第54話 ベリオの転移後の話

 「で、ここのお姉さんに拾われたって?」


 応接のソファに座って、あらためて出されたお茶に口をつけたあと、私はベリオに聞いた。

 「なんでそんなことになってるの?」


 聞き取ったことによると、やはり私を守ろうとしたものの、どうやら居場所の確保がまったくできなかったらしい。

 そもそもが、言葉の問題。


 私は、どうやら前世の言葉も覚えているし、普通に使えているよう。

 だから、ベリオが前世=アレクシオンの言葉で話している、ってことにも最初は気付いていなかった。

 普通に会話しているつもりで、あっちの言葉だった、って、話ながら気付いたけど、シオンとベリオならそれも不自然って思わなかったんだよね。


 タツの場合は、念話が使えるって事で、心を読むみたいな形で、ベリオの言いたいことが分かるし、会話が成立したらしい。こちらからも念話に乗っけて話してた、っていうから、器用だな。

 なんでも、動物や植物とも会話できる神様クオリティ、らしい。


 ただ、そんな特殊な存在であるタツは別として、言葉を覚えてないし、その機会もなかったベリオは、持ち前の能力で、狩りをしつつ食いつないだ、という。

 もともと騎士の鎧を着ていたベリオ。

 人里を見つけた時に、捕まったってことみたい。

 そりゃ、鎧着た人間がふらって現れたら、普通驚くよね。

 まぁ、映画の撮影とか、コスプレイヤーとか、そんな風に思ってくれたかもしれないけど、とにかく言葉が通じないんじゃ、牢屋に繋がれても不思議じゃない。

 ベリオの話だけじゃよくわかんないけど、とりあえず捕まり、鎧とか武器とかは脱がされ、そして服と食べ物があてがわれたらしい。


 異世界だろうというのは知っていたから、現地人に危害を加えないようにと、力は振るわず、されるがままになってたようで、その点ではよかったなって思う。下手したら殺人とか、犯罪者になっちゃってたかもしれないからね。


 隙を見て、鎧とかの持ち物は取り返し、服は貰ったまま、逃亡生活っていうか、下山を試みた、らしい。

 下山って?


 「魔王サーミヤは、異世界の、できるだけ高い場所に出口を作る、というようなことを言っていた。高い場所だと、世界が見渡せる、そう言っていたと思う。」

 で、高い山にポートを作った、と。

 じゃあ、サーミヤはどこかの山にいる?


 「魔王にふさわしい、氷に覆われた、クレバスだらけの山だった。人の気配は、ほとんどなかったが、何度か旗を持った人々が登ってきては、すぐに戻っていく姿を遠目に見た。」

 ・・・

 世界一高い山って、チョモランマ、だっけ?

 まぁ、ひょっとしたら、別の山かも知れないけど、標高がものすごく高くて、氷に包まれていて、人がアタックするような山、ってことでしょ?


 とにかく、ベリオはどこぞの高山に到着し、なんとか下山した、らしい。


 そのあとは、捕まったり保護されたり、とにかくあちこちと、旅をしたよう。


 お金がなかったから、できるだけ自然が多いところを旅して自然の動物や植物で飢えをしのいでいたり、時に保護された場所でちょっとしたお金を融通されたり、家に泊めて貰ったり。

 話を聞いてると、バックパッカーに思われて車に拾われたりしたみたい。

 とにかく一所に留まらず、魔王か俺を見つけよう、と一人、旅を続けていたようで・・・


 日本に来たのは偶然らしい。


 たまたま知り合った人が、船で雑用をする仕事に就いていたようで、言葉も通じないのになんとなく気が合って、身振り手振りでコミュニケーションしつつ、船に乗ることが出来たらしい。

 パスポートは?

 そう聞いたら、それらしいものを渡されたようで・・・


 「それって、犯罪組織ちゃうんか?」

 タツの言葉には、私も頷いてしまうよ。


 そのパスポートだけど、ベリオってば、今も持ってました。

 聞いたことのない国。って私が知らないだけだろうけどね。

 そんな、どこかの国のパスポート。

 ちゃんと写真も貼っていて、ベリオ・バンティって読めるスペルの名前も書いてあるよ。サインは、・・・なんだろ、この魔術文字みたいなの?

 でもまあ、これで入管通っちゃったんだ。ってことは正規の?それとも・・・・

 ま、そこは考えたってしょうがないけど、拙いかも知れないなら、誰かに相談すべき?

 一瞬、国会議事堂、とか思い浮かべちゃったけど、でも、ねぇ。


 「ベティ先生に言わんでええんか?」


 私が頭を悩ませていたら、タツがそんなことを言ったよ。


 あー、確かに。

 けど、ベリオのこと、怒ってたしなぁ。


 「シオン。重要なことを黙ってたら、彼女たちは怖いぞ。俺が言うのもなんだが、彼女たちになら、処刑されても、俺は文句は言わん。」

 いやいや。処刑とかって、彼女たちなら洒落になんないよね?

 マジでっちゃいそう。


 「ベティ先生がそんな怖い人には見えんけどなぁ。せやけど、このおっさん、情報持っとんのやろ?少なくともそのストーカー女の動向には一番詳しいはずや。言うても、あんたら死んでから、5年も一緒におったんやろ?そこんとこを武器に、なんちゅうか、ええ具合にまとめられへんか?」

 「そんなこと言うなら、タツが話してよ。」

 「いやいやいやいや。そんなん部外者の儂が出てどないすんねん。詩音はん、きばりやぁ。」


 はぁ。


 どっちにしても、二人には相談しなきゃなんないか。

 ああ、気が重いなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る