第51話 おっさん、拾いました

 「ちょっとええか?」

 6月に入って例年どおり梅雨入りした、とある雨の日、久しぶりにタツが、私のクラスに顔を出した。


 そういや、しばらく平穏で、良い感じに緩い日々が続いたよね、と、私はその時思った。考えてみればややこしい話は全部タツから始まったんだよね。

 今まで忘れていた、ちょっと面倒な日々を回想する私。


 そう。

 ゴールデンウィークが開けてすぐに、英会話教師として赴任してきたリーゴ。続いてやってきたマリーブ。

 教師だから、リーゴはたまに学校で顔を合わせる。ベティ先生の授業もあるしね。

 マリーブとは、あの拉致られた日の2日後にチラッと会ったけど、どうやら連れ去られたよう。なんでも、所属しているバチカンの祓魔ってところは、人手不足、らしい。日本に来たのも、ステイグマとかいうのが現れたおばさんのチェック要員、だそう。なんでも身体の一部からイエス・キリストが処刑されたのと同じ杭のあとから血が出たり、十字架とか薔薇の形で血が出たり、とにかく、怪我がないのに血が出るって言うゾッとする現象のようで、信仰の証の何たらが影響する、なんて言われてるそう。

 いやいや、ある日突然血が流れ出すとか、なんのホラーよ、って思うけど、現象に名がつくぐらいメジャなー話らしく、その真偽を確かめるために日本に来たんだそう。まぁ、そのチェックの人員に強引に入り込んだ、ともいう。

 そんなんで、マリーブとは、今のところそれっきり。

 といっても、毎日、SNSで連絡は来るけどね。それによると、今日はイタリア、今日はドイツ、と、日々移動してるようで、本当に忙しいみたいです。


 ベティ先生、こと、リーゴとも似たようなもん。

 授業のないときは拘束のない契約かつ、もともと2週間に一度、固めて授業がある感じのプログラムになってる。で、どうやら同じく世界中を飛び回ってるらしい。

 ちなみに、英会話は、ネイティブの先生による会話と、日本人教師による解説の授業が交互、なんだよね。英会話用グラマーって、よく意味わかんないよね。



 で、私はっていうと、今までどおり、普通に女子高生やってます。

 お姉ちゃんが生徒会長で、その生徒会長権限とやらで、双子とピーチ、タチバナ君なんかは、生徒会のぱしり要員として組み込まれたみたいです。なんとか委員、て言ってたけど、ようはおねえちゃんの使い勝手の良い部下、だよね。

 私は、そういうのに向いてないから、って、そのメンバーに招集はされてません。

 このあたりは中学の時とまったく同じ。

 ただ、高校になって変わったのは、みんなが生徒会でいないときに、中川さんが側にいることが多くなった、かな?


 で、梅雨に入って、雨がしとしと降る、今日。

 久しぶりに顔を見たタツが、私を見て「ちょっとええか。」と、呼び出したよ。

 なんだか、ちょっぴり困った顔をしているのが気になって、久しぶりに二人で屋上に。

 なんでか、二人でこそこそ話す時は屋上、ってなってきたね。

 ていうか、雨の中屋上は・・・・


 って、ハハハ、ここだけなんで雨が降ってないのかな?

 私は、ジト目でタツを見る。

 「なんでそんな目、するかな?雨に濡れたらかなわんやろ?」

 ・・・

 どうやら龍神様の力で、ここだけピンポイントに雨が降らないようで・・・・



 「端的に言うとやな、小百合が、おっさんを拾ってきた。」

 ?

 「えっと・・・」

 何を言ってるのか分かんないんだけど・・・小百合?

 「なんや覚えてへんのか?こっちでの儂の世話係や。寺で会ったやろ?」

 タツの世話係・・・って、ああハンバーグの?

 「ま、ええわ。儂が宿にしてる青龍寺の娘でな、気のええやつ言うたら、まぁええねんけど、捨て猫やら捨て犬やらすぐに拾ってくるんや。それ知っとるやつも多くて、よう境内にいろんなもん置いてく腹立つやつも多いねんけどな。まぁ、それはええとして、ほんでな、一昨日の雨の日や。河原でおっさんがおってな、拾ってきたらしい。」

 ・・・

 話が掴めないのは、私がぼんやりさんだから、ってわけじゃないと思うの。


 「そいつがな、お前に跪いとった、あのおっさんやねん。」


 は?


 私は、マジマジとタツを見た。


 「あの、異世界から来たとかいう、おっさんや。」



 マジか・・・・


 タツの言うのはベリオのことだろう。

 少なくとも私は、異世界人を、討伐隊以外に知らないし、討伐隊で男はベリオだけだ。私は元は男だけど、いまはこんなだし、もう一人の男であるナオルは、普通の輪廻に入ったという。


 「でな、事情がややこしそうなんは分かっとるんやけどな、会いに来てくれへんか?あのおっさん、言葉通じへんみたいやし、なぁ。」

 え?

 この前は話、してたよね?

 「あんとき、あんさんらは知らん言葉で会話しとったやろ?儂はあんさんの心を通して会話が大体分かったけどな。」

 え?

 「なんや、気付いてなかったんかいな。前世のときの言葉ちゃうんか?」

 そう、だったの?


 「まぁ、なんや。儂のことは覚えてたみたいやし、簡単な念話は出来んねん。そやけど、なんであんなとこにおったとか、詳しいことはわからん。そんでな。過去の因縁あるかしらんけど、ちょっと来て貰われへんやろか?」



 ベリオ。

 誇り高き騎士。

 それが雨の中、犬猫のように拾われた?

 ちょっと頭が追いつかない。

 でも・・・・


 シオンには縁が浅くない人だし、まったく関係ないタツや小百合さんに迷惑かけるのも、って思うと、会いに行くしかないよね?

 私は仕方なく、タツに同行することにしたよ。


 いったい、なんでこんなことになってるんだろう。

 いつだって、きっかけは、タツ、・・・・いや、他人のせいにするのはダメ、だよね。

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