見ながら、お弁当を口に運んでいるけど、私と目が合うと、大きく頷いてさらに笑顔を深めた。


 いやいや、どういうことよ!


 キッ、と睨む形になったと思う。私は思わずタツを見る。


 「そんな怖い顔すんなや。かわいい顔がだいなしやで。」

 「どういうこと?」

 「どうもこうも、あの雨の中さすがにテントはないやろって小百合がうるそうてな。今までもなんとかしようとしてたんやけど、詩音絡みやってあいつも知ってるからお前さん連れてきて説得してもらえ、って言われて、昨日来てもらったんや。せやけど、ああなってもたから、どうしよ、って思ったんやどな。さすがに梅子や。詩音帰ったのと入れ違いに電話よこしてな、すぐに車だして迎えに来させたんや。」

 そんな風にタツが言うのを聞いて中川さんを見ると、うんうんと、頷いてる。


 うわぁ、マジか・・・


 「えっと、何の話ですか?」

 頭を抱える私の様子におろおろしながらピーチ君が聞いてきた。

 あ、この子がいたんだ。詳しくは話せない、な。

 「フフフ。私たち、迷子の外国人の方を先日保護したんですよ。はじめは日向君の下宿先で預かろうってなったんですが、どうも居心地が悪いようで、うちに来てもらったってことです。おばあちゃんに相談したら連れてきなさいって、いうことで、昨夜からうちに滞在されていますねぇ。シシシ・・・」

 「あ、えっと、中川さんのおうちなら、一人ぐらい大丈夫でしょうね。でもどうして僕にも教えてくれなかったんですか。きょ、協力したのに。」

 「なんやあんさんも混ざりたかったんかいな。そやけど残念やな。もう中川はんのところで世話になってるさかい、出番はないわ。ま、そういうことで、詩音、今日は帰りに中川家に行くで。」

 「・・・ん。」


 頷くしかないよね。

 中川さんの家は霊能者のおうちで梅子ばあちゃんは、そのトップだ。

 で、この国の本当のトップ、とも繋がりがあるようで、そこが保護、っていうか確保しちゃったんなら、下手な手出しはできない、ってこと、か・・・・


 「ちょっと待ってください、僕も!」

 仕方なく私が頷いたら、ピーチ君が珍しく大きな声をあげて、ビックリした。

 教室にいてたみんなも、ビックリしてるよ。我らが学級委員長は、昔っから大人しいから、大声なんて上げてんのほとんど見たことないもん。


 「あぁ。あんさんは無理や。」

 「なんでですか!」

 「詩音やあるまいし、中川はんの家がどんなところか、知らんわけやないやろ?」

 はぁ?私じゃないしってどういうこと?そりゃまぁ、中川さんちに行くまで全然梅子ばあちゃんのこと知らなかったけど・・・・

 後で聞いたら、地元では有名な人だってみんな知っててビックリしたんだよね。


 タツの言い分に、ピーチ君はウッって詰まったけど、でもなんとかして一緒に行きたい、って思ってるのは、さすがの私でも分かる。


 「シシシ。委員長はダメ。あの人外国人。知らない国で迷子になって不安いっぱい。人に会うの、怯えてる。だからあきらめて、ね。」

 そんな理由で、しかもおうちの人に断られちゃ、さすがにピーチ君もそれ以上は言わなかった。

 でも、チラチラと心配そうに私を見ているのは、なんか申し訳ないね。きっと私が嫌な顔しちゃったからだろうから。

 それにしても、中川さん、相変わらずポンポンと嘘の言い訳が上手で驚きます。

 こういうのサーミヤも上手かったな、なんて・・・なんてこと思い出してるんだ、俺は・・・


 「詩音ちゃん、雨が気になった?シシシ。大丈夫。車で迎えに来る、よ?」

 「それやったら先生らもピックアップできるか?」

 「そのつもり、シシシ。」

 「てことや、詩音。そっちの案内はよろしゅうな。」

 リーゴのことだろうけど、「ら」?

 ひょっとしてマリーブ、本当に昨日の今日で日本に来れると思ってる?

 ま、いいか。リーゴが知ってるだろうし・・・


 それにしても・・・・

 はぁ。

 中川梅子が動いたってこと?

 なんか嫌な予感がするわ・・・

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