第50話 続・女子会

 「「シオン!!」」

 って叫びながら、二人がテーブルを無視して、座ったまま抱きついてきて、ガチャン!って、ケーキも紅茶も床に落下。・・・とはならなかった。

 相変わらず器用なことで、どうやら、すべての皿もコップも、当然その中身も、マリーブが受け止めたらしい。

 が、生憎と俺のことまではフォローしてくれず、というか、わざとか?わざと俺の椅子を転かし、二人分の体重を受けて、受け身が取れない俺を放置したのか?

 ったく、やりそうなことだよな。

 二人の重みと、思いっきり打った頭の痛みで涙目になりながらも、俺はこっそりとため息をつく。


 「もう、失礼ね。こんな美人が二人も抱きついたら、男として感謝すべきでしょう!」

 「私たちが重いんじゃない。あんたがちいこいのだ!」

 「いや、ちょっと待ってくれ。だいたい俺は今は女だ!それに、今小さいのは年のせいで、マリーブの年になったら、ぜったい追い抜くからな。」

 「「はぁ?」」

 俺の言い訳?に、二人仲良くドスのきいた声を出す。

 「いや、その・・・驚いた、かな?」

 戦略的撤退、は、話を逸らすことで・・・上手くはいかなかったようだけど、まぁ、俺からどいて、乱暴に手を引っ張って起こしてくれるぐらいには、機嫌が良いようだ。



 「で、どういうことかしら?」

 改めて、テーブルに着き、ステータスを詩音に戻した俺に、ちょっぴり眉を上げたリーゴが問うた。

 「10歳の時に記憶が戻った。で、そのときにステータスが発現した。で、詩音とシオンのステータスが切り替えられることが分かった。・・・って、見てたんじゃないのか?」

 「見てたけど、そんなの分かんないわよ。」

 「いつも詩音はボーッとしてた。」

 なんか失礼なこと、言われてるけど・・・

 「ちなみに、神の世界から覗いていたけど、声は聞こえない。当然、魔力も見えない。」

 「それに10歳なら、私たちが転移した時じゃない?」

 そういえばそんなこと言ってたっけ?

 二人がこっちに転移してくる代償に俺の記憶とステータスを戻した、みたいなこと言ってたよな?


 「それにしても・・・ねぇ。」

 「神、許さじ。」

 「まぁまぁ。俺としては、嬉しいんだ。ほら、またこうして、みんなと戦えるんだろ?」

 「もう戦いたくなかったんでしょ?」

 「そりゃそうだけどさ。でも、どっちかって言うと、流されたくなかった、のかもしれない。」

 「流されたくなかった?」

 「うん。この世界に生まれて、幸せだった、って思う。だけど、私は、自分だけしか考えてなかったけど、でも、周りも大切だ、って思うんだ。」

 「へぇ。あのシオンがねぇ。」

 全然泣いてないのに、ハンカチで目をぬぐうしぐさをするリーゴ。

 「私は、今の家族も友達も大事で、私のせいでサーミヤがやってきて、彼らを泣かせたら、許せないって思う。」

 「うん。」

 「だから守る力が欲しいし、実際前世の力があってよかったって思った。あいつが来るなら、絶対いるから。それに・・・」

 私は、二人に目を向ける。

 見たことのない優しい顔をしているのは、この世界が優しい証拠か、なんて、思ったりする。

 「それにね、私は、吉澤詩音は、リーゴもマリーブも大事です。だから守らせてください。」


 そう、二人はシオンの時から、詩音になっても、ずっと見守ってくれていた大切な人だから。私は、深々と頭を下げた。


 しばしの沈黙。


 そして。


 「もーらい!」

 「私も。」

 リーゴとマリーブが何故か、私の食べかけのケーキにフォークをつっこむ。

 あー!私も食べたかったのに!!

 二人の一口はでかすぎて、もう皿は空っぽだ。


 「へへん。シオンのくせに生意気なのよ。」

 「これは罰に没収。」

 ごくり、と飲み込んだ二人は、口々にそんなことを言う。


 そして・・・


 女3人。

 こんな深刻な話ばかりをしているわけじゃなく。


 アメリカのこと、イタリアのこと、は、食べ物とかファッションの話ばかりで。

 詩音だって、それなりにお金持ちの子だからね、どっちも行ったことがある、というので、対抗してそんな話をしたり。

 どうやら、日本、という国は、そんな海外の魔法的な組織からしても、特殊な場所だって、愚痴られたり。

 うん。

 どうやら日本の霊的結界、というのは、西洋とは異なる体系で構築してるらしく、私の存在は、その結界のせいで見つからなかった、のだとか。

 見つけるのに5年もかかった、と、どれだけ探していたかを、大いに愚痴られたり。


 まぁ、飛ぶ飛ぶ、話は飛ぶ。

 私の肌や髪のきめ細やかさに怒ったと思えば、ドラゴンと龍の話、ってどういうことかって感じだけど、まぁ、これは、いや、これが、女子会ってやつなんだろう。

 前世でも、何の話だ?ってついていけなかったし、現世だって姉や双子に限らず、女子トーク、なんてのはそんなもんだと、理解している。かくいう私も立派な女子、なんだけど、前世云々関係なく、皆の話のスピードについて行けず、ほぼほぼ聞き役で、請われたことを答える程度、なのは、死んでも変わらない。


 けど・・・


 物騒な話。

 怪しげな話。

 ファッション。

 恋バナ。

 エトセトラ・・・・・

 次々と変わる題材に、話は尽きず。

 楽しい楽しい時間は瞬く間に過ぎて・・・・


 「あ、詩音、鳴ってる。」

 マリーブに言われてスマホに出ると、

 「一体どこにいるの?何時だと思ってるの?!」

 なんていう、姉の声にドキリとし・・・

 慌てて、一応は先生のリーゴに連れられ帰宅。なんか適当に言い訳してもらったようで、おとがめもなく・・・


 ああ・・・


 布団にくるまれて、マリーブの拉致から始まった、今日一日いや昨日からの2日間を振り返る。

 なんだか・・・・

 えらく遠くにきたもんだ、詩音は、シオンは、そう思いつつも、ああ悪くない、悪くない人生だ、そう、神に語った、ように思う。

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