第49話 女子会

 某シティーホテル1室。

 学校から寮として与えられているその部屋で、それぞれがいくつめかになるケーキを食べつつ、話す内容は映画かマンガか。


 私、普通の女子高生。ただし前世では異世界のSランク冒険者。ちなみに男。

 金髪緑目(ただし髪の毛は地球人っぽく染めてるだけ)の英会話教師。とは名ばかりの表向きCIAで本当はフリーメーソン所属の魔法使い。

 紫の髪と目で、ロリッ子かと思いきや、なんかちょっとお姉さんな雰囲気を出して来た、マッドな魔法使い。バチカンの祓魔所属、らしい。


 私もなんだかんだで3つ目のケーキを頬張りつつ、チラチラと二人を盗み見る。

 二人は、今、無言で、仇のようにケーキをつつき、頬張っている最中だ。二人とも私の倍は食べているよね?


 どうやら、二人は私の言葉がまったくもって気に入らなかったようで・・・



 前世で不幸にも殺された俺は、ホワホワと生きたい、と、神様にスローライフを望んでこの世界=地球の日本に転生した。もう戦いも、裏切りも、お腹いっぱいだ、その思いで願ったんだけど・・・

 無事地球に転生した私は、10年間、何も知らずのほほんと生きてきた。そして前世を思い出したあとも、ずっとただホワホワと生きて、いや、生かされていた。

 そう、何も知らず、何も見ず、ただただ流されるままに・・・・


 ただ流されるままに生きた、というのは前世でも同じだ。環境が違うってだけで、自分じゃ何にも変わっていない、最近、そう思うようになったんだ。


 高校に入って、龍神だというこの世界の神の一柱と出会い、この世界の魔物と言っていいあやかしやなんかと戦ったり。

 そして今回、前世でのその後を知ることとなって・・・



 目の前の二人は、前世で最も信頼していた、そんな仲間だった。

 俺は最強なんて言われつつ、剣で彼らを守ったけど、でも、それぞれの魔法でいつも本当に守られていたのは俺で、人間関係なんかでも、俺はさっぱりだったから、きっと守られていた、んだと思う。

 あの世界では、男が女を守る、なんていう発想はなく、ただ強い者が弱い者を守るというのが常識の世界だった。

 俺は幼い頃からぶっ壊れたステータスを持っていたから、常に守ることを求められ、それを拒むと犯罪者のように扱われた。だから守られたことなどない、なんて思ってたけど、よくよく思い返すと、討伐隊のみんなからは、俺はずっと守られていたのだろう。そして、俺も、何も思わずそれを受け入れていたんだ、と、思う。


 俺はただただ流されるままに、知らず皆に守られながら、戦い、勝ち、そして、殺された。殺されて、他を思うことなく、ただ静かに休みたい、そう自分のことしか思わなかったんだけど・・・

 俺は、チラッとまたまた二人を見る。

 この二人は、死してなお、俺を見守ろうとしてくれていて、そして今なお現在、俺を追ってきた魔王から黙って守ろうとしている。


 だけどね、それだけじゃ、まもられるだけじゃダメだと思うの。

 そう。私、詩音は弱い、と思う。小さくて柔らかくて、みんなに見守られなきゃならない、か弱い女の子、かもしれない。

 でも・・・

 詩音の中にはシオンがいて、力もちゃんと戻ってる。

 戦士としてシオンとして、誰よりも強い力を持っているから、ただただ守られるだけの存在じゃないよ?


 見た目?

 確かに下手したら小学生に間違えられちゃう女の子。

 だけど、だからって流されるままでいたくない。

 自分でちゃんと決断して、大事な人を、大事な世界を守りたい、そう思う。

 シオンのように流されるだけじゃなく、今までのように流される詩音じゃなく、自分でちゃんと考えて行動できる詩音として、シオンの力を使おう、そう思うんだ。だって、私はもうJK。ちゃんと自分で将来を考えられるだけの頭があるもの。



 「あーあ、もうやだやだ。私のシオン坊やが、なんか、賢そうな目をしてる~」

 沈黙に耐えられなくなったのは、おしゃべりのリーゴだった。

 大人しく守られてろ、という二人に拒否の言葉を発した以降、おかんむりな二人だったけど、私の気持ちが強いって、さすがに覚悟したんだろうね。

 「ん。シオンの時なら、とっくに折れて、言うこと聞いてた。女の子になってしたたかになった。」

 フォークをくわえながら、マリーブもそう言う。

 「まったく、もう。いい詩音ちゃん。あなたは生まれ変わって平凡な女の子なの。あなたに戦う術はないのよ?」

 「この世界の魔法は網羅してる。どう考えても私たちの方が強い。世界を渡って弱体化した魔王なんて、二人で十分。」

 リーゴもマリーブも重ねて言う。


 けどね。


 自分のステータスを見る。


 すべて15で揃った詩音のステータス。

 でもこの世界に来て新たにグレーのタブが現れた。

 プルダウンしてグレーを反転させる。


 ブワン。

 独特の感じに包まれるのも、とっくに慣れた。


 二人の顔が驚愕と、多分、喜色に包まれる。


 「俺は戦える。ストーカー女にこの世界を荒らされてたまるか。」

 にやり、とニヒルに笑ったつもり、だったけど・・・・


 「「シオン!!」」


 テーブルのケーキや紅茶をガン無視して、俺に抱きついてきた二人を受け止めるには・・・・座っていた椅子は、なんとも貧弱、だったようで・・・・

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