第55話 再会

 私は、二人と繋がっているSNSを開き、

 『今、ベリオとタツと一緒にいます。』

 と書いたら、

 『今すぐ行く。どこ?』

 『リーゴの部屋へ、集合!』

 って、速攻のレス。

 もうビックリの速度だよ。

 ちなみに上がリーゴ。下がマリーブ。


 「いやぁ、異世界人恐るべし。使いこなしてるなぁ。」

 タツがのんきにそんなことを言いながら、スマホをのぞき込んでる。

 「行く、って言われてもねぇ。」

 それになんて答えようか、と、ちょっとため息をつきながら、画面をじっと眺めてしまった。

 さすがに余所様の家に来られても困るし、だからってうちに来られても、ねぇ。

 そんな私の様子に、タツが手を差し出して、

 「それ貸して。」

 と言った。


 私は、ちょっと悩んだものの、スマホをタツに渡す。

 「これ、この画面から電話できるやろ?話した方がはやいで。」

 確かに通話機能もある。

 私が答えるまでもなく、タツは通話ボタンを押した。

 って、神様が、文明の利器を使うの?なんか違和感あるね。


 「あ、もしもし、ベティ先生?と、シオンの友達、やんな?儂、シオンのマブダチでこの世界の神さんやってるもんで、タツ言います。」

 『ああ、日向君ね。あの子あなたのところにいるの?まぁ安心、かな。』

 『安心、なの?』

 『うん彼は大丈夫。シオンも私たちのこと話てるみたいよ。で、日向君。そこにシオンと・・・あいつがいるの?』

 『ああ、儂がここで会わせてん。勝手してすまんけど、悪いばかりやないと思うねん。こっち来るか?』

 『青龍寺、だったっけ?行くわ。二人を逃がさないでね。』

 『あー、私は明日になる。』

 『明日、って、あんた今ローマよね?』

 『大丈夫。なんとかする。』

 『私が・・・』

 『私が行くの!』

 『もう分かったわよ。それまで抜け駆けはしません。これでいい?』

 『うん。』

 ・・・・

 (マリーブが退室しました)

 ・・・・


 「ハハッ。なんつーか、すごい行動的、やのう。」

 「昔っから優先順位は自分で決めるやつだったからなぁ。」

 呆れて、タツと顔を見合わせたけど、画面を見ると、とっくにリーゴも退室していたようで・・・


 10分後。


 ずぶ濡れのリーゴを乾かす俺、シオンがいた。




 気まずい。


 私とタツは、二人の様子を少し離れて見つめる。

 少し離れて、って言っても同じ空間。

 ソファはたくさんの人が休憩できるようにかなり大きなものだから、その長いソファの片隅に私とタツが身を寄せ、反対側の端に足を組み、腕を組んでふんぞり返るリーゴがいる。

 で、その前に、大きな身体を縮めて、頭を垂れているおっさん。

 今は老けてしまったベリオだから、どう見ても親子ほど差の男女が、かたやふんぞり返り、かたやうなだれていて、なんともシュールな光景だ。


 そのまま、誰も口を開くことなく、いったいどれくらいの時間が経ったのだろう。


 スマホの着信音が、そのとき、鳴った。

 私のだ。

 救いの神、なんて気がして、思わずタップする。


 「もしもし・・・」

 『あ、詩音?今どこ?ご飯、どうする?』

 あ、お姉ちゃんだ。

 今日は遅くなるつもりなかったから、心配させた、かな?

 気がつくと、7時を回っていて、うちの夕食の時間だった。

 

 「いいわ。ここは私に任せてあんなは帰りなさい。」

 私のためらいを見て、リーゴが言う。当然、お姉ちゃんの声は聞こえているんだろう。

 でも・・・・


 「安心して。ベリオを今すぐどうこうする気はないわ。第一マリーブがいない間に先に情報収集なんてやったら、あの子切れて日本なくなっちゃうかもよ。フフフ。」

 いや。

 わりとマジに洒落にならないんですけど。

 「あー、じゃあ、詩音は帰りぃ。んでもって、ベティ先生も今日の所は帰ってもらえんか?おっさんは儂で預かるさかい、そのマリーブはんか?その人が来たら最集合っちゅうことで。ここは、儂の顔立てる思って、頼むわ。」

 タツが、本当に拝みながら、そんな風に言う。

 て、神様がそんな簡単に人を拝んで良いのかな?

 まぁ、私的にはそれならありがたいんだけど。


 私がリーゴに目を向けると、何か一瞬考えていたみたいだけど、フーって深いため息をついて、ベリオを見た。

 「良いわ。ただし条件がある。絶対逃げないこと。いい?マリーブが来てあんたがいなかったら、本当にこの辺り吹っ飛ぶわよ。そうしたらシオンにも私たちにも迷惑がかかる。」

 「ああ。分かってる。今更逃げはしない。」

 「・・・って言うあんたを私は信用しない。あれだけの裏切りをやってくれたんだもの。しかも、色々言ってはいるけど、結局、主のことも裏切ったってことよね。そんなあんたを信用できるはずがない。てことで・・・・コレ付けさせて貰うわ。」


 マリーブは口の中でセンテンスを唱える。

 無詠唱ができるけど、敢えて口にするのは、何をやっているか、ベリオに分からせるためだろう。それに、魔素の問題もあるのかも。


 リーゴはバフ術士だ。

 人の能力を上げたり下げたりするのが専門の魔法使い、と思ったらいい。

 で、その能力の中には、人に付与するだけじゃなくて、モノに付与するものもある。この世界ではエンチャント、なんて言うのかな?

 で、今唱えているのは、その合作みたいなやつだ。

 唱えることによって魔法陣を作り、様々なモノにくっつける。その種類は様々で、今唱えているのは、確か、追跡の魔法、だ。しかも、その中でも特殊、っていうか、必要以上に強力なやつ。

 で、付与するのは、ハハハ、そこまでする?

 リーゴは、ベリオのシャツをめくり上げ、背中に直に付与しやがった!


 「おい、リーゴ!」

 俺は焦って、リーゴに詰め寄ろうとした。

 身体に直接するのは、その人間を自分の駒にする行為。

 隷属だったり、そんなことに使う場合がほとんどだ。

 本人の能力を縛る、ある意味禁忌の行いだ。


 「いいんだ、シオン。俺が罪人なのは間違いない。」

 痛がるそぶりも見せず、ベリオは言った。

 肉体に付与する魔法は、タトゥなんて目じゃないぐらいの痛みをもたらすって聞く。麻酔もなしに無茶苦茶だ。

 だが、ベリオは汗一つかかずに、されるがまま・・・・


 「罪人かどうか、なんて私には関係ない。ただ、あんたは信用ならない。だからマーキングさせてもらったわ。身体に付与したから、どこに逃げたって、私の目からは逃れられない。大人しく日向君の世話になってな。」


 こわっ、ていうタツのつぶやきを背に、私はリーゴに手を引かれて、寺を出た。

 リーゴは無言で、私の手をひいていく。

 その背中が、なぜか、泣いているように見えた。

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